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夢幻の書  作者: こばこ
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第十章「バンナ家」③

「あの襲撃は、失敗……」

 フローラが噛み締めるように反復する。そんな彼女に、ロディは頷きかけて、

「ああ。あんたたちが生きて逃げたからな。ラージ家の筋書きは、たぶんこうだ。

 まず反逆罪でラズリー卿を追い詰める。あんたたちが内密にラズリー卿の別邸にいたことは、当然奴らは知っていた訳だが、知らなかったことにする。なんせ、他に知ってる奴はほとんどいなかったわけだからな。とぼけることは可能だろう。追い詰められたラズリー卿は、あんたたちを道連れに、邸に火を放って自決する。

 三人の死を確認した後に、ラージ家はこう言うんだろう。皇太子と皇女がいたとは思わなかった。助けようとしたが間に合わなかった。ラズリー卿は状況が芳しくないことを悟り、人質にするために皇太子たちを手元に置いていたのだろうか。なんという悲劇。そして、その悲劇のあと、自分たちが亡き皇太子の意思を継いで立ち上がる。……今となっては推測するしかないけどな」

「だが、それは失敗した」

 セディアが鋭く告げる。

「ああ。それも、二重三重にな」

 ロディが答える。

「何?」

「ラズリーさんは、たぶん無事だ」

「本当!?」

 ラスクの発言に、フローラが前のめりになる。ラスクは落ち着いて頷いて、

「ああ。ついでに言うと、王都にいたキノ家の人間、トロべさんたちも、たぶん無事だ」

「たぶんというのは?」

「キノ家関係者は、全員行方が分からない」

 ロディの答えに、セディアの表情がさらに締まる。

「どういうことだ」

「ラズリーさんは、俺たちが使った坑道から逃げた可能性が高い。たぶん、にいさんたちも」

 兄さん?小さく首を傾げたウィンに、ロディが小声で、あいつの手の者だ、と補足してくれた。なるほど、セディアの手の者、ラスクからしたら先輩の、兄さんか。ロディは今度は全員に向けて、

「それはまあ、予想通りだ。予想外なのは王都の方だ。王都のキノ家関係者は、恐らく誰かにかくまわれている。ラージ家が捉えていたら、あんたらやラズリー卿を誘き出すために公表されているはずだからな」

「匿っている『誰か』が問題だな」

 セディアの発言に、偵察に行った二人が力強く頷く。

「たぶん、バンナ家だ」

「バンナ家……」

 ラスクの答えに、セディアは考え込んだ。


「ねえ、それで、お父様は?」

 セディアの思考を妨げて、フローラが問うた。

「え?」

 急な話題の展開に、ラスクが聞き返す。

「お父様よ。容態はどうだったの?」

 フローラはずっと尋ねるタイミングを計っていたのだろう、少し焦れた様子で尋ねた。ああ、そうだな、とつぶやいてから、ラスクが、

「それについては、はっきりした情報は得られなかった。ラージ家が国軍を動かしたから、何か動きがあったのは間違いないと思うんだが、正式発表はされてないみたいだ。天領の民は何も知らなかった。たぶん……」

「正式発表しない方が都合がいい奴らがいる」

 ラスクの言葉を、セディアが継いだ。そして、さらにロディが続きを紡ぐ。

「ああ。もしも皇帝が亡くなっていたら、すぐさま後継ぎの話になる。一番注目されるのは皇太子だ。その皇太子を手中に収めてから発表したいと、どの陣営も考えるだろうな」

 しばし、沈黙が降りた。ギャア、と遠くで鳥が一声鳴いた気がした。かさりかさりと、落ち葉の舞い落ちる音が聞こえた。


「いいか。皇帝がどうなっていようと、今回の件で、いちばん利があったのはバンナ家だ」

 頃合いを見計らって、ラスクがまた語り始めた。

「あんたら二人は行方不明。キノ家は反逆の疑いをかけられていて、言い訳すらさせてもらえないまま、こちらも行方不明。ラージ家は、あんたらを取り逃したことで、正義を失った。まだ証拠がないから、糾弾はされていないが、時間の問題だ。

皇帝の病に加えて、主要なふたつの勢力が勢いを失った。そして……」

「第三勢力のバンナ家がまつりごとの主導権を握った」

 ロディが重々しく告げた。そしてラスクが、軽く首をすくめてから言った。

「あいつ、ミトチカ城にきてたぜ」

 パッとセディアが顔を上げた。驚きなのか衝撃なのか、その深緑の瞳が見開かれている。ラスクが頷いて、

「シュリ本人がな、出張ってきていた。千載一遇の好機を、他人に任せてられんってこった」

と、口の端で笑った。

ロディが語る。

「チクシーカ襲撃の真相を語れるのは、今となってはあんたらだけだ。ラズリー卿本人は、疑惑をかけられている側だから、言い分を受け入れてはもらえないだろうからな。だから、あんたらを最初に手中に収めた勢力の主張が通ることになる。仮にそれが、首だけの姿でも」

その語った言葉に、ウィンの斜向かいでフローラがぞっと身震いするのが見えた。

「バンナ家の主張としてはこうだ。『公卿会議の決定とはいえ、ラズリー卿を捉えるために皇太子と皇女を害そうとしたラージ家の罪は重い!我がバンナ家がお二人を救い出し、真相を明らかにした上で、関係者に適切な処罰を下さねばならん!』」

 ロディが演技がかった声で続けた。その言葉に、

「この処罰ってのは、場合によってはラズリーさんもだ。上手くいけば、バンナ家は、キノ家もラージ家も潰せるんだ」

と、ラスクが付け加える。

「でも、キノ家やラージ家が倒れても、皇位継承権は変わらないでしょう?」

 疑問を呈したのはフローラだ。

「どうかな。叔父上がどんな罪名をつけられるかによるだろう。それに俺たちを共犯として位置付けることもできる」

セディアの答えに、ラスクも頷いた。

「同じように、ラージ家の皇子皇女にもな。そうしたら、皇位はバンナ家のものだ」

またしばらく、それぞれがそれぞれの思考を巡らせた。

お久しぶりでした。次はもう少し早くあげたいと、思ってはいます。

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