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夢幻の書  作者: こばこ
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第九章「ふたりの夜」②

 やっぱり昼間のはそういう話し合いだったのか。ウィンは、セディアとラスクが休憩時に密談をしていたことを思い出す。

「ここからあと半日から一日ってとこだ。そこで」

 セディアは言葉を切ってラスクを見る。少年が頷いて先を促す。

「偵察隊を出す」

 偵察隊……ウィンの心臓がどきんと鳴る。

「二手に分かる。この辺りで、安全に数日間身を隠せるところを探して、そこを拠点にする」

 先程のセディアの宣言を受けて、ラスクが説明を始めた。

「お嬢さんとこいつと護衛が残り、偵察隊は天領まで行って、様子を探ってくる。皇帝の容体はどうなのか。市民にチクシーカ襲撃はどう思われているのか。城は……バンナ家は、こいつを受け入れるのか。受け入れられそうなら、城主に会って迎え入れる段取りを頼んでくる」

 ラスクがこいつと指すのはセディアである。彼らの会話を聞いていると、セディアが皇太子殿下であることを忘れそうになる。

 四人が頷くのを待って、ラスクが続ける。

「偵察隊は明日の夕方に出発して、夜に移動する。昼いっぱい情報収集して、できれば夕方には城主に会う。また夜に移動して、明後日の朝にここに帰ってくる」

 ウィンは、ラスクの語った偵察隊の動きを頭の中でなぞる。他の面々も同様にしているのだろう、しばし沈黙がおりる。

「そこで、相談なんだが……」

「俺に来いっていうんだろう?」

 言いにくそうに尻すぼみになったラスクの言葉を継ぐように、ロディが口を出した。

 ラスクの少し驚いたような表情に、ロディは、わからいでか、と肩をすくめた。

「お前が偵察に行くことは確定している。敵味方の情勢を把握してるだろうし、上の役人にもある程度顔が通じているんだろう?それに、これから二人を預けるのだから自分の目であちらの状況を見ておきたい。ただ、一人で行くと、万が一お前がやられた時に情報を持ち帰る人間がいなくなる。一方、偵察に行くにはこいつと」

 ロディもセディアを『こいつ』扱いして親指でぐいと示す。

「お嬢さんから離れなくてはならない。それはそれで不安が残るから、残すのは信用できる人間だけにしておきたい。

 つまり、残るのはこいつとお嬢さんとシルヴィー、ウィン。偵察隊にお前と俺、しかない。それに」

 ロディは今度はウィンの方を見て、

「俺たちとしてもそれが最上策だ」

 そうなの?ウィン自身は、なんとなく自分が偵察に行くつもりだったので、意外に思って兄を見る。

「自分たちがこれから乗り込む場所だ、俺も現地を直接見ておきたい。それに、」

 ロディはウィンから視線を外してラスクを見る。

「ウィンが行ったら、お前がやばくなったら助けそうだ。共倒れの危険がある」

「そうだな。それは望ましくない」

 あからさまにけなされている。貶されているが、二人の推測は当たっていると、自分でも思う。たぶんセディアを助けた時の二の舞になってしまう。


「こっちは今のところ敵に見つかっていない。シルヴィーの力もあるし、きちんと連携できれば、ウィンがやられることもそうそうない」

 そう言ってロディは、ちらりとセディアを横目で見遣る。

「嫌味だな。分かってるよ」

 セディアが苦々しげに発した言葉を無視し、ロディはまたラスクに話しかける。

「お嬢さんもウィンも、ここにいる方が安全だ。そして、俺とお前は基本的には別行動を取る。俺は、自分の目でミトチカを見て、情勢を判断して、お前に何が起ころうと、さっさと帰る。それでいいんだろう?」

「ああ。頼もしいよ」

 面白くないウィンとセディアを置き去りに、合理的な二人はさっさと話を進めていく。


「馬は連れて行くだろう?」

「そうだな。なるべく素早く行って素早く帰りたい。それに、森の中にずっと何頭も馬を繋いでおくと、気付かれやすい」

「目的地の手前の、手頃なところに繋いでおくのがいいな」

「そうだな。馬で飛ばせば半日くらいだろ。だからやっぱり」

 二人は頷き合う。

「明日の夜、つ」

「明日は、昼までに拠点を決めて、作戦会議、それから仮眠だな。今日の見張りは……」

 ロディがぐるりと他の面子を見渡す。

「私です」

 静かにシルヴィーが答えた。

「よし。それなら、今日はしっかり身体を休めて、明日以降に備える。細かいことは、明日、拠点を決めてからだな」

 ロディがそう言って、話は終わった。誰からともなく立ち上がり、食後のそれぞれの仕事に取りかかった。

偵察隊!

不定期ですが、週に1〜2回は更新予定です。

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