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夢幻の書  作者: こばこ
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第八章「嘘」③

「まず、自然を司る三人の女神が存在する。あんたは疑ってたが、存在するもんはするんだ。大地の女神、海の女神、風の女神。

 そしてそのそれぞれに、対になる憑座よりましがいる。大地の憑座、海の憑座、風の憑座。憑座ってのは、女神が地上を覗く『目』の役割をしていて、女神は憑座が見聞きしたものしか地上での出来事は知覚できないらしい。大地の大きな動き……地響きが起こるような移動とか戦争、大雨なんかは、俺たちが皮膚で感じるのと似たような感覚で分かるらしいが、それだけだとつまらない。だから、女神は地上の出来事を教えてくれる自分の憑座を大切にする。大地の憑座の場合は、大地に干渉できる力を与え、大地から力……活力というべきかな、そんなものを分けて与える。相談に乗ってくれることもある。

 今回、お嬢さんを助けるよう、海の女神が大地の女神に頼んだのもそういうことだ。あちら同士は、自由に話ができるらしい。

 一方で、女神たちは憑座以外の人間に対してはほとんど無関心だ。残酷と言ってもいい。自分の憑座が激しく心を痛めるような身近な相手を除いては、人間が何人死のうが生きようが、女神たちは知ったことではない」

 そう言って、兄は同意を求めるようにフローラを見た。そうだというように頷いて、考えながらフローラが口を開いた。


「オセア……海の女神は、大地の女神といつも喧嘩しているけど、なんだかんだで仲が良いみたい。ココシティでも、わたし……海の憑座のために、大地の女神は動いてくれたもの。でも、風の女神とは、そうじゃないみたい」

「『あの子は、何を考えているか分からない』」

 ウィンが口を挟んだ。大地の女神の物真似をしているのだが、通じる人はいない。

「大地の女神も、そう言ってるの?」

「うん。『海のは気取ってて鼻につくけど、可愛げはある。風のは何を考えてるか分からない』って」

 フローラは、ウィンの言葉を聞いてくすくすと笑った。

「『大地のかたは、荒っぽくて品性のかけらもないけど、正直でいいんじゃない』らしいわよ」

 それを聞いてウィンも笑ってしまう。確かに、ディージェはそんな感じだ。

「ほんとに仲がいいんだな。そして、今も俺たちの会話を聞いて、見て、参加してるってことか?」

 セディアが憑座二人の会話に割り込んだ。

「うん、そう」

「お兄様が憑座について教えてくれって言ったあたりから、ずっといるわ。楽しそうに」

「ん?いたりいなくなったりするものなのか?」

 兄が妹に聞く気安さで、セディアが尋ねる。フローラが、ちらりとウィンを見る。それを受けて、

「いないって言うか、見てないというか」

とウィンが答える。

「今近くで聞き耳を立ててる、とか、興味ないからどこかに行ってしまった、とか」

「それはどうやって分かるんだ?憑座にしか見えないやつが俺たちの近くにいるってことか?」

 憑座たちの答えに、セディアは混乱しているようだ。なんだか、素直な人だなあ。

「違う。女神様に実体はないんじゃないかな?」

 ウィンの答えに、フローラも、

「わたしもそう思うわ。気配を感じるだけよね?」

「実際にはいないのに、気配を感じる?」

 ますます分からないといった様相のセディアに、ロディが少し笑いを含んだ声で、

「諦めろ」

と言った。

「その感覚はおそらく本人たちにしか分からない。俺はウィンとずっと一緒にいるが、女神の気配を感じたことはない。当然、いなくなる時も分からない」

 セディアは、ロディの話を聞いて、考え込む顔をする。

「さっき、女神たちは憑座以外はどうでもいいという話があった。例えば、俺はどうなんだ?フローラの兄だ。俺が危なかったら、海の女神は助けてくれるのか?」

 たぶんこの辺りの答え方なんだろうな、と思ったウィンは、ロディを見る。大当たりだったようで、ロディがすぐに答えた。

「兄だという血縁関係だけでは助けてもらえない。たぶん、あんたを失った時、お嬢さんがどれだけ悲しむかによるんだ。お嬢さんにとってあんたが大切な人なら、助けてもらえることもあるだろう。まあ、お嬢さんは海の憑座だから、海で危ない時に限られるけどな」

 フローラも、ロディの言葉に頷いた。

「お兄様なら、たぶん助けてくれるわ。お兄様のことはいつも、わたくしからお願いしているし」


「あんたは?」

 セディアは、しばらく考え込んだあと、ロディに向かって尋ねた。

「俺?」

「ウィンの兄として、大地の女神に助けてもらったことはあるのか?護衛を生業としてたなら、大地の上で危うかったこともあるんじゃないか?」

 彼の言葉に、ウィンは落ち着かなくなる。落ち着かなくて、兄を見た。

 兄は、頷いて即答した。

「ある」

「ある?どういう時に?」

「二人ともが危なかったときに、二人ともを助けてくれた」

「ふむ……」

 セディアはまた考え込む。彼は、自分が納得するまで考えてから口を開くらしい。沈黙が気にならないのだろうか、とウィンは思う。それとも、彼のような立場だと、周りが待ってくれるのは当たり前なのだろうか。

次回更新は9/8(水)の予定です。

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