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夢幻の書  作者: こばこ
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第七章「皇太子セディアの長い話」④

「正直に言う。俺を庇ってあんたが斬られた時、俺は『これでよかった』と思った」

 セディアはウィンに向かってそう言った。

「あんたたちに直接危害を加えたらフローラが怒る。あんたが自分の意思で俺を助けて、言い方は悪いが、勝手に斬られた。面倒ごとが終わる、よかった、ってな。

 そして」

 視線をロディに向ける。

「あんたが彼女を助けに来て、二人まとめて殺してしまおうと思った。フローラが来なかったら、俺はきっとそうしていただろう」

 むう。不服な気持ちが顔に出る。

 私が毒で苦しんでいる時に、そんな事があったのか。

「けれど、そのあとの、フローラの対応を見ていて少し考えが変わった。護衛が命を張って自分を守ることが当たり前のはずのフローラがあんたを気遣い、助けていた。その後も……妹があんな風に他人の世話ができるとは知らなかった。

 言っとくが、フローラが特別冷たいわけじゃない。俺たちは立場上、人が自分のために死ぬたびに心を痛めていたら生きていけない。これまで死んでいった奴らのためにも、俺たちは前に進まなくてはならない。そんな中で育った妹が、あんただけは必死に助けていた。そのことについて考えていた」

 彼はそう言って、妹を眺めた。

「今まで俺たちを助けて倒れていった者は、俺たちに仕えていたものばかりだ。給金をもらい、家族を養う代わりに、己の命をかけて働く。あるいは、命をかけて働いた結果に応じて出世をする。だけど、あんたたちは違う」

彼はそう言ってウィンに向き合った。

「あの襲撃の夜、俺を助けてもあんたに利はなかったはずだ。むしろ、自分たちを危険視している俺が、敵の手で死ぬ方が良かったんじゃないか?俺があんたの立場ならそう考える。だから、聞いた。なぜ俺を助けたのか、と」

 ウィンは頷いた。うん、分かってる。


「あんたは、分からない、と言った。ひとが狙われてるのに放っておけるのか、と。俺は放っておける。放っておかなくてはならない。今の俺のこの命は、多大な犠牲の上に成り立っているものだから。あいつらの死を無駄にする訳にはいかないから」

 そう言う彼の表情に、ウィンはふと違和感を感じた。無表情を装っているその顔に、誰かを思い出している気配が浮かんだ気がした。誰か、大切な人を亡くした過去があるのかもしれない。

 表情に出した自覚はないのか、セディアは続ける。

「だけど、最初からあんたたちは違ったんだな。何も見返りがなくても、追われてるフローラを、皇女とは知らずに助けた。明日をも知れぬ身の俺を、自らを顧みず助けた」

「坑道を出た、あの日の主張を信じていいんだな?フローラを、憑座仲間だから助けた。本当に、そうなんだな?」

 ウィンもロディも、何も言わなかった。何も言えなかった。

 それをどう捉えたのか、セディアは語り続ける。

「そうなると、俺には憑座仲間というものが分からない。フローラがあんたを呼び出したというのも、本当には納得はできていない。憑座の力を使えば、一小隊くらいは敵じゃないと言った、その力が実際にどんなものなのか、きちんとは分かっていない。

 だが、そういうものが分からないままでは現状を打破できないというのは、先日、嫌というほど理解した。俺が、憑座の力を理解して、最初から計算に組み込んで考えてたら、あんなことにはならなかった。

だから、」

 そう言って、彼はウィンとしっかり目を合わせる。

「教えてほしいと思ったんだ。憑座のことを。あんたたちのことを」

 眩しいほどまっすぐな言い分に、思いがけずまっすぐなその瞳に、ウィンは目を逸らしたくなった。


 セディアはふっと息を吐いた。

「それが、ここ数日で考えが変わった理由だ。端的に言えば、あんたたちを理解することが、俺たちの利につながると気付いたってことだ」

 利己的な言い方をしているが、きっとそれだけじゃないのだろうと、ウィンは思う。彼の口調から、ほのかに彼の苦しみが感じられた。自分のせいでウィンを――妹の仲間を、傷つけてしまった苦しみ。助けてくれた相手を助けられない立場にいる苦しみ。


 襲撃直前に、彼に諭されたことを思い出す。存外、優しい人なのかもしれない。


「さて次は、誰が味方で誰が敵かって話だったな?これは少し話がややこしい。どのみちしばらく出発できないから、長くなるが最初から話す」

次回更新は8/21(土)の予定です。

ですが、予定は未定です。

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