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夢幻の書  作者: こばこ
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第六章「夜」①

 順番に泉に水を汲みに行き、馬に水を飲ませる。彼らの野営拠点から少し離れたところに繋がれた馬は、気の向くままに下草を喰んでいた。

 坑道を出てから、あまり距離が稼げていない。今夜が危険だと、口には出さないけれど全員が気付いていた。

 火は焚かない。

 坑道から持ってきた干し芋や木の実を食べて空腹感をしのぐ。朝から長時間歩き、昼からは馬で走り続けた空腹には物足りないが、火を熾すことの危険性を考えたら仕方がない。

 腹ごしらえを終えた頃には、辺りはかなり暗くなっていた。お互いの顔は分かるが、その背後の森はすでに闇に溶けている。

「夜は、見張りが必要だな」

 ラスクが誰にともなく言った。まず反応したのはロディである。

「今夜は危険だ。確実に敵を感知できるようにしたい」

 ラスクがうなずく。セディアは、また傍観者に戻っている。

「シルヴィー、森の生き物の力を借りて、見張りはできるか?徹夜はつらいか?」

 ロディが、巫女を振り返って言った。シルヴィーは静かに首を振る。

「森の中でしたら、私はみんなから力をもらえます。流石に毎日とは言えませんが、二日に一度眠れれば十分です。変化があればみんなが教えてくれますし、見張りの役には立つと思います」

 穏やかな口調でとんでもないことを宣うシルヴィーを、一同は驚きを持って見つめた。

「ほんっとに、頼りになるな」

 ロディが、感嘆のため息とともに言った。


 例によって喧々轟々の末、シルヴィーとロディ、ラスクが夜通し見張りをし、ウィンとセディアとフローラがやすむことになった。

 半数にあたる三人が起きているなんて無駄だとウィンは主張したのだが、ラスクが夜通し起きていると頑として譲らず、それなら自分も寝るわけにはいかないとロディが言ったのだ。

 まあ、ロディは昨日よく寝たし、大丈夫だろう。彼も普通の人間の中ではかなり頑強な人だ。

 そして、もし夜中に追手が来た場合について、細かな打ち合わせをした。

 早めに察知できたら、フローラを木のうろに隠すこと。シルヴィーは彼女を守ることに徹すること。フローラが見つかってしまったり劣勢になったと思ったら、セディアとフローラが分かれて逃げること。その際、ラスクとシルヴィーはフローラに付くこと。どちらかが危うくても、もう一方は無視して逃げ切ること。などだ。

 追手に見つかるような事態になったら一蓮托生だ。今回は、喧々轟々にはならなかった。


「そんなことで、あなたは大丈夫なの?」

 話がまとまる気配を感じて、ウィンがセディアに尋ねた。ウィンとロディは元よりフローラの側だ。護衛もなく、一人でどうやって追手に太刀打ちするつもりなのか。

「敵方からしたら、俺とフローラは二人でひとつだ。どちらかだけ殺しても、あまり意味がない」

 セディアは淡々と答える。

 あまり意味がないのは、彼らが皇位継承権第一位と第二位だからだろう、とウィンは推測する。二人ともを廃さない限り、敵として想定されているラージ家の皇子皇女にお鉢は回ってこない。

「分かれて逃げることに成功した時点で、追手の目的は、少し変わるはずだ。殺すことから、できれば生け捕る方向にな。片方が逃げおおせた場合に備えて、人質がほしいだろう。迷いが生じる。

 そして、分かれて逃げることに成功したってことは、相手はそれほど多くない。囲まれてないってことだからな。多くて十人として、半分の五人が俺を追う。命をとることに躊躇いがあるなら、そしてフローラが逃げ切れそうなら、俺が命を落とす可能性は低い」

 そう言ってから、セディアは混ぜっ返すように、

「ま、十人なんて中途半端な人数で来る可能性は低いけどな。精鋭の闇の者が数人くるか、軍隊がくるか、どっちかだ。軍隊がきたら」

 ウィンに視線を向けてにやりと笑う。

「お手並み拝見といこう」


 ウィンとロディは手持ちの荷物で充分野宿ができる。馬屋にあった毛布やマントを贅沢に使ってフローラの寝床を作った。

 他の面々はともかく、フローラは野宿に慣れていない。最短でもミトチカまであと三日はかかる。逃亡生活を円滑に進めるには、彼女に疲労を溜めないことが肝心だった。

 フローラとセディアが、隣合って横になる。その横に鞄を尻にラスクが腰掛ける。彼は短弓たんきゅうを手にしている。

 彼らから十分距離を取り、武器の棒を抱いてウィンが眠る。その傍らには長槍を持ったロディ。二組の間に、シルヴィーが座った。

 彼女たちが準備を終えるのを待っていたかのように、初秋の冷ややかな夜が帷を下ろした。

次回更新は7/24(土)の予定です。

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