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夢幻の書  作者: こばこ
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第四章「坑道」⑥

「ねえ、シルヴィーにお願いするのはどう?」

 何度かセディアと無言のやりとりを続け、ウィンが折れた。ラスクとロディの議論にも結論が出そうにないし、これ以上意地を張っても消耗するだけだ。

 彼女の言葉に、フローラとシルヴィーが、驚いたように顔を上げる。ラスクとロディが、口をつぐんで考える顔をする。

 セディアは、ウィンだけに見えるように、それでいいと言うように頷いた。

 まったく何様なのか。あ、皇太子様か。


「シルヴィー、どう?」

 フローラがシルヴィーに尋ねた。シルヴィーは、それほど迷う様子も見せず、頷いた。

「皆さまがそれでよろしいのなら」

 彼が指示したことにも関わらず、セディアはシルヴィーの返事を聞いて、さっと顔をしかめた。ウィンがたまたま彼を見ていなければ気付かなかったくらい、僅かな間だ。

 だが次の瞬間には、元の表情に戻って

「決まりだ。ラスク、それで文句ないだろ」

と、少年を議論から退かせた。

 今のは、何だったんだろう。嫌悪とも侮蔑とも取れる表情だった気がする。彼が登場してからシルヴィーがほとんど喋らないことと、何か関係があるのだろうか。

 ラスクはロディの方を見て、

「こいつが納得するんならな」

と言った。

「俺は構わないが……」

 そう言ってロディは躊躇った。

「君は、それでいいのか?」

 ロディの質問に、シルヴィーは少し目を見開いて驚いたような顔をした。そして、はっきりと頷く。

「はい。私は、巫女ですから」


 結局、片方の横穴の奥にフローラを隠し、その前にラスクが立った。向かいの横穴の奥にウィン、前にはロディ。ウィンとしては、武器をとって戦えない場所に押し込められるのは不本意だが、仕方ない。彼女ならここから、大地を通じて援護することもできる。

 坑道には、敵の目標物としてセディアが立った。全員が武器を構え、息を整えたところで、シルヴィーがぐるりと彼らを見渡す。

「よろしいですか?」

 シルヴィーの問いかけに、ロディが頷いたのがわかった。彼女が扉に向かう気配がする。ガチャン、と金属音がした。

 扉が開いたのだろう、外の空気と強い光が一気に溢れた。


「大丈夫です、誰もいません」

 シルヴィーが告げる。あっけないくらい簡単に開いた扉から差し込む眩しい光に、一同の目が慣れるまでにしばらくかかった。

 ラスクが、ロディに向かって顎で外を示した。ロディの後ろからのぞいていたウィンは、この動作、さっきのセディアと似てるなあ、と思う。ロディは振り向いてウィンには一つ頷きかけると、逆らわず出口に向かった。

 シルヴィーとロディが、出口の周辺を調べる。

「うん、問題ない」

 ロディの言葉に、ラスクが歩み出た。セディアは続かず、腕を組んだまま壁にもたれている。ラスクが大丈夫と言うまで動かないつもりなのか。慎重だなあ。


「いいぜ、来いよ」

 ラスクがそう言うまでに随分時間がかかった。周囲の様子を、自分で念入りに調べたのだろう。その間、坑道にはフローラ、セディア、ウィンの三人が残された。

 時間がかかるのが分かっていたのか、セディアはラスクが出てすぐフローラを座らせた。そして、自分は、壁にもたれて腕組みをし、何事かを考えているようだった。

 今襲い掛かれば、勝てるだろうなあとウィンは思う。けれど、彼女はそうしなかったし、彼もそうならないことを分かっているみたいだった。舐められていると、言えなくもない。技術的にではなく、精神的に、だ。

 ラスクの言葉に、セディアはフローラの手を取って立たせた。そしてウィンを見、先に行けとばかりにまた顎で出口を指す。

 素直に従うのも不本意だが、議論するのもめんどくさい。

 背後に警戒しながら、ウィンは坑道を出口に向かった。

「わあ……」

 思わず声が出た。扉を出た先には、秋の昼下がりの美しい森が広がっていた。

次回更新は来週になるかもしれません。

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