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夢幻の書  作者: こばこ
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第四章「坑道」⑤

 この辺りの坑道は幅が狭く、二人が横に並べるかどうかだ。明かりが見える、と言われても、前にいる人々に隠されて小柄なウィンには前方が見えない。

 だが、出口がぽっかり開いているわけではなかろうし、扉の隙間から光が漏れているのだろうと思われた。


「横穴があるぜ。準備のいいことだ」

 出口近くに、坑道に対して垂直方向に掘られた一間いっけん(約一・八メートル)ほどの窪みを見つけて、ラスクが言った。坑道の両側に、向き合うように壁がへこんでいる。

「どうして、横穴があると準備がいいの?」

 フローラが尋ねる。

「出口に敵がわんさかいても、狭い坑道には一人ずつ入るしかないだろ?明るい所から来た、しかも気が急いてる奴らは横穴を見落とす。一列に並んだ敵を、横穴から攻撃するんだ」

 ラスクの説明を聞きながら、フローラとシルヴィーが左右の横穴に半身ずれたことで、ウィンにも視界が開けた。

 セディアとラスクが見える。その背後に、扉を縁取るように。

 ああ、明かりだ。


「多勢に無勢でも、戦えそうだな」

「内側に敵がいなけりゃな」

 ラスクはそう言ってロディを見た。いつの間にか、ラスクとセディアの剣は抜かれている。彼らの顔が、ウィンとロディの方を向く。

「こいつらがセディアを生かしておく理由がなくなったな」

 再び、男たちが睨み合う。昨日の戦い方からしても、ラスクはこういう狭い場所での方が本領を発揮する気がする。彼が立ちはだかり、セディアを逃すこともできる。やるなら今だということか。


「まあそう焦るな。外に敵がいなけりゃ、みんなで出られて万々歳だろ」

 ウィンの後ろから、ロディが軽くいなす。彼はウィンよりずっと背が高いから、彼女がよけなくても、ラスクと話ができる。

「誰が扉を開けるかが問題なんだよ」

 そのラスクが、攻撃的な口調で言った。

「お前が開ければいいじゃないか」

「嫌だね、開けた途端に前後から挟み撃ちに合うんだろ?」

「そんなことしないってば」

 ウィンは思わず口を挟んだが、ラスクは首を振って、

「俺はまだあんたらを信用してない」

「賢明だな」

 そう言ったロディが少し考える素振りを見せた。

「じゃあ俺が開けてやるよ」

「それは最悪だ」

「どうして」

「外の敵と合流されるじゃないか。敵がいなくても、逃げて敵の本陣に走るんだろ」

 ラスクも譲らない。

「ウィンを残して逃げるわけないだろ」

「中にそいつを残してるなら、なおさら挟み撃ちじゃないか」

 疑り深い二人の議論はなかなか決着しそうにない。嘴を挟みそうなフローラは、立ち止まったら疲れが出たのか、ぐったりと壁にもたれているし、立場的にラスクを止め得るはずのセディアは二人の論争を見守っている。シルヴィーは、黙ってフローラを見つめている。


 ん?シルヴィー?

 ウィンはふと、随分と長い間、シルヴィーの声を聞いていないことに気付いた。坑道に入ってから、いや、ラスクが飛び込んできてから、シルヴィーは一言も発していない。最後に聞いた言葉は……?

 皇太子に謁見する時の『お連れしました』かな?

 シルヴィーから目線を外して、ウィンは皇太子セディアを見る。目が合った。

 腕組みをしてなりゆきを眺めていた彼は、ウィンと目が合うと、口の端で笑って小さく肩をすくめた。そして、シルヴィーを横目で見て、再びウィンに視線を戻した。

 なに、今の?

 よく分からなかったのが表情に出たのだろう。彼は一瞬面倒くさそうな顔をし、それからゆっくりとシルヴィーを見て扉を見、またウィンに視線を戻した。

 ああ、なるほど。シルヴィーが開けてはどうかということか。確かに、シルヴィーなら敵に走る心配はないし、巫女の力で敵に抵抗できる。真偽のほどは分からないが『人として死なない』らしいから、何かあっても大丈夫なのかもしれない。

 あれ?でもこの人、フローラの力は認めていないのに、シルヴィーの力は知ってるの?

 ウィンには、彼の行動がどうも腑に落ちない。

 それに、そう思うなら、自分で言えばいいのに。

 ウィンが逡巡していると、セディアが再度くいくいと顎で、議論する二人を指した。

 私から言えということか。なんで?

 さすがに皇太子を顎で使うのはどうかと思ったから、手のひらをすっと彼に向けてウィンは意思表示をする。

 シルヴィーから言ってもらうのがいいと思うなら、ご自分でどうぞ。

 と、それを見た彼は首を振った。そして、再度、ウィンと視線を合わせたまま、シルヴィーを顎で指した。

 自分からは言いたくないってこと?

 もう、なんなのこの人!

次回更新は6/23(水)の予定です。

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