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夢幻の書  作者: こばこ
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第二部 第四章「日嗣の御子たち」③

「他に、意見はないのか?」

 全員が食事を終えた頃合いに、セディアがまた尋ねた。

「あるにはある。けど、言ったらまたお前が拗ねそうだから、どうするかな」

「いつ、誰が拗ねたんだよ」

「さっき、同盟にしとけって言われて拗ねてたじゃないか」

 なあ?と話を振られて、ウィンとフローラは苦笑いをする。ロディにも、セディアの心の動きは読み取られていたみたいだ。そうなると、この面子の前では彼の心情を隠す意味はないのだが、セディア自信はそれに気付いていない。

「拗ねてない。それで?」

「俺たちは、いつまで野宿生活なんだ?金がないのもあるだろうが、それだけが理由ではないだろう。誰を警戒している?」

「いや、最大の理由は金がないからだぜ。正直、先立つものがあるならたまには風呂に入りたい」

「そうなのか」

 そう言って、ロディがわずかに視線を泳がせた。ウィンは、兄が頭の中で算盤をはじいていることに気付いたが、彼が何も続けなかったので、彼女も口出ししないことにした。たぶん、彼の所持金と、私たち全員を宿に泊めて風呂に入れる費用と、その危険性を計算して、このまま野宿をする方に天秤が傾いたのだろう。ウィンがのんきにそんな金勘定をしていたところに、ふいに、

「本当は、裏切り者の目星がついているんじゃないのか。そいつを避けているんだろう?」

 ロディが重い問いを口にした。その問いを受けて、セディアも、表情を引き締める。

「目星とまではいかない。ただ、俺たちは相手方に風の憑座がいることを懸念している」

「風の憑座が?」

「ああ。もし敵が風の憑座だとしたら、本当に厄介だ。だって風の憑座は」

 セディアは、真剣そのものの顔で語る。

「風を操れるんだぜ」


 *


「風の憑座が、風を操れる……」

 ロディは、少し拍子抜けした様子でセディアの言葉を繰り返してから、

「それはそうだろう。ウィンは大地に干渉できるし、お姫さんは波を操れるんだから」

「あんたにしては、お気楽な意見だな」

 セディアは少し唇を尖らせて、

「真剣に考えてみろよ。敵に、風を操れる人間がいるんだぜ。森の中ならウィンや巫女の力で不審な人間は俺たちに近づけないが、その力が及ばない街に出ることすら、怖い。それに、万が一戦になってみろ。風の憑座は脅威そのものだ」

 ロディはセディアの言葉を聞くにつれ表情を改めて、

「なるほど」

 と頷いた。

「お前たちの今の計画だと、戦をしないための武力ということになっているが、兵が向き合うと何が起こるか分からないからな。もし戦になってしまった場合、確かに、風使いのいる城を攻めるのは至難の業だ」

「そうなんだよ。城壁から、風に乗った矢がわんさか降ってくる。火矢だって、相手は延焼の心配なく使えるだろう。洒落にならない」

 セディアはそう答えてから、

「それだけじゃない。風が使えるということは、毒も眠り薬も、思いのまま吸わせることができるってことだぜ」

 ぴんと来ていない表情を浮かべたロディに、セディアは、

「これはラスクの意見なんだけどな。忍びや暗殺者ってのは、毒や薬の知識に長けているんだと。吸った者を眠らせるこうとか、聞いたことあるだろ。風を使えれば、そういうのを怪しまれず効果的に使えるだろうってな」

「なるほど……」

 先ほどと同じ台詞を、先ほどより感嘆を込めて、ロディが言った。

「風の憑座が相手方にいるとなると、本当に脅威なんだ。だから特定できればよかったんだが」

 そう言うセディアの口調が急に非難の色を帯びて、

「こいつは、相手の情報を一切吐かない。風の憑座がどこにいるか、何を考えているか、教えない」

 ロディは、それはそうだろうと、むしろセディアの非難を責めるような表情で頷いた。が、セディアは論調を変えない。

「それだけならまだいい。こいつが、間諜かんちょうだったらどうする?こちらの情報が相手に筒抜けだ」

「そんなことはないだろう。巫女は、憑座を危険にさらすことはできない。こちらの情報を漏らしたら、ウィンもお嬢さんも危ない」

「その設定を信用するのか」

 セディアの目が、昏く光る。

「そうじゃなけりゃ、冬の山小屋にとっくに追手が押し寄せてるぜ」

「直接的に、憑座の二人に害をなす情報を漏らすことができないのは分かっている。だが、俺に関しては?」

「え?」

「俺は、女神たちからしたらただの人間だ。いや、その辺の石ころと同等と言ってもいいかもしれない。俺に関する情報まで漏らせないわけじゃないだろう」

「だが、そこは海の女神が……」

「その線引きが問題だと言っている」

 セディアの声が厳しさを増す。

「海の女神の静止と、風の女神の命令と、巫女にとって上位なのはどっちだ。女神や巫女にとって、フローラの身の危険と、俺の身の危険は、同等ではないだろう。フローラに危険が及ばない範囲で、俺だけを陥れることのできる情報が、何かあるかもしれない」

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