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夢幻の書  作者: こばこ
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【番外編】「冬」01

【前書き】

このお話は、第一部と第二部の間の出来事です。

本編がなかなか執筆・投稿できない中、1か月以上更新しないのは不本意なのでこちらをアップします。


このお話はもともと「冬のどんな出来事を経て春に至ったのか」を整理するために書いて保存していたものです。作者としてはたいへん気に入っているエピソードだったのでこの機会に日の目を見ることとなりました。


番外編は続くかもしれないし、続かないかもしれません。

 夢を、見ていた。

 苦しい夢だ。愛しい人を探して、探して、でもどこにも見つからなくて、身体が苦しくてもう探せない。そんな夢だった。

 ふと、身体の横で何かが動いた気がした。その気配が、彼の意識を浮上させた。

 彼は、うっすらと目を開ける。

 真っ暗だ。夜なのだろうか。

 屋外ではない。肌に寒さは感じないが、吸い込む空気は冷たい。

 ここは、どこだ。俺は、何をしていた?

 自分の座標を見失っていることに気が付き、急に恐怖を覚える。咄嗟に起きあがろうとするが、彼の身体は、わずかに震えただけだった。力が入らない。全身が重くだるい。夢の続きにいるようだった。


「気がついたか?」

 ささやくような声が、闇を震わせた。その声には聞き覚えがあった。

 ラスク?

 答えようとしたが、声が出ない。声を出すのにこんなに力が必要だとは、知らなかった。

 闇が揺れて、ぼんやりとした人影が近づいてきた火打ち石の音がして、火が灯った。

「油がもったいないから、少しだけな」

 そう言ったラスクの顔が浮かび上がる。

 ここはどこだ。俺はどうなったんだ。

 聞きたいことはいろいろあるけれど、相変わらず声は出ない。

 それでもラスクは全て察しているようで、

「ここは、あの山小屋。ウィンがいたところだ」

 ウィン。そうだ、俺はずっと彼女を探していた。求めていた。彼女は、彼女は今どこに?

 彼の表情が揺れたことに気付いたのだろう、ラスクはにやりと笑った。

「右、向いてみ?」

 右?頭の向きを変えようとするが、それは声を出すよりも困難だった。重い。

 見兼ねたのか、ラスクが手を貸してくれた。ず、と顔をずらして右を向く。くらりと目眩がしたけれど、それを堪えて、隣にある灯りを背負った影の正体を見極める。

「ウィン……」

 今度は、微かに空気が震えた。

「そういうことだ」

 ラスクの声は、ほとんど耳に入っていなかった。

 身を捩れば触れそうなほど近くに、恋焦がれた人の顔があった。ぐっすりと眠るその口は僅かに開かれ、そこから漏れる柔らかな寝息が彼の顔にかかる。

 彼女は、彼の隣で、彼の方を向いて、眠っていた。

「灯、消すぞ」

 部屋を照らしていた柔らかな光が、ふっと消え、彼女の輪郭はまた闇に溶ける。けれど、一度認識したその吐息は、彼の顔を規則正しくなで続ける。

「ちなみに、反対側は嬢さんだ」

 闇の向こうから、ひそめられた声が話しかけてくる。

「二人とも、少しでもあんたが温かいようにって、両側からくっついてんだ。果報者」

 揶揄うようにそう言うと、声は止んだ。

 静かになると、途端に眠気が彼を襲った。でも、もう夢は恐ろしくなかった。さっき見た彼女の寝顔が、彼の脳裏に穏やかに居座っていた。

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