プロローグ
【まえがき】
歴史物ファンタジーです。
バトルシーンもありますが、強さを追求するバトル物ではありません。
恋愛はこの物語の重要なファクターですが、恋愛小説ではありません。
謎を解くピースは序盤から出てきますが、ミステリーの全容はなかなか明らかになりません。
そもそも厳密な意味でのミステリーではないかもしれません。
これはただ、懸命に生きた彼女たちの生き様を記録した物語。
作者が読みたいと思う物語を、そして書きたいと思う物語を、素直に紡いでいきます。
あ、ものすごく長編です。
「夢幻の書」
この物語を親愛なる我が友人たちに捧ぐ
北暦230年 シルヴィー・アンジュ
そして我が子らに
同244年 トリス・K・セディア
シルヴィー、セディア両氏の意図を尊重しつつ、より真実に近い物語にするために、神々の許しを得てここに筆を加える
同284年 ナギ・M・セイラ、キョウ・G・ウェスティ
【第一部】
「行こう!」
ウィンがそう言った時、兄は何のことか分からないという顔をした。彼女は、わずかに苛立って言葉を続ける。
「『海の人』に呼ばれたの!助けに行かなくちゃ。ロディも来て!」
そういうや否や、ウィンは傍らの荷物を引っ掴んで、城門に向かって駆け出した。
「待てよウィン、仕事は?」
兄は立ち上がりつつ、彼女の背にそう叫んだ。
「いざという時は、こっちを優先するって決めてたでしょう!」
ウィンはそう言うと、ぐんぐんスピードを上げていく。大地に祝福された彼女が本気で駆けると、脚力に勝る兄でも追いつけないこともしばしばだ。
兄も後ろで走り出した気配を感じながら、ウィンは、運命が大きく動き出すのを感じていた。