008 裏世界っぽい?(8)
恭兵は、今回の異常事態の元凶は、GGFで、バグ技を使用した事だと考えていた。
「USBに保管してあるバグ技使用前のセーブデータに書き換えたら、戻ったりしないかな?」
祈るような気持ちで、データ管理画面を表示させ、USBに保存してあるセーブデータを既存のセーブデータに上書きした。
『システムエラーが発生しました。データの上書きは出来ません』
やはり、そんなに簡単なことでは、戻れないようだ。それでも恭兵は、諦めが付かず、何度かトライしてみたが、同じ表示の繰り返しだった。
「……仕方が無いか」
それならばと、覚悟を決め、バグ技を使用したデータを引き続き、プレイしてみることにした。きっと、愉快犯が、それを望んでいるのだろう。
タイトル画面から、『続き』を選択し、セーブデータを読み込んでいく。正しい選択だったということか、エラーが発生するそぶりはない。
しばらくすると、ローディング画面が消え、ACCの機内映像に切り替わる。最初に写しだされたのは、ベンチに座っている渋顔だ。そこから、カメラ位置を変えると、先生が、反対側のベンチで寛いでいた。
ACCは、垂直離着陸が可能な航空機で、固定翼機とヘリコプターのいいとこ取りした機体だ。GGF内では、主人公達を作戦地域に運んだり、装備品や消耗品の補給物資を輸送するなどの作戦支援を担っている。
このGGFは、どこにいても、セーブする事が可能だが、ロード時は、必ずACCの機内から始まる。装備品変更やマップ選択、ミッション選択など、GGFのメニュー画面となるのがACCだ。
本来は、ACC画面で、選択できるマップは、二ヵ所なのだが……。
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◆?O?????[?G??????
◆?A?W???[???鍑
◆『?v???v?@?A?M
◆?V???l?[???@?C?X??????
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「ここからバグってるのか……。てか、数多いなぁ……」
マップ名が文字化けして読めない上、選択できるマップが、四ヵ所に増えていた。
「ひょっとして、バグ技で入れる裏世界って、開発途中で破棄されたマップなのかなぁ?」
有名タイトルシリーズのGGFで、そんなバグが放置されるなんてことが、あるのだろうか? 普通なら、パッチファイル等で対策されるはずだ。
恭兵は、確認の意味を込めて、一番上のマップを選択してみた。GGFのシナリオ自体は、クリアしている為、文字化けしているだけなら、クリア済みミッションが表示されるはずだ。
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●異界からの来訪者
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結果、表示されたミッションは、一つのみ。初めて見るミッションだった。その上、見覚えのないマップ上にミッションマークが表示されている。
「異界からの来訪者……。私の事か? 異界ってことは、このマップは異世界って、設定なのかなぁ?」
ミッションマークは、マップ左上の大きな森の上に表示されていて、進行中を表す●マークが付いている。クリアしているミッションの場合は、○マークに変わる。
また、訪れた事がある場所は、主要部の名称がマップに表示される。今回の場合ならば、森の名前が主要部となるはずなのだが、マップには、『?Q?V???y???X』と表示されていて、主要部の名称もマップ一覧と同様に、文字化けして読めなかった。
どうやら、ミッション名は正常に表示されるが、地名関係は文字化けして、表示されるようだ。
「…………あっ! そうか、異世界だから読めないってことね」
GGFプレイ開始直後は、各地方の言語能力を持つ敵をワープコアで、回収するまで、マップや地名は表示されなかった。現在の活動拠点には、異世界の言語能力を持つ敵は、回収されていない。その為、地名関係は、未知の言語扱いとなり、表示されないのだろう。
「成る程……そういう感じで来ますか……」
発している言葉は、冷静な印象を受けるが、表情からは、今にも大爆発しそうな、ピリピリとした雰囲気が醸し出されている。
「ややこしい! ややこしすぎるわッ!」
(もっとシンプルに異世界転移させろや!)
ここで、ようやく冒頭のシーンに戻る。しかし、恭兵が怒りを顕わにしている理由は不明のままだ。
「つまり、あれか? 間接的な異世界転移みたいになってるのか? 私自身はゲーム内転移で、その転移したゲーム内のキャラが異世界転移したってことか? なら、私自身は、ゲームキャラの転移に巻き込まれた感じってことか?」
恭兵の怒りのボルテージが上がってきている。どうやら、異世界転移の主人公ではなかった事に、腹を立てているようだ。しかし、ゲーム内転移と異世界転移に大した差は無いように感じられるのだが……。
「普通はさぁ !まず、トラックにはねられるとか、隕石に当たるとかして、死ぬでしょ。それが、神様なり、天使なりの手違い的な感じで、お詫び貰うじゃない。はい! ここ重要! お詫び大事!!」
……なるほど。お詫びが欲しいのか。しかし、ゲーム内転移だと貰えないと決めつけているのは何故なのか?
「で、異世界転移or転生で俺tueeeでしょ! そのタイミングで、おまけとして、若返りやイケメン化するでしょ! はい! ここ超重要! おまけ大事! イケメン超大事!!」
……なるほど、賠償目的だったようだ。まだ、諦めていなかったのか……。
「シンプルに転移させてくれてたら、今頃、盗賊かモンスターに襲われてる貴族令嬢助けて、『俺、また、なんかやっちゃいました? 』の鈍感勘違い系主人公になって、『助けてくれてありがとう。大好きだよ♪ 』のヒロインと一緒に、お国のために、改革に乗り出してるところよ!」
……賠償だけではなく、ヒロインも、ご所望なんですね……。
「それなのに、ヘンテコ転移のせいで、展開が遅いんだよ! ここまで、登場人物ほぼ、私だけだぞ! そもそも、半分以上は自宅イベントだぞ! どんだけ、お手軽やねん!! しかも、ハイラントに巻き込まれてって! 要る? その設定! ワンクッション置く意味ある?! こっちは、理不尽に転移させられてるんだぞ!! せめて主人公として転移させろや! どんだけーーーー!!っだよ!?」
……言い分は、分かったが、愉快犯が喜ぶだけじゃないのか? 中々のかまってちゃんだぞ? 大丈夫か? それにしても、話が長い。聴く側の気持ちも考えて欲しい。
「ハァハァハァ……、まぁ、今回は、穏便に対応して、大人の余裕ってやつを見せてやるけど……」
……大人の余裕? は、置いておくとして、穏便に対応することは、悪くない選択肢だ。
(愉快犯とは、長い付き合いになるかもしれない……。何かあった時に、労働者を守るのは会社の責任だ。その時は、よろしくお願いします。本当に、お願いしますよ!!)
……打算的な考えは、声に出さずにって辺りで、恭兵の本気度が伺える。いつ愉快犯に雇用されたのか、教えてほしいが、異世界に連れて行った責任は、愉快犯にあるのは、同意見だ。
せめて、目的がはっきりすると、恭兵も納得するのかもしれない……いや、どのみち、恭兵は、賠償でしか納得しないか……。