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070 レーベルク防衛戦(13)

 満足そうな笑み浮かべたシェリルを苦々しい表情のリリーが睨みつける、異様な空気感のギルド入口には、慌ただしいはずなのに、誰一人として近づいてこない。


「……ところで、そちらの方々とは、どういったご関係なのでしょうか?」


 リリーに睨まれ続けているのに、ニコニコと平然として、問いかけるシェリルに『なぜ、平然と会話を続けるんだ?』と、ギルド内の誰もが思っていた。


「……絡まないって言ってから、すぐっすね。……ギルマスからの依頼っすよ。そっちには、関係ないっすよね?」


 リリー自身も、睨んでも効果がないと諦めたのか、険のある物言いではなく、呆れた感じの物言いに変わっていた。そんなリリーの発言にかぶせるかのように、シェリルは、恭兵に話しかける。


「――昨日は、ありがとうございました。皆様のおかげで、命拾いしましたわ」


(…………なッ!? な、なんで、気付かれたんだ!?)


 花が開いたような笑顔で、首を可愛らしく傾けながら、感謝を述べるシェリルに、完全に不意を突かれた恭兵は、驚きの表情を隠すことが出来なかった。


「なっ?! シェリル様!! 昨日の出来事は、こやつらの仕業ですか?!」

「な、何の話っすか!? このお嬢さんと知り合いっすか?!」


 驚いたのは恭兵だけではなく、ロロやリリーも同様に驚いていた。ロロは、シェリルに対して、リリーは、恭兵に対しては、詰め寄るように、質問を浴びせかけるが、シェリルは涼しい顔で、ニコニコしているだけ。恭兵にいたっては、リリーのことなど、頭にない混乱状態だった。


「……え、えーと、何か勘違いされていませんか? し、初対面のはずですが……」


 少しの間があいた後、なんとか再起動できた恭兵は、しどろもどろになりながら、シェリルに応える。ただ、目が泳いでいたため、何とか誤魔化そうとしていることが、見え見えだった。


「いえ、“キョウヘイ様”。昨日、“遠方”からご助力して頂きましたよ? あれは魔法でしょうか?」


 ハッキリと確信しているような口ぶりで、恭兵に質問を投げかけてくる。まるで“見ていた”としか思えない質問だった。その上、名乗ってもいないのに、名前を呼ばれたことで、更に動揺した恭兵は、冷静さを完全に失っていた。


「な、なッ!? な、何故、名前を? 自己紹介して無いですよね?!」


 思わず、大きな声を出してしまった恭兵は、完全に相手のペースに乗せられていると気づき、しまったと後悔の表情を見せていた。そんな恭兵の表情をみて、悪戯が成功したような、あどけない笑顔を見せるシェリルは、口の前に人差し指を立てる仕草をして、恭兵の疑問に応える。


「淑女の秘密ですわ。……こちらの質問に答えて頂ければ、お教えしますわよ?」


 シェリルの大きな蒼い目が、恭兵に何かを期待するような強い光を宿した眼差しを向けていた。その視線に、畏怖を覚えた恭兵は、なんとかこの場から離れようと、無理矢理に話題を切ることにした。


「……な、なにかの勘違いだと思いますよ。さ、さぁ、もう行きましょう」


 リリーの方を向き、先を急ぐように提案をする恭兵。そんな恭兵を見るシェリルの目は、未だに、強い光を宿したままだった。


「あら? お答えして頂けないのですか……。まぁいいですわ。キョウヘイ様達は、今からどちらに向かわれるのですか?」


 答えを聞けば、絶対に着いていくと言うであろうことは、誰が見ても分かるようなシェリルの態度だが、苦手意識を持ってしまった恭兵は、気付くことが出来ていなかった。


「え、え、たしか――」

「――お嬢さんに関係ないっす。……こっちには、絡まないって、約束したばっかりっすよね?」


 恭兵が、思わず答えそうになっていたところ、リリーがそれを遮った。


「ええ、ですから、“キョウヘイ様”に聞いているんです。リカルド様には、聞いておりませんわよ?」


 先ほどまでの華やかな笑顔から、一転して、スネたような表情のシェリルは、企みを阻止したリリーに向けて、抗議の声を上げる。


「……ああ言えば、こう言うっすね。さすがは“美狂姫(びきょうき)”っすよ」


「まぁ!! お褒め頂き、ありがとうごさいます」


 リリーの恐らくは、良い意味ではない通り名を聴いて、今日一番の華やかな笑顔を見せるシェリル。どうやら、本人は気に入っているようだ。


「……褒めてないっす。とにかく、お嬢さんには、関係ないっすから、あっち行くっす!」


 嫌みがシェリルを喜ばしたことに、なんとも言えない表情になっているリリーは、これ以上の話は無駄だと言わんばかりに、手を振って追い払おうとする。


「……仕方ないですわね。“今は”失礼させて頂きます」


「シッシッ! 早く行くっす!」


 これ以上は、不毛だと判断したのか、シェリルは、大人しくギルドから出て行った。


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