067 レーベルク防衛戦(10)
気が付けば、ギルドの説明がロッテへの精神攻撃に変わり、慌てふためくロッテを見ていると当初、抱いていたイメージは、ガラガラと音を立てて、崩れていった。
恭兵からの微妙な哀れみの目を向けられる事に耐えられなくなったロッテは、このままでは不味いと、話題を切り換えることにした。
「と、とにかく、お前達には、南大門の防衛に着いてもらう。勝手が分からんだろうから、案内人を付けるからな」
ロッテは、真面目な表情に切りかえて、任務について話をしているが、どうしてもノエルの精神攻撃から逃げているだけにしか思えないと、憐憫の情を抱いてしまった恭兵は、ロッテから目を背けてしまう。
「ああ、了解――」
――コン、コン
目を背けて、返事をしない恭兵の代わりに、渋顔が、しっかりとロッテを見据えて返答したのだが、扉をノックする音に遮られる。
「風の旅団、リナレス様をお連れいたしました」
「おっ、ちょうどいいタイミングだな。入れ」
ロッテのいう良いタイミングとは、案内人の話をしていたので、良いタイミングなのか、憐れみの空気感を変える良いタイミングなのかは、分からない。
扉が開き、入ってきたのは金髪の長髪男性。髪は、後で束ねられており、男性としては、小柄で、つり目だが、柔やかな表情が印象的な人物だった。
「お疲れ様っす。ギルマスから呼び出しなんて、珍しいっすね。なにか問題っすか?」
(部活の後輩感がすごいなぁ。年齢も若そうだし……)
小柄な上、喋り方からも幼さを感じられるからなのか、十代後半から二十代前半くらいの年齢だと感じさせる。人の懐にスッと入ってくる声質で、どこか無条件に、信頼を感じてしまう。
「大した問題じゃねぇ。今回の都市防衛で、こいつらの御守りを頼む」
そういって、親指で、渋顔を指差すロッテ。指差された渋顔は、先程とは、逆にリナレスから目を背ける。ロッテは、その行動に不可解な表情で、困惑していた。
「……………………」
妙な間が、部屋に生まれる。ロッテに対して、流暢に話していたので、ミッションだと人見知りが無くなると思い込んでいた恭兵は、油断していた。
(あれ? ひょっとして、人見知りが発動してる?!)
どうやら、ロッテに対して、人見知りが出なかったのは、他に理由があると気付き、慌てて間を埋めるように、応対する。
「き、き、恭兵です。今日この都市に着いたばかりで、分からないことが多いですが、よろしくお願いし――」
「――ちょっ、ちょっと待ったっす! そう言うのは、団長に言ってもらわないと! ただえさえ、厄介な“お嬢さん”の護衛任務を抱えている状態なんすから!」
慌てて答えた恭兵の挨拶を遮り、リナレスがロッテに対して抗議をする。どうやら、別の任務で忙しいようだ。
「その辺は、大丈夫だ。こいつらは“使える”奴らだからな。今回の戦力になる。分かるだろう?」
リナレスは、ロッテの言葉を受け、探るような目で、渋顔から先生、恭兵へと視線を移していく。
「……確かに、ただ者じゃないっすね。……尚更、駄目じゃないっすか!? “お嬢さん”の命を狙う刺客だったらどうするっすか!?」
ロッテもそうだったが、異世界の人間は、実力者になれば、見ただけで、相手の強さが探れるらしい。見た目は若いが、リナレスの能力は、『剣術:C』で、出会ってきた人間の中では、上位の実力者だ。
「その点も大丈夫だ。俺が保証する。依頼受領の権限は、“各隊長に一任”されているだろ? なら問題なかろう?」
リナリスは、険しい顔でロッテを睨みつけながら、何かを思案していた。そんなリナリスに対して、今の会話から『隊長なの!?』と恭兵は驚いていた。
険しい顔のまま、少しの沈黙のあと、思案を終えたリナリスが口を開く。
「……本当っすか? 身元が確かな人達なんっすね?」
ロッテは、渋顔に向けて、視線を送るが、渋顔は顔を背けてしまう。困ったのたロッテは、先生に視線を移すが、もちろん反応などはない。
「…………」
「ここで、だんまりッ?! やっぱり、危ないじゃないっすか!?」
このままでは不味いと、ロッテが最後に頼ったのは恭兵。頬を掻きながら、恭兵に訊ねる。
「……すまんが、“出身”を言ってくれるか?」
「えッ? しゅ、出身ですか?」
一瞬、現実世界の事かと、ギョッとした表情になってしまったが、冷静になって考えると、合点がいき、リナリスの疑問に応える。
「……わ、私達は“迷い人”なんです」
「……そういうことっすか……」
恭兵の言葉を聞いたリナリスは、哀れみの感情を含む納得した表情を見せる。
「そうだ、こいつらは“迷い人”だ。身元は分からん。だが、“城塞都市レーベルクのギルドマスター”として、保障する。世話してやってくれ」
「……成る程。了解っす。それなら、団長も文句無しっす」
流石は、万能ワードの“迷い人”だ。ややこしい問題でも、一発で解決できてしまった。




