066 レーベルク防衛戦(9)
恭兵が、渋いおじさん達の独特な親和性に、疑問を持っていると、ドアのノック音が聞こえてきた。
――コン、コン
「ノエルです」
「入っていいぞ」
「失礼します。登録が完了しました」
そう言うと、渋顔達にクリスタルを返却するノエル。渋顔や先生は、それを無言で受け取り、無造作にポケットに入れる。恭兵とは違い、クリスタルに装飾はない。
恭兵は、そんな二人の姿を見て、苦笑いを浮かべながら、『私は彼等とは違う』とばかりに、感謝の言葉を伝えようとする。もっとも、違うのは、目をキリッとしつつ、口元は弛んでいる顔だが……。
「あ、ありがとうご――」
「――いえ、任務ですので」
ノエルは、恭兵の御礼の言葉を遮ると、ニコニコとしているが、鋭い目で『急げよ』とばかりに、クリスタルを載せたトレイを差し出す。
恭兵が、ショックを受けながら、クリスタルを受け取ると、冒険者ギルドについて説明を始める。
「では、冒険者ギルドについて、説明させて頂きます」
「は、はい! 宜しくお願いします!」
先程のショックなど感じさせない満面の笑みで、返事をする立ち直りの早い男。その男に嫌悪感を抱いているが、顔に出さないプロフェッショナルなノエルは、説明を続ける。
「冒険者ギルドの主な役割は、依頼者と冒険者の仲介です。依頼内容の正誤、冒険者の身元保証、素材の買取など、依頼に係わる事務的な業務全般を請け負っています」
(成る程。身元保証もしているのか……。クリスタルで管理しているのかな?)
恭兵達は、異世界の人間ではない。その事に不安を抱いていたが、何事もなく、登録が出来ているので、大丈夫なのだろうと、説明に耳を傾ける。
「冒険者の皆様には、掲示板に貼っている依頼書から、好みの依頼を選んでもらいます。基本的には、掲示板に貼ってある依頼は、誰でも請けることが出来ますが、ギルド職員が達成困難だと判断した場合は、その限りではありません」
中指で、クイッと眼鏡を上げると、なにかを探るような視線を恭兵に送るノエル。恭兵は、促されるように質問をする。
「ど、どういった時に、無理だと判断されるのですか?」
「はい、依頼達成率やクレーム件数、過去トラなどを元にした判断基準があります。しかし、最終的な決定は、受付担当者が実施しています」
ノエルは、ここで一度区切る。一呼吸を置いて、ニコリと恭兵に笑いかけると、説明を再開する。
「これはよく噂されることなのですが、受付担当者に“嫌われる”と“条件の良い依頼は受領出来ない”なんてことも、本当にあるのかも知れませんね……あくまで“噂”ですよ?」
噂だと言いながら、ニコニコと笑顔を向けているが、恭兵を見る目は鋭い。恭兵は、喉をゴクリと鳴らすと、何度も首を縦に振り、了解の意を示していた。その態度に満足したのか、ノエルは説明を再開する。
「では、判断基準に関係のあるギルド勲章について、説明をさせて頂きます。ギルド勲章は、ギルドから相応しい功績があると認定されると授与されます。その――」
要約すると、ギルド勲章は、上から金獅子、銀獅子、銅獅子の三種類がある。銅獅子を授与されると、一流冒険者の証となるため、冒険者の一つの目標となっている。
特典として、ギルドから優先して依頼を請けることが出来るため、条件の良い依頼を請けやすい。反面、今回のような緊急事態には、強制参加となる為、あえて、授与を辞退する人も少数だがいるらしい。
「冒険者様の中には、しばられることを嫌う方も多いですから……ギルドとしても、強制任務は、余程の事が無い限りは、発動しないんですけどね」
説明が進んでいくうちに、今まで冷静だったノエルの顔は、若干だが、怒りの色を帯びているように見える。チラチラと、ロッテを見ているのは気のせいか?
(過去になにかあったのかな? それとも、今回の大規模侵攻で、なにかあったのか? ……怒っている顔もなかなか良いなぁ……)
途中までは、真面目な良い心だったが、後半で一気にダメさ加減が溢れている。例に漏れず、鼻の穴は大きくなっていた。
「ま、まぁ、国や貴族に囲われるよりは、マシだが、ギルドに足元を見られているって気がするんだろう。……お、俺も昔はそうだったからな」
何故か、ロッテがしどろもどろな答弁をして、視線を泳がせている。発言の後半に至っては、聞き取ることが、やっとな声の大きさだ。
「ああ、そういえば、ギルド史上、金獅子を“辞退した”唯一の方でしたね。その時の上層部はメンツ丸つぶれだったとか――」
「――悪かったと思ってるよ! 若気の至りだろ! お詫びとして、城塞都市のギルドマスターなんて面倒を引き受けているだろうが!」
今にも炎を吹き出しそうな真っ赤な顔で、ノエルに食って掛かるロッテ。ノエルは、その真っ赤な顔をチラリと見たあと、とどまることの無い愚痴を吐き出し続けていく。
「『ギルドに飼われる気は無い!! キリッ!』でしたか? いや、歴史に残る“名言”ですよね。 いや、“迷言”ですか? 真似をして、未だに銅獅子を辞退する冒険者がいますからね」
心底、嫌そうな顔で、ロッテを見つめる。ロッテ本人も、迷惑をかけている認識があるようで、言い返したいが、何も出てこないようだった。
「その度に、ギルド職員が説得するのですから、本当に大変なんですよ。当の本人は、銀獅子までは、文句も無く“飼われていた”んですけどね」
「ぐっ……」
いつの間にやら、冒険者ギルドの説明が、ロッテに対する精神攻撃にすり替わっている。
「ましてや、断った理由が、世間で語られる“英雄ロッテ”の逸話通りなら、まだ良いのですが、真実は“痴情のもつれ”――」
「――だぁ! 初対面の奴らに言うなよ!!」
恭兵は、『冒険者ギルドの説明は?』と、強気に発言することができずに、ロッテとノエルに抱いていた第一印象とは、かけ離れた、やりとりを見守り続けることしかできなかった。




