061 レーベルク防衛戦(4)
「ブロル様。準備が整いました」
先程、ヘドマン商会に戻ってきた恭兵達を出迎えてくれた執事風の男性が報告にくると、待ってましたと勢い良く、立ち上がったブロル。いつものことなのか、男性は、驚きもしない。
「では、行きましょう!」
恭兵達は、足早なブロルの案内で、防具フロアがある四階へと移動を開始する。この世界には、エレベーターは無いようで、階段を使うようだ。
(階段かぁ……転移の魔方陣とか、期待したんだけどなぁ)
階段を上っている間に、転移魔法について探りを入れてみる。恐らく、一般的な魔法ではないのだろう。そうでなければ、使える使用人を雇っているはずだ。
「か、階段を上がるのは、大変ですよねぇ。て、転移魔方陣なんかで、ひとっ飛び出来ればいいのになぁ」
「ハハハッ! そうですねぇ! 誰か開発してもらいたいものです! そうすれば、仕入れも楽になりますねぇ」
「や、やっぱり、転移魔法なんて無いんですか?」
「ええ、商人全員が一度は、夢見る魔法です。開発に成功した人間は、聞いたことがないですねぇ」
やはり、一般的ではないようだ。それどころか、転移魔法自体が夢物語扱いだ。だか、異界生物の白フードは使っていた。
(あいつ、レアキャラだったんだなぁ……次、会ったら、最優先で活動拠点に回収だな)
そんな物騒な事を考えている内に、四階の防具フロアに着いた。防具フロアの入口には、担当者が待機していて、恭兵達を出迎えてくれた。
「ようこそ。今回、担当させて頂きます。【ロドルフ・オドラン】です。宜しくお願い致します」
「よ、宜しくお願いします」
ロドルフは、恭兵と同じ年齢くらいだろうか。二十代後半くらいの短髪色白の男性で、野心的な目が印象的だ。
「キョウヘイ様。本日は、どの様な防具をお求めですか?」
「な、なるべく、軽くて動きやすい鎧が欲しいんです」
相手はプロだ。恭兵は、何とかしてくれるだろうと甘えから、ざっくりした要望を伝えてみる。鎧の知識など皆無なのだから、丸投げは正解だろう。
(そもそも、鎧なんて現実世界では、縁が無いからなぁ)
「成る程、それならば、軽鎧が良いですね。武器は、なにを使用されているのでしょうか? ……申し訳ございません。キョウヘイ様の手のひらからは、推測が困難でして……」
ロドルフは、恭兵の動きや立ち振る舞いから、なんとか推測しようとしていたが、読み取ることが出来なかった。そもそも、戦いに精通しているようには、見えないと感じていたようだ。
当たり前の話だ。恭兵が戦いに参加したのは、昨日が初めてのド素人だ。動きや立ち振る舞い、ましてや、手のひらから読み取ることなど出来るはずがない。
「ロ、ロ、ロドルフさんは悪くないです。私は戦闘経験が乏しいので……。銃器をメインに使います。……銃器ってご存知ですか?」
申し訳なさそうに、恭兵に頭を下げるロドルフに、慌てて、こちら側の問題だと声を上げる。目の前には、社長がいる。彼が無能だと思われたら可哀想だと心配になっていた。
「……すみません。私の勉強不足で、初めて聞く武器です。どの様な武器なのでしょうか?」
フォローしたつもりが、更に追い込んでしまったかもと、慌ててブロルの方を見ると、興味津々な目で、こちらの説明を待っていた。
(まぁ、予想はしていたけど、銃器関係は、異世界には、無いな……)
「こんな構えで使用します。細長い弩弓のようなものです。……弩弓はご存知ですか?」
恭兵が使用する武器で、一番長いライフル銃の構えをしてみせる。
「ええ、成る程。肩周りの可動域が広い、軽鎧がいいですね」
「そ、その辺は、プロであるロドルフさんにお任せします」
隙あれば、パーカーの教育を押しつけてくるような社長だ。恭兵は、ロドルフに迷惑のかからないような返答を心掛けていく。
(これも、何かの試練かも知れないからなぁ)
「キョウヘイ様。ベース素材は如何しましょう? 動きやすさを重視するなら皮、強度を重視するなら、金属にな――」
「――“ミスリル”製を用意しなさい」
今まで、一切の口出しをしなかったブロルが、ロドルフの発言を遮り、声を上げる。
(聞き間違えでなければ、“ミスリル”っていったよなぁ? めっちゃ、ファンタジー金属じゃないか!)
「エッ! だ、旦那様、宜しいのですか?」
「当たり前です。わざわざ私が来たのは、その為ですよ」
二人の会話を聞いていると、かなり高級な素材のようだ。ロドルフが、かなり驚いている。確かにファンタジーを代表する金属だ。あまりに高いと、今後が怖いので、恭兵は、さり気なく断ろうと声をかける。
「な、な、なんか、お高そうな響きなんですけど……」
「ええ、この店では、最高級品になります。お三方の分を用意させていただきます」
「……流石にそれは貰いすぎなので――」
最高級品と聞いて、益々怖じ気づいた恭兵は、なんとか断ろうとするが、ブロルから遮られる。
「――今後もご贔屓にして頂ければ、安い物です」
ブロルは、ニコニコとしているが、有無を言わせない雰囲気を出していて、恭兵は、断ることができずにいた。そんな中、渋顔が、珍しく声を発した。
「俺達はいらん。恭兵だけでいい」
ブロルへ声をかけたため、若干殺気が滲み出ていた。そのお陰か、ブロルは簡単に退いてくれた。
「……そうですか。分かりました。キョウヘイさんは、こちらへ、どうぞ」
(断るなら、『恭兵もいらん』って言ってくれればいいのに……)
渋顔を恨めしい目で見ながら、試着室と思われる部屋に向けて歩きだしたのだった。




