056 城塞都市潜入(33)
無事に城門を通れた恭兵達は、ブロルの店に向けて、歩いていた。城塞都市の中心部には、広場と領主館があり、城門から中心部に向かって、大きな道が伸びている。
その大通りを挟む形で、露店や店舗が建ち並び、中心部に近づくほど、格式が上がっていく。そんな中、ブロルの店は、中心広場に隣接していた。
「お、大きいですね!? ブロルさん、あんた何者なんですか!!」
恭兵は、中央広場の中でも、あたりの店舗とは、一線を画する店構えに、驚きすぎて、言葉が乱れていた。中央広場の中でも、間違いなくナンバーワンのお店だと、だれが見ても分かってしまうほど、規模が違う。
周りの店舗の規模は、コンビニで、ブロルの店は、小さい百貨店といえば、イメージしやすいだろうか。ブロルの店より大きな建物は、領主館くらいだ。
「大袈裟ですよ。只の商人です」
少し、照れたブロルは、謙遜しつつも、自分の店舗を見る目は、優しく、誇らしさを感じさせた。
「だから言っただろ? 旦那は、顔役だって……」
ブロル本人よりも、自慢げなパーカーの顔に、何とも言えないしっくりこない気持ちになりながら、自分には不相応な高級店に、二の足を踏んでしまう。
「よ、予想以上でしたけど……なんか、私達は、場違いな気がし――」
「――いえ、あれだけの魔導具を持っている人が場違いなら、誰も私の店に入れませんよ? さあ、行きますよ」
店舗の裏手に回り、勝手口から店舗に入ると、ブロル達を迎えてくれる人物がいた。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「――め、め、め、メイドがキターーー!!」
唐突に訪れた、未知との遭遇……。恭兵が冷静さを失うには、充分なインパクトだ。魂の雄叫びと共に、天を突き破るかの如く、高く掲げられた拳。
「――ど、どうしました?!」
背後からの突然の雄叫びに、後を振り返り、驚くブロルだが、今の恭兵にとっては、そんなことはどうでも良い。ブロルの肩をガッチリと掴み、ガクガクと揺らす。
「いや、あんた、最高や! 神様、仏様、ブロル様や!! 間違いない! あんたは、この都市の支配者や!」
興奮のあまり、エセ関西弁が炸裂する。目の前には、THEメイドと言わんばかりの濃紺のワンピースに、白いエプロンを組み合わせたヴィクトリアンタイプのメイド服を着用した茶髪美人。頭には、もちろんホワイトブリムを付けている。
「お、お客様さま?」
自分の主人が、お客様に揺さぶられるのを目の当たりにし、困惑するメイドが、恭兵に声をかけた瞬間、パッと手を離し、メイドに向き直る。
「――そこは、旦那様で、お願いします!」
無駄にキリッとした表情が、残念さを際立たせる。
「い、いえ、流石にそれ――」
「――旦那様でお願いします……します!!」
どう考えても、客に対して、旦那様はおかしいのだが、今の恭兵には、常識は通じない。有無を言わさぬ“断固たる決意”が言葉の端々から滲み出ている。
「キョウヘイさん、落ち着いて下さい。……口調かわりすぎですよ」
困り果てたメイドに、助け船を出すブロルだが、その程度では、恭兵の興奮は、収まらない。
「これで、落ち着いていられる人類が、この世に存在するわけないでしょ? あれですか?! あんた禍獣ですか?!」
ここまで、順調に都市に入れたのは、ブロルのお陰だ。その恩人を禍獣呼ばわりするとは、中々に酷い言い様である。
もちろん、今回も暴走したままで、いられるはずもなく、いつものパターンで、恭兵の興奮は冷めていく。
――ジャキッ
「――お前醜穢、即死希望」
鼻先には、冷たいライフルの銃口。いつも以上の鉄の匂いに、先生の鋭い目つきが、“今そこにある危機”として、本能に訴えかける。燃え上がった欲望は、一瞬で鎮火された。
***
銃口を突き付けられ、強制的に冷静さを取り戻した恭兵は、自分が生み出した惨状に、きまり悪さを感じていた。
「……と、取り乱しました。すみません」
きまり悪さを感じていたのは、恭兵だけでは無いようで、メイドも、不憫な眼差しを恭兵に向けていた。
「……いえ、お気になさらないで下さ――」
「――キョウヘイの本性は、あんな感じなんだな!」
そんな中、空気の読めないパーカーは、メイドの慰めの言葉を遮り、何の憐れみも感じていない直球を恭兵に投げつけてくる。
「ぐッ、こ……い、いえ、そんなことは――」
反論出来ない言葉は、もはや凶器である。剛速球が恭兵の心に、突き刺さる。
「――パーカー。こういう時は、そっとしておくのが、紳士というものですよ」
どうやら審判も、グルのようだ。わざわざ、声高らかに、正解と宣言して、ダメ押ししてくる。
「……それを目の前で聞かされるのは、心を抉られるんですけど」
自分が悪いのは、重々承知しているのだが、ここまでくると、反論の一つもしたくなるものだ。
「あっ! これは、失礼。わざとです」
「――わざとなんかいッ!」
恭兵が声を張り上げる姿を見て、ブロルは、満足そうな笑みを浮かべる。場の空気は、確実に緩んでいた。これは、一流商人のお客様に対する気遣いなのかもしれない。
「それは、置いときまして、早速、詳細鑑定しましょうよ。時間がかかりますので、その間に、精霊協会に案内させますよ」
「……くッ、お、お願いします」
……どうやら一流商人の気遣いなどではなく、早く会話を終わらせて、鑑定したいという、ただの欲望なのかも知れない。




