055 城塞都市潜入(32)
朝日はすっかり登り、燦々と輝きだした頃、テントやキッチン道具を片付けた恭兵達は、ブロル商隊に合流し、出発の時を待っていた。
「では、出発します」
「は、はい。よろしくお願いします」
ブロルは、馬車には乗らず、恭兵達と一緒に歩いて城門に向かう。開いていない城門前には、少し、列が出来ていた。
――カン、カン、カン!
甲高い鐘の音が響き渡り、城門が開いていく。開門の合図だろう。
まず落とし格子が、上がっていき、浅草の雷門くらいのアーチ状の入口に入れるようになる。その後、2枚目の門扉である中央吊り下げ式の一枚扉が引き上がっていく。
門扉が開くと、幾人かの兵士たちが出てきて、列をなしている人々の誘導を開始する。
「少しお待ちを。話を付けてきます」
「よ、よろしくお願いします」
「お任せ下さい」
返事を聞いたブロルは、列から離れると、兵士に近づいていき、話しかけはじめた。しばらくすると、一人の兵士と共に、城門に向け歩き出す。
遠目から様子を見ていた恭兵は、『上手くいかなかったのか?』と不安になっていく。
(最悪、警備の兵士と戦闘なんてことになったら、どうしよう……渋顔達は、ちゃんと手加減できるのかなぁ?)
きっと麻酔弾で、あっという間に全員眠らせてしまうだろう。巻き込まれる恭兵にとっては嬉しくない状況だ。そんな恭兵の姿を見て、パーカーが話しかけてくる。
「そう緊張せんでも、大丈夫だ……です。旦那は、この都市の顔役なんだ……です」
彼は、どうやら敬語が苦手らしい。今朝方、話した時よりも、片言な喋り方に、違和感があったため、戻してもらえるようにお願いしてみる。
「い、いや、無理に丁寧に、話さなくても大丈夫ですよ。パーカーさんの方が年上ですし……」
「いや、旦那に怒られる。毎回、お客さんの対応が下手だと言われてるからな。練習させてくれ……ださい」
まさか、こんな所で、社員教育を手伝わされるとは夢にも思っていなかった恭兵は、ブロルの手腕に感心と強かさを感じていた。
「あ、な、成る程。りょ、了解です」
「助かるぜ。ありがとう……ございます」
(……どんな生き方をしたら、丁寧語が使えない大人になるんだ? 異世界の七不思議だな)
パーカーを地球基準で見ると、サラリーマンだと“部長”、反社会的勢力だと、“頭”と呼ばれてもおかしくない年齢だ。武装集団のリーダーなので、反社会的勢力寄りだろう。サラリーマンよりも上下関係には、厳しいはずなので、敬語が使えなければおかしいと恭兵は考えていた。
「お待たせしました。では、入りますよ」
都市潜入には、なんら影響がない、どうでもいい考察をしていると、ブロルが戻ってきた。思ったより、早い帰還に安心感を得た恭兵は、ほっと息を吐く。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、どちらかと言うと私の知識欲求を満たすためですから、お気になさらずに」
「……」
頼もしさすら感じるブロルに大きな恩を感じていた恭兵だったが、この一言で、残念な生物へと降格させていた。
***
時は、少し溯り……
「おはよございます。警備隊長は、もう来ていますか?」
ブロルは、恭兵達を穏便に入都させるため、列の整理をしている若い兵士に、声をかける。ブロルを認識した兵士は、直立不動で敬礼し、答える。
「はッ! おはようございます。ブロル様。隊長から言付けを預かっております。『すぐに事情説明に来い。来なければ、店に査察に入るぞ』との事です」
兵士の言葉を聞いた途端、ブロルの表情が、晴れやかな顔に変わる。しかし、目だけは、笑っていなかった。
「それはそれは……。立派な脅迫ですよね? ……商人相手に脅迫する愚かさを味あわせてあげましょうかね? 警備隊全員の連帯責任とし――」
「――わ、わ、私達は無関係ですので、隊長だけで、お願いします!!」
真っ青な顔に、焦りを浮かべた兵士が、懇願の目でブロルに訴えかけてくる。ブロルは、たっぷりと間をとり、兵士の顔を覗き込む。
「……冗談ですよ。では、行きましょう」
してやったりと、悪戯っ子な笑みで、若い兵士の肩を叩く。
「は、はい! こちらです」
安堵の表情を浮かべる兵士の誘導で、城門に向かって歩いていき、城門横の勝手口のような扉に入っていくと、兵士の詰め所に辿り着いた。幾つか部屋がある中、一番奥の部屋に案内される。
――コン、コン
「ブロル様をお連れしました」
「入れ」
「失礼します。ブロル様。こちらにどうぞ」
部屋に入ると、正面の執務机に、グラ爺さんと同じくらいの高齢男性が座っている。パーカーに負けない大柄で、筋骨隆々。多くの戦を潜り抜けた自信を感じさせる雰囲気を纏っていた。
「久しぶりだな。なんか強い奴を匿ってるらしいな。今すぐ戦わせろ! じゃなきゃ、お前の店に査察にはいるぞ!」
……訂正だ。どうやら、纏っていたのは、面倒な気質による自信満々な雰囲気だったようだ。出会ってからの本題に入るまでの会話が最短だ。相当、せっかちな性格なのだろう。
ブロルは、こめかみを揉むような仕草で、営業スマイル全開の極寒オーラを放ち出す。
「開口一番、それですか……。普通は、その“強者”の素性を聞くのが隊長の役目でし――」
「――はっ! そんなもんはマルクに任せればよい! それよりも、早く儂の前に連れてこい!」
清々しいほどの丸投げだ。その上、空気など、お構いなしの直情タイプ。厄介事の中心は常に彼だと言われたら、信じてしまうだろう。
そんな彼の横には、指名された【マルク・アールストレーム】が立っていた。銀髪で鋭い目つきが印象的で、年齢はブロルと同じ位の中年男性。
出来る男を絵に描いたような立ち振る舞いから、実質的に警備隊を指揮しているのは、彼だろう。
ブロルは、マルクを横目に捉えながら、会話を続ける。
「嫌ですよ。そんなことより、早く都市に入りたいんです。許可を下さ――」
「――駄目だ、駄目だ! まず、儂の前に連れて来い! 話はそれからだ!」
肉体言語で語りたい警備隊長は、立ち上がり、机を叩きながら『儂は、譲らん』と、全面に押し出してきたが、次の一言で、あっさりと降参してしまう。
「はぁ……。別に貴男からの要請に応えて、来た訳では無いんですよ? 分かってますよね? 私が“直々”に許可を取りに来る意味を? “叔母様”に言いつけますよ?」
「「…………」」
先程までのかぶせ気味の会話が息を潜めた。警備隊長の顔は、どんどんと青ざめ、分かりやすく、目が泳ぎ出す。
「き、き、き、急用を思い出した。う、うん、もの凄く急用だ。あ、後はマルク君、すべて任せるぞ!」
追い詰められた様子の警備隊長は、脱兎の如く、部屋から出て行った。
「「…………」」
警備隊長を見送った二人は、ようやく本題に入れるとばかりに、会話を始める。
「許可は、すぐに出します。しかし、事情説明はしてもらいますよ?」
「まぁ、あの殺気なので仕方ないとは思いますがね……。しかし、“本業”関係なので、ある程度は、察してくれると助かります」
「では、こちらへ……」
マルクは、こうなると予想していたのか、すでに、許可証の発行手続きを指示していた。
(さすがは、マルク。手際がいいな。……ウチに来てくれないかなぁ)
マルクは、発行が終わるまでの短い間を無駄にせず、ブロルから事の顛末の聞き取りを進めていた。無駄だらけの警備隊長とは、対極的な手腕の持ち主らしい。
ブックマーク、評価の程、宜しくお願い致します。感想もお待ちしています。




