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054 城塞都市潜入(31)

 今回は、お互いが牽制しあっていたため、渋顔(ハイラント)達の間で、カレーが原因の紛争は発生しなかった。その副産物として、殺伐とした食卓となってしまい、ブロル達にとっては、地獄のような時間が生み出される結果となった。


 最初こそ、緊張感が溢れ出す食卓だったが、食事を進めていくと、和やかな雰囲気が出来上がっていった。恭兵にとっては、満足のいく結果となり、ブロル達がカレーを食べ終わるのを待ってから、商品としての価値があるのか聞いていた。


「こ、これ、商品として売れますかね?」


「売れると思いますよ。癖になる味ですし、レシピを売ってもらえるなら、すぐにでも買いますよ?」


 ブロルの目がキラリと光り、商売人の顔になる。


「い、いえ、旅をしながら、街々で露店でもやろうかと……」


「成る程、それは残念……。ところで、この器は何で出来ているんですか? 木ではないですよね?」


 レシピを売ってもらえないとわかると、食い下がることはなく、次の商売になりそうな話題にうつる。


「え、えーと、詳しく製作方法は、分からないのですが、竹とコーンスターチで出来てます。コーンスターチ分かります? トウモロコシのデンプンです」


 ぱっと見ただけでも、『何言ってんの? こいつ』と考えていると丸わかりのブロル達。


「…………すみません。何言っているのかちょっと分かりません。パーカーは分かり――」


「――だから、旦那にわからん事は――」


「――はい、はい、万が一ですよ」


「……やっぱり、腹立つな!」


 真っ赤な顔で怒るパーカーとそれを見て、楽しそうに笑うブロル。立場は違えど、親友のような存在なのだろう。


(本当、テンポがいいなぁ。異世界(こちら側)は漫才文化があるのかなぁ?)


 少し羨ましく感じる2人のやりとりから、異世界(こちら側)のお笑い文化に思いを馳せていると、思わぬ発言が飛び出してきた。


「……で、こちらも魔導具なんですが、気付いています?」


「……え、え、うぇ!? 食器も魔導具なんですか?」


 予想すらしていなかったことに、思わず声が上ずってしまう。ブロルは、そんな恭兵のことは、お構いなしに、徐々に熱を帯びながら、話を進めていく。


「ええ、間違いないです。私も、こんなに無造作に使っている人は、初めて見ましたよ。これ、出すとこに出せば、聖杯なんて呼ばれる可能性を秘めた代物ですよ?」


「…………ま、まさかぁ。只のカレー皿ですよ?」


 ただの皿に対して大袈裟だと、疑いの目を向けるが、『おかしな事を言っているのはそっちだ』と言わんばかりに、自信に満ちた眼差しをブロルが返してくる。


「私の特殊スキル【射抜く偏執狂の目いぬくへんしゅうきょうのめ】が、そう表示しているので、間違いないです」


射抜く偏執狂の目いぬくへんしゅうきょうのめ?」


 GGF(ゲーム)では、存在しなかった聞き慣れない特殊スキルに、やや前のめりになる恭兵。やはり、赤蜥蜴(アメルゲス)たち異界生物だけでなく、普通の人間にも、GGF(ゲーム)に存在しなかった特殊スキル持ちがいるようだ。


(レアスキルじゃないのか? ……ブロルさんは、活動拠点(グランベース)に、回収したいなぁ)


 物騒なことを考えている人間が目の前にいるとは気付いていないブロルは、流暢に自分の特殊スキルについて、説明を始めてしまう。


「ええ、私の目は、“魔法発動体”を見分ける事が出来るんですよ。機能までは、分かりませんが……。ちなみに、“貴方の目”も魔導具と表示されています」


(目も? ……スカウターのことかなぁ? 設定では、コンタクトレンズだし……。てか、外した事無いけど大丈夫なのかなぁ? まぁ、付けた覚えも無いけど……)


 流石に、異世界(こちら側)には、コンタクトレンズはない。素直に説明しても、理解されないだろうと悩んでいる時、パーカーが焦ったように、会話に割り込んできた。


「旦那、生物が“魔法発動体”なんて事があるか?」


 パーカーは、恭兵を横目に収めながら、ブロルの回答次第で、いつでも動けるような体制に移行していく。回答内容に当たりを付けているのだろう。


「……私の知る限りでは、人間では聞いたことがないですね。禍獣(かも)ならば、ありえますが……」


 恭兵は、思っていたより深刻で、不味い展開になりそうな雰囲気を感じ取り、『最悪、襲われたらブロルさんを回収しちゃうか』と“レアスキルを集めたい”欲望が溢れ出してきた。

 自分を襲ってくるような輩だ。少々、手荒に扱っても問題ない。回収して“真人間”にしてやろうなどと、武闘派な思考に傾いた結果、相手を試すような言葉を発してしまう。


「……わ、私達は禍獣(かも)じゃないと思うのですが……記憶が無いので、絶対とは言えないんですよね。……どうされますか?」


 挑発的な発言と同時に、脳内通信を起動し、渋顔(ハイラント)達に制圧を依頼する。


『ハイラントさん。シュティルさん。パーカーさんが襲ってきた――』


 脳内通信が行われているなど、知るよしもないブロルだが、ここしかないというタイミングで、脳内通信を遮る発言を繰り出す。少しでも遅れていたら、即断実行派の先生(シュティル)に眠らされた可能性が高い。


「幸い、この事を知っているのは私と、今しがた聞いたパーカーだけです」


 未だ、理解が追いつかず、キョトンとしたままのパーカーを見て、してやったりとばかりに、ニヤリと笑うブロル。どうやら、パーカーを巻き込む機会を狙っていたようだ。


「――あっ!? 旦那は、これを最初っから狙っていたな?!」


 ようやく、嵌められたことに気付いたパーカーは、抗議の声を上げるが、時すでに遅し。それが分かっている為、声も大きくなってしまう。


「あぁ……まったく! 大声出すなんて、デリカシーの欠片もないですね。他の人にも、知らせたいのですか? そもそも、自分から付いてきた癖に、文句を言うなんて。ひどいクレーマーですね」


 指摘は最もなのだが、加害者の言い分としては最悪だ。恭兵がツッコミ病ならば、ブロルはパーカー限定の“煽り病”を患っているのだろう。


「――なっ!? ……あ、後で覚えていろよ!」


 見事な負け惜しみを口にしながら、地団駄を踏むパーカー。あまりにも無駄のない洗練された地団駄から想像できるのは、きっと、毎回のことなのだろうということだ。


「パーカーは、置いておいて、私と同じ特殊スキルなんて、存在しないと思いますから、このまま都市に入ってしまいましょう」


 芸術的な地団駄など目に入らないとばかりに、話を進めていくブロルの非情な行いが、パーカーの哀れさを磨き上げていく。


「だ、大丈夫でしょうか?」


 流石に可哀想になってきたパーカーを心配した言葉だが、ブロルには届かない。


「大丈夫ですよ。私こう見えて、有名人ですから、お任せ下さい」


 どう解釈すれば、都市に入る心配をしているように聞こえたのか謎だが、とりあえず心配は要らないようだ。

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