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050 城塞都市潜入(27)

 ――チンッ


 ドアを(くぐ)ると、前回と同様に、エレベーターが開く音が聞こえてきた。


「気が利くエレベーターだなぁ」


 どうやら、ドアを(くぐ)って、自宅(こちら側)に戻ってくると、エレベーターが開くようになっているようだ。


「さて、結果はどうなっているのか……」


 今回の最大の目的は、地下駐車場の時間巻き戻しの有無だ。巻き戻っていれば、今後、ガソリンの補給に困らないし、銃弾を撃ち込んでも、壁が復元されるので、射撃練習場として利用か出来る。逆に、戻らなければ、巨大倉庫として、キャンプギアを保管する事が出来る。


「ガソリンの補給は、一番大事だけど、気持ち的には、巨大倉庫に一票入れたい」


 異世界(向こう側)で、愛車(E:POP)を使うのであれば、ガソリンの確保は必須だ。地下駐車場には、他にも車が止まっているので、当面は補給出来るが、いつかは無くなる。


 また、異世界(向こう側)では、無舗装の道を走る事になる。故障も発生しやすいだろう。恭兵は、車の整備などは出来ないので、巻き戻った方がメリットは大きい。


「まぁ、どちらにせよ、メリットはあるからいいか」


 早速、エレベーターに乗り、『Lv2』のボタンを押す。エレベーターが動き出し、癖になる独特の浮遊感を堪能していると、あっという間に地下駐車場に到着する。後ろ髪を引かれる思いで、エレベーターから出ると、ペグを置いた場所に向かう。


「……無いな。時間が戻るんだな。てか、愛車(E:POP)あるから、ペグ見なくても分かったけどね」


 当たり前の話だが、持ち出せる物がなかった倉庫(アプローチ)とは違い、愛車(E:POP)を持ち出しているので、ペグを置いていく必要はなかった。


「……まぁ、ペグはいっぱいあるし……そんなに損する訳じゃないし……」


 自分の愚かさに、段々と声が細くなっていく。落ちていく気持ちを何とか立て直す為に、言い訳を絞りだそうと頭をフル回転させる。


「……あっ! そうだよ! 物を保管しつつ、時間が戻る可能性を検証したんですよ!」


 言い訳を絞り出し、明るい声が戻っていく。気持ちを立て直すことに成功したようだ。別に、誰からも、攻められることはないのに、言い訳が必要なのは、面倒な性格だ。


 とにかく検証の結果、時間が巻き戻ることが確定した。これにより、ガソリン確保の目処は立ったし、ライフル銃の練習が出来る射撃場の確保も出来た。


「まずは、ライフル銃の練習しますか」


 早速、背中に担いだライフル銃を手に持ってみる。今回、譲ってもらったライフル銃は、PSH1(サイレンサー付)NL(麻酔化狙撃銃)だ。7.62mm口径セミオートスナイパーライフルで装弾数20発+1発、予備弾倉一本で、最大所持弾数40発。今までで、最も少ない所持弾数だが、背負い袋(ザック)に予備弾倉がストックできるので、問題はない。


「距離は五十メートル位かな。初めて撃つから緊張するな」


 見張りをしている間に、据銃(きょじゅう)練習や空撃ち練習はしていた。その際、実際のライフル射撃と違い、スコープを覗くとスカウターが起動し、十字照準線が表示されることが判明している。

 十字照準線は、目線で動かすことができ、十字照準線を動かすと、連動して、自然と体も動く。最初は、違和感があったが、空撃ち練習の繰り返しで、克服できた。


 ――バスッ


 PNー(サイレンサー付き)TB(麻酔化ハンドガン)と同様に、射撃音もなく、反動もほとんど無い。


「……凄いな。狙い通りの狙撃だ」


 寸分違わすとまではいかないが、初めての射撃とは思えない精度で、的に当たった。どうやら

 ライフル銃は他の銃に比べて、装填数は少ないが、命中率は高いようだ。


「これ、実戦でも使えるんじゃないか?」


 元がGGF(ゲーム)である以上、“一流”とまでは行かないが、ある程度は、銃を扱えるようにサポートされている。でなければ、GGF(ゲーム)開始直後で、詰むことになる。


「よし、しっかり練習して、渋顔(ハイラント)を驚かしてやる!」


 謎のサプライズを目指して、ひたすら、狙撃練習に打ち込む。“気の良い上司”には、気に入られたいと思うのは、会社員の性かも知れない。





 ***





 予備弾倉を撃ち切ったのは、十九時四十五分。


「とりあえず、カレーでも作りますか……」


 カレーのことを思い出して、少し憂鬱になる。


「……なんであんなにカレーが好きなんだ? 確かに、美味しいけど、いい大人が争うようなことか?」


 ……傍から見れば、キャンプ道具で、ムキになっている渋顔(ハイラント)先生(シュティル)には、疑問を持たない恭兵も、大概なのだが、その事には気付いていない。


「……こんな時こそ、親友(マスター)の出番なんだけどなぁ。あの二人からしたら、神様になるんじゃないか?」


 週三で、カレーを食べていた親友(マスター)。美味しいと聞くと、北は、北海道から南は、沖縄まで、出かけていくバイタリティの持ち主だった。自分自身でも、スパイスを調合して作っていたので、よく食べさせられた。


「……いや、親友(マスター)は不要だな。辛いのは苦手だ。私は、普通のカレーが好きなんだよ……」


 それを親友(マスター)に言うと、『普通のカレーってなんだ?! カレーに普通なんてない!』と、語気強めで捲し立てられたのは、苦い思い出だ。


「……幸い、ルーは甘口と中辛しか持ってない、レトルトも同じだ」


 異世界(向こう側)にカレー文化がなければ、渋顔(ハイラント)達が、スパイスカレーにハマる要素はない。


「よし! 異世界(向こう側)のカレーは、“甘口”が普通にしてやる!」 


 とんでもない異世界浸食計画を思い付き、親友(マスター)の悔しがる顔を想像して、ほくそ笑む。


「まずは、わざと匂いを流して、ブロルさんが釣れるか試してみるか!」


 どうやら、本気で“甘口文化”を形成する気らしい。Lv1の自宅に戻り、市販のルーの箱に記載してあるレシピにハチミツをプラスしたカレーを作って、異世界(向こう側)に戻っていった。


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