表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/74

005 裏世界っぽい?(5)

「よし。これでどうだろう」


 恭兵はスマホで設定を終えてから、渋顔(ハイラント)先生(シュティル)に恐る恐る、すり足で近づいてみる。


「……どうやら大丈夫みたいだ」


 今回試したのは、渋顔(ハイラント)に恭兵自身をレンタルさせて、渋顔(ハイラント)と同じパーティーに登録することだ。


「――フハッハッハッハッ! これで私の安全は完全に保証された! 世界狙っちゃう? ねぇ?  狙っちゃっていいの? これ!」


 恭兵は、最強のシュティル(武器)を手に入れて、浮かれている。


「――なんてね、先生(シュティル)が実際に、助けてくれるかどうかわからん」


 ……どうやら、心配する必要はなかった。恭兵は、自分の命が賭かっている状況で、自分に酔っている暇はないと自覚していた。


「しかし、よく考えたら、モンスターが出るかもわからないし、襲われない可能性だってあるよなぁ」


 そもそも、このGGF(ゲーム)には、本来モンスターが出てこない。本来の敵は、テロリストだ。テロリストが襲ってきたら、それはそれで、恐怖体験だろうが、あくまで人間だ。対話が出来る可能性は、残されている。また、モンスターでもテロリストでも、敵対すると決まった訳ではない。


「それに、渋顔(ハイラント)のことも気になるしなぁ」


 渋顔(ハイラント)は、未だに動く気配がない。今回の設定は、渋顔(ハイラント)がリーダーとして、パーティー登録している。その為、彼がメインで動く必要があるはずだ。恭兵は、試しにと、渋顔(ハイラント)から離れてみる。


「あれ? なんか変な力に引っ張られてる?」


 なにか見えないゴムが結びつけられているように渋顔(ハイラント)の方に引っ張られる。


「ぐぎぎぎぎぃぃ……ファイト一発ッッッ!!」


 ――ドサッ


 ……渋顔(ハイラント)が倒れた。


「ひっ! すみません!」


 恭兵は、渋顔(ハイラント)には、つい丁寧語になってしまう。なぜなら、主に顔面から歴戦の強者オーラが、ヒシヒシと感じられるからだ。


(くっ! (創造主)厨二病(センス)に感謝したまえ!)


 …………完全に、負け惜しみである。


 しかし、この設定だと、渋顔(ハイラント)から離れる事が難しいと判明したことは朗報だ。


 このゲーム本来の敵であるテロリストは、まるで空気を吸うように、NPC(ノンプレイヤーキャラ)を拉致監禁してる連中だ。恭兵の扱いがPC(プレイヤーキャラ)だという保証はない。アプリに名前があるから、大丈夫なんて考えは危険だ。


 万が一、恭兵が拉致されても、この設定ならば、先生(シュティル)から、引き離されることはない。……渋顔(ハイラント)を引きずることにはなるが。


「次は、ミニゲームで、渋顔(ハイラント)が動かせるのか確認するか」


 アプリを起動し、ミニゲームを選択する。 スマホ画面には、2Dにデフォルメされた渋顔(ハイラント)が表示されている。その後ろには、先生(シュティル)と恭兵?が同じく、デフォルメされて、並んでいる。


 先生(シュティル)は、さすが美人スナイパー。デフォルメされても、美しい。それに比べて、恭兵?のデフォルメキャラはひどい。名前表記が『ヴァイス(笑)』と表示されている。


「……これはもう私の厨二病(センス)に対する宣戦布告だな!? ……よろしい! ならば、戦争だッ!」


 ヴァイスは、恭兵が『名前を変えろ』と要求した時に提案した名前だった。ご丁寧に(笑)を付けて、変更してある。


(くッ! 何処の誰かは知らんが、完全にディスってきてやがる!? …………いや、よく考えれば、こんな状況に放り込んだ犯人が、わざわざ、こちらに接触してきたのか。私はここにいるよ、気付いてって事だよな)


 確かに、わざわざ存在をアピールしていることは間違いないだろう。


(だったらさぁ、もっとやり方ありますよね? ツンデレですか? 小学生男児ですか? こんなの大人な私以外なら即日開戦ですよ?)


 いや、さっき『戦争だッ』とか言ってた気がするが……。


(今回は許してあげますから、わかりますよね? 世の中、何にだって対価は必要なんですよ。謝罪と賠償はセットなんて、心の狭いことは言いません。何処のどなた(なんか凄そうな存在)か知りませんが、賠償(パツキン王子顔)よこせや! 本当お願い致します!! これマジ!!)


 欲望が丸出しである。どうしても、金髪王子顔になりたいらしい。しかし、その何処のどなた(なんか凄そうな存在)に伝わると確信でもしているかのように、心の中で叫んでいるが、意味があるのだろうか?


 ふと、スマホを見てみると、デフォルメ恭兵の名前表記が変わっていた。


『ヴァイス(なんか…ゴメン(・´ω・`)ゞ)』


 ……どうやら、心の声は、ちゃん伝わっているようだ。賠償はないが、一応、謝罪はしている。


「……賠償無しか! よろしい、戦争を始めようじゃないか!!」


 ……しかし、どうやら、恭兵のお気に召さない回答だったようだ。恭兵が求める賠償(パツキン王子顔)の方に問題点があると思うのだが……。


 まぁ、この愉快犯(なんか凄そうな存在)にも問題はある。どうやら重度の“かまってちゃん”らしい。こんな短時間で、ヴァイスの名前を掲示板代わりにして、イジってくる適応能力の高さには、驚かされる。


「こいつは、相手にしたら、調子にのるタイプだ。……くっ! チラチラと名前が目に入る。無視だ! 無視!」


 重度の“ツッコミ病”を(わずら)っているの恭兵には、この手の相手をスルーする能力はない。“かまってちゃん”とは、相性バツグンだ。


 恭兵は、チラチラと目に入る伝言板(ヴァイス)を見えないものとし、ミニゲームを何とか起動させた。


 スマホのミニゲームは、視点が俯瞰で、ターン制の戦闘システムを採用している。一画面構成で、PCやmobはマス目単位で移動・配置されている。いわゆる、シミュレーションRPGに分類されるゲームシステムだ。

 マップは選択できず、最終セーブの場所に依存している。つまり、現在の恭兵がいると思われる森が、表示される。


「よし、このまま、上手くいけば、渋顔(ハイラント)を動かせるはず。……倒れたままじゃ、申し訳ないもんな」


 今現在、渋顔(ハイラント)は、マネキンのように、直立不動の体制で、顔面から倒れたままだ。

 その横には、先生(シュティル)が警戒体制で立っている為、シュールな光景になっている。護衛対象が倒れているのに、助けないのはどうかと思うが、ゲーム上に無い動作は、出来ないのだろう。


 スマホ上の渋顔(ハイラント)をタップすると、仮想コントローラが表示されるので、渋顔(ハイラント)を立たせる為に、少しだけ動かしてみる。


「おお! ちゃんと立ち上がった!」


 恭兵は、倒してしまった負い目からか、立ち上がった渋顔(ハイラント)に睨まれているように感じていた。……『倒れたまま、動いたら面白いな』と期待していたことも、睨まれていると感じる一因だ。


 スマホに表示されるマップは渋顔(ハイラント)の周辺が表示されている。どうやら最大縮小状態で、半径五十m位の範囲が表示されているようだ。

 とりあえず、スマホで操作した時の渋顔(ハイラント)の動きを確かめるため、マップの端まで、動かしてみることにしたのだが……。


「――ちょっ! うあァァァ!!」


 恭兵は、完全に失念していたが、渋顔(ハイラント)と恭兵は、赤い糸(見えない力)で繋がれている。


 ――ドサザザザッ


 結果、今度は恭兵が顔面から、勢い良く、地面向かってダイブした。


「「…………」」


 ヒリつく顔を上げると、渋顔(ハイラント)と目が合う。心なしか『渋顔(ハイラント)がニヤニヤして、自分を見ているような気がする……』と、被害妄想を抱いていた。実際の所は、渋顔(ハイラント)は無表情のため、そんなことはない。


「……意趣返しですか!? そうなんですよね?!」


 ……どう考えても、恭兵の失敗なのだが、愉快犯(なんか凄そうな存在)のせいか、疑り深くなっている。……いや、自分の失敗の照れ隠しだろうか。


 今回の結果から、渋顔(ハイラント)メイン設定では、渋顔(ハイラント)自身を操作することは、困難だと判明した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ