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046 城塞都市潜入(22)

 ゆっくりと開いたエレベーターのドアの先には、恭兵が期待していた未知の風景などではなく、馴染み深い風景が、広がっていた。


「……これ、地下駐車場だよな」


 毎朝、通勤のために訪れる場所だ。異世界(向こう側)に拉致された日に、訪れようとした場所でもある。その場所が『Lv2』の階層ならば、中々に皮肉が効いている。


「……地下なのに、二階なんだなぁ」


 そもそも、階層という概念があるのかすら、怪しい。GGF(ゲーム)には、ワープコアが存在して、異世界(向こう側)でも、普通に使えている。エレベーターが起動したときの独特の浮遊感は、もしかしたらワープしているのかもしれない。


 恭兵は、慣れた足取りで、自分の愛車が置いてある区画に歩き出した。毎朝のルーティーンだ。意識せずとも、愛車の元に辿り着く。


 ――ピピッ


 愛車のキーを開け、運転席に乗り込む。毎日乗り込んでいた愛車だ。乗り込むだけで、不思議と落ち着く。


 恭兵の愛車は、“ドリカE5”に、車中泊が快適になる機能を追加した四菱自動車の正規ディーラーが販売している“E:POP”だ。

 ミニバンSUV“ドリカE5”の設計思想を継承しつつ、運転席・助手席は、回転シートに変更して、リビングスペースを確保できたり、ポップアップルーフを導入することで、就寝スペースを確保できる、いわゆる“バンライフ”仕様車となっている。キャンピングカーのように、キッチンはないが、サブバッテリーやソーラーパネル、FFヒーターを装備してあるので、快適な車中泊が約束されている。


「お前も、異世界(向こう側)に連れてってやるからな。一緒に異世界キャンプを満喫しような」


 恭兵にとっては、愛車(E:POP)は只の車ではない。全国各地を一緒に回った最高の相棒だ。異世界(向こう側)でも、活躍させてあげたいという思いが湧くのは、自然なことだった。


 まず、保管小袋(ウエストポーチ)から、キャンプギアを取り出し、愛車(E:POP)に積み込む。積み込み終えると、今度は愛車(E:POP)を収納した。


保管小袋(ウエストポーチ)………マジ優秀だなぁ」


 あまりにも、優秀な保管小袋(ウエストポーチ)に、関心しながら、『Lv2』の利用方法について、考えていた。


「これだけ縦長な空間なんだから、射撃場として使えるかな? あとは、倉庫として使えると助かるけど……」


 これについては、検証が必要なため、ペグを一本、置いていく。倉庫(アプローチ)と同じ検証方法だ。次回、自宅(こちら側)に戻った時、結果が分かるだろう。


「とりあえず、今日は『Lv1』の自宅で休んで、明日考えるか」


 腕時計を見ると、『03:23:04』と表示されていた。休憩したとはいえ、禍獣(かも)相手の実戦訓練で、心も体も疲れている。エレベーターに乗り込み、『Lv1』の階層に着く頃には、眠気との戦いが、ピークを迎えていた。


「……もう、限界だ……」


 玄関に着くと、装備品を脱ぎ落としながら、寝室に向かい、着の身着のまま、倒れ込むようにベットに入った。





 ***





 恭兵が、目を覚ましたのは、正午を過ぎた頃。相変わらず、窓の外は真っ暗なままだ。腕時計がなければ、時間感覚が狂うだろう。


 ――グゥゥ


 最初に感じたのは、空腹感だった。珍しく、九時間も寝ていた影響だ。普段は、どんなに眠っても、六時間が精々なのだが、よほど疲れていたのだろう。


 朝食の準備をしようと寝室からキッチンに向かったのだが、目の前には、弁当(バラエティ特盛り)が鎮座していた。


「……ハッ! 私は今まで何をしていたんだ?」


 恭兵は、気が付いたら、大好物である弁当(バラエティ特盛り)を平らげていた。朝から弁当(バラエティ特盛り)を食べても、文句を言う産業医はいない。誤魔化す必要はないのだが、しっかりと癖になっているのだろう。……しかし、よく飽きないものだ。


 空腹を満たすと、次に感じたのは、体のベタつき。昨日は、着の身着のままベットで寝たため、お風呂に入ることにした。


「ふぅー。生き返るなぁ……。異世界(向こう側)には、温泉文化あるのかなぁ? 露天風呂あるといいなぁ」


 キャンプと温泉は、親和性が高い。テントの設営で、汗だくになることも多いからだ。その為、温泉が併設されている最高のキャンプ場も存在している。恭兵は、キャンプ場を選ぶ時に、近くに入浴施設があるのかは、必ず確認していた。


「……渋顔(ハイラント)達に、お風呂を持って行こうかな」


 保管小袋(ウエストポーチ)の時間経過が遅い事は確定している。ポータブル浴槽にお湯を張って収納すれば、異世界(向こう側)でも、お風呂に入れる。『決して、先生(シュティル)の湯上がり姿が見たいとかではない』なんて言い訳が聞こえてきそうだ。


 お風呂の準備を終えると、『Lv2』の射撃場化計画に取り掛かる。前回、倉庫(アプローチ)に設置したダーツの的を使用するため、外してみるとボロボロで使えないことが判明。自宅に戻れば、同じくダーツの的はあるが、毎度、設置出来るように改造するのは面倒だ。


「駐車場はコンクリートの壁だから、直接ターゲットの絵を貼り付けるか」


 倉庫(アプローチ)と違い、地下駐車場なので、外に繋がっていない。その為、射撃練習をすると、銃弾は壁にめり込むことになる。


「……倉庫(アプローチ)と同じように、時間が戻らなかったら、壁が汚くなるなぁ」


 壁が汚くなることに、抵抗感を覚えた恭兵は、今回射撃練習を見送ることにし、『Lv2』の検証次第で、今後の計画を立て直すことにした。


「よし、さっさと異世界(向こう側)に移動しますか」


 道具の整理をしてから、異世界(向こう側)へ向かう為に、階段ドアに向かった。


「なんか、もう普通になってきたなぁ」


 階段ドアから異世界(向こう側)に行くのも六回目となる。地下駐車場に向かう為に、使った回数よりも、異世界(向こう側)に移動する為に使った回数の方が多くなっている。


 恭兵は、なんとも言えない気持ちになりながら、階段ドアを(くぐ)った。

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