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044 城塞都市潜入(20)

 ブロルは、星灯りの下を暗がりに向かって、去って行く恭兵の背中を見送っていた。


「……旦那、どう思う?」


 護衛リーダーの男が、ブロルの背後から話しかける。【パーカー ・ハンフリー】という名前のブロルより、少し年下の中年男だ。ぱっと見は、山賊と思われても仕方ない無精ひげを生やしている。そのせいで、ブロルより年上と間違われることも多い。


「かなりのお人好しって感じだったな。この先が心配だ」


 ブロルとパーカーが並ぶと、ブロルの恰幅の良さが、より際立つ。その為、一方的に損をしているかと言えば、そうでもない。変わりに、洗練された立ち振る舞いは、際立つので、プラスマイナスゼロだ。


「――いや、そっちはどうでもいい。分かっているだろ? 俺が聞いているのは、後ろの二人だ」


 パーカーは、不満そうな顔で、ブロルを見ている。期待していた答えではなかったのだろう。


「……ああ、言うまでもないだろう? あれは怖いな。纏っている雰囲気から別世界だ。……吹っかけるなよ。あれは、表情一つ変えずに、私達を瞬殺できる類の人種だ」


 ブロルは真剣な眼差しで、パーカーに警告していた。普段はニコニコとしているため、より真実味を帯びる。商人として、身についた癖なのだろう。


「はっ、ウチの連中に、アイツらに仕掛けるバカはいないさ。旦那が分かっているなら、問題はない」


 パーカーは、ニッと笑いながら答えた。


「まぁ、刺激しない程度に、お近づきにはなろうと思っているよ」


 ブロルが営業スマイルで、そう答える。パーカーは、『また、悪い癖が出たよ』と言わんばかりのヤレヤレと言った表情をしていた。


「……旦那の()()か?」


「ああ、()()だよ」


「……旦那の()()は絶対だからな。……仕方ない、俺達も、噛ませてもらうぜ」


「…………命の保証ないぞ?」


 ニコニコとした顔で、パーカーを脅している。


「何年の付き合いだと思っている? それなら旦那は手を出さない。あの坊ちゃんがいるからだろ?」


「……………彼は、お人好しだからね」





 ***





 恭兵達は、ブロル達の集団から少し離れた、城塞都市の壁を背に出来る場所に移動していた。


「壁付近なら、禍獣(かも)が近づかないらしいので、この辺にテントを建てますか?」


 見張り初心者の恭兵にとっては、背中が壁なら、前方に集中出来るため、見張りやすい。その分、禍獣(かも)に襲われると逃げられないのだが、逃げる選択肢などは初めからないので、問題はない。


「ああ、この辺で大丈夫だ。早く、テントを建てよう」


 何故か、渋顔(ハイラント)がソワソワして、急かしてくる。


(……ま、まさか、壁登りを選択しなかったのは、テントが建てたい為か?)


 今回、建てる予定のテントは、渋顔(ハイラント)に渡していたソロ用テントではなく、グループ用テントだ。全員揃っての野宿は初めてなので、大型テントにしたのだ。

 理由は、恭兵が一人だと怖いとか、先生(シュティル)の寝顔が見たい等だが、今夜は、恭兵一人で見張りなので、意味はない。


 使用する大型テントは、『テント界のロールスロイス』と呼ばれるフルバーグが販売しているテントで、性能や価格は一級品。オプションで、前室と後室を追加できたり、テント同士を接続できたりと、極地でのベース使用を想定して、設計されたアトランティスという名前のテントだ。

 最大八人が就寝可能な大きさであるにも関わらず、重量は約10㎏と非常に軽量なこのテントは、恭兵の持つテントコレクションの中で、断トツの高級品のため、既にオプションを含めて、三つ増殖させている。


 事前に、渋顔(ハイラント)には、渡していた。その際、テント設営の動画を見せていたので、早く建てたくて、ソワソワしているのかもしれない。


 恭兵は、渋顔(ハイラント)先生(シュティル)がテントを建てている間に、焚き火の準備を進めていた。普段はソロなので、軽量、コンパクトな焚き火台を使用しているが、保管小袋(ウエストポーチ)の登場により、重量やサイズを考える必要がなくなった。また、人数も三人なので、ある程度の大きさが必要となる。


 そこで、今回は、サールマンのファイヤープレスという焚き火台を使用することにした。井桁(いげた)型の燃焼効率が良い焚き火台で、ステンレス製なので、熱にも強く、丈夫な作りとなっている。買ってから七年経過しているが、今でも問題無く、使用できている。


 サールマンというメーカーは、日本で最も有名なアメリカ発のアウトドアブランドで、初心者からベテランまでの幅広いニーズに応えるメーカーだ。恭兵も、初めて買ったアウトドア用品はサールマンのクーラーボックスだった。

 恭兵は面倒くさがり屋なので、使っていないが、バースデーランタンとして、サールマンのランタンを愛用するベテラン勢も多く、長い間、キャンパーに愛されているメーカーだ。


「「…………」」


 恭兵は、ふと視線を感じ、後ろを振り返る。すると、仲良くテントを設営していた二人がじっと、こちらを見ていた。


「な、なにか、建て方が分かりませんでしたか?」


 フルバーグのテントは、他の大型テントよりも建て方が、簡単だと恭兵は思い、二人に任せていたが、ソロテントに比べると、部分的にスリーブを通す必要があるので、難しいのかもしれない。


「……いや、そのカッコイイ物は、なんだ?」


 ……どうやら、焚き火台が気になっただけのようだ。


「そんな奴があるとは聞いていないぞ? 何故、一人で組み立てるんだ? まずは、俺達に伝えるべきだろう?」


 渋顔(ハイラント)先生(シュティル)は、お怒りのようだ。


「…………す、すみません。作業を分担した方が設営の効率が良いかと思いまし――」


「――恭兵は、何度も使用しているのだから、組み立て作業は、俺達に任せてもらおう!」


 恭兵の謝罪と言い訳を遮り、渋顔(ハイラント)が、自分達に設営させろと要求してくる。渋顔(ハイラント)にしては、珍しく、効率を度外視した欲望満載の発言だ。完全にキャンプギアの虜になっている。


「賛成、一票」


 ……先生(シュティル)も、キャンプギアの虜になっているようだ。恐るべし、キャンプギア。

 恭兵は、思っていた以上のハマり具合に、若干、引き気味になりながら、『端から見たら、自分もこんな感じなのだろうか?』と、反省していた。


「……了解しました。今後は、そうさせて頂きます」


 面倒くさがり屋の恭兵と、絶賛キャンプギアにハマり中の二人。ある意味、WinWinの関係が築けそうだった。

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