042 城塞都市潜入(18)
馬車を襲っていた野盗を短時間で制圧すると、活動拠点から通信が入る。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。どうやら上手く、救出できたようだな。これからどうする? こちらから接触をはかるのか?』
『いや、今は都市潜入が最優先だ。あちらは、我々を認識出来ていない。このまま、城塞都市に向かう』
渋顔は、GGFプレイ時と、同じ受け答えをしていた。
(……生で、リアルメイド見たかったなぁ)
前回は、画面越しで見ただけだった。しかも、指示を無視して、馬車に接触した結果だ。さすがに、リアル鬼軍曹相手に取れる手段ではない。
仕方なく、肉眼でのリアルメイドは諦め、AR機能で、どうにか見れないか調整していた。
(画面越しよりは、生に近いよなぁ。それに、この文明レベルだと、ガーターベルト着用の可能も否定できない。…………まじで?!)
AR《拡張現実》の調整を急いで終え、リアルメイドの登場……いや、ガーターベルトの出現を、今や遅しと待っていると……。
――ジャキッ
「……な、なぜ、銃口がこちらに向いているのでしょうか?」
「お前醜穢、狙撃許可希望」
恭兵と先生は、悪い意味で、以心伝心の関係らしい。
「……許可は下りないぞ。まだ、任務中だ。仲良くしろ」
二人の掛け合いのあしらい方にも、慣れた渋顔。
――コクッ
「よし、ここでの情報収集は完了したな。見つからない内に、城塞都市に向かうぞ」
「――あ、あの、まだ馬車の中の人物の情報収集が出来てません!」
恭兵は、諦めきれず、悪あがきをしていた。ガーターベルトは、全てに、優先されるようだ。
「大丈夫だ。シュティル、頼めるか?」
――コクッ
先生は頷くと、特殊スキル【羽織る至極色】を発動し、風景に溶け込む。
「よし、あとはシュティルに任せれば、大丈夫だ。行くぞ」
「あ………………ッ」
恭兵は、“起死回生”の一手がないか必死で、考えていた。
「……なにが不満なんだ?」
その空気を渋顔が読んで、質問してくる。さすがは、理想の上司№1の渋顔だ。怖い顔なのに、気遣いが凄い。
「…………いや、大丈夫です」
結局、“起死回生の一手”が見つからず、かといって、気遣ってくれる聖人に、欲望を吐き出すことは出来なかった。
(くっ! 逆に、気遣いが仇となるとは! 奴に煩悩はないのか?)
フィクションの学級委員長を地で行く渋顔は、ゲームキャラ通りなのだろう。下ネタを話す姿など想像できない。
恭兵に出来たのは、渋顔の後ろをトボトボと、着いていく事だけだった。
***
ヒロインすら見ることが出来なかったヒロイン救出イベントから、約二時間位経過していた。
その間の移動中も、もちろん、恭兵の戦闘訓練は続いていた。恭兵の体感なので、確証はないが予想通り、夜間は禍獣の襲撃が増えたように感じていた。
(これは、確認しないといけないな)
恭兵は、思い出すか怪しい“心のメモ”に、城塞都市での重要事項として、刻み込みながら、前方を凝視していた。
視線の先にあるのは、巨大な山々が両脇にそびえ立つ【城塞都市レーベルク】
すでにGGFで、画面越しに見ている風景だが、やはり生で見るのとは、天と地ほどの違いがあった。
「初めて富士山を見た時みたいな感覚だ……」
恭兵は、生まれも育ちも九州で、就職も地元でしていた。その為、初めて富士山を見たのは、親友が、高校を卒業後、静岡の大学に進学したので、遊びに行った時だった。
富士山の第一印象は『まるで壁のようだ』だった。想像していたより、遙かに大きく、綺麗だったのだ。
別に、垂直にそびえている訳ではないのだが、何故かとんでもなく高い壁のように感じたのを覚えている。恭兵の今までの人生の中で、風景で衝撃を受けたのは、これっきりだ。
海外に行けば、もっと凄い山があるのだろう。しかし、キャンプ好きではあるのだが、恭兵はインドア派である。キャンプでも動画や小説を読んでいるタイプだ。海外旅行の経験なんてない。パスポートすら持っていない。
「こんな風景が見れるのなら、海外旅行も悪くないかもなぁ」
「うん? どうした? なにかあったのか?」
無意識に喋っていた恭兵に、怪訝な顔で、渋顔が、話しかけてくる。
「――す、すみません。独り言です」
(渋顔や先生は、感動していないみたいだ……)
渋顔達にとっては、慣れた風景なのか、もしくは、ゲームキャラの為なのか。恭兵は、この感動を共有出来ないことに、少し寂しさを感じながら、城塞都市の入口に向かって歩いていた。
初めての誤字報告頂きました!有り難う御座います!
直接、御礼をさせて頂きたかったのですが、どなたからの報告か分からない仕様みたいです。(私が使い方間違えているのかもしれません。すみません。インターネットで使い方調べてみます)
本当に有り難う御座いました!
あと、更新時間が守れずに、大変申し訳ございません。次回からは、必ず……。




