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038 城塞都市潜入(14)

 ドアを(くぐ)ると、待ちきれないとばかりに、自宅にも戻らず、倉庫(アプローチ)で、保管小袋(ウエストポーチ)の検証に取り掛かった。


「まずは、背負い袋(ザック)が取り出せるかだが……」


 腰に付いている手のひらサイズの保管小袋(ウエストポーチ)に、手を差し込むと、手首あたりまで、スルスルと入っていき、指先に何かが当たる。それを引っ張り出すと、明らかに大きさの合わない背負い袋(ザック)が出てきた。


「よし、問題ないな。あとは、どの程度までの大きさが入るのかだな」


 まずは、目の前にズラリと並ぶ、キャンプギアが満載の道具棚を入れてみることにした。


「さて、どうやって入れようか……。流石に持ち上がらないからなぁ」


 キャンプギアが収納されている道具棚は、かなりの重量だ。どうしようか思案していた時、まるで掃除機が吸い込んでいるように、保管小袋(ウエストポーチ)に収まっていく光景が頭に浮かぶ。


「……保管小袋(ウエストポーチ)の入口を道具棚に当てたら、吸い込まないかな?」


 試しに当ててみると、西遊記に出てくる紅葫蘆(不思議なひょうたん)のように、保管小袋(ウエストポーチ)が道具棚を吸い込んでいった。


「凄いな光景だな……。一応、自宅(こちら側)は、現実世界のはずなんだけどなぁ」


 恭兵は、現実世界と言っているが、周りは謎の暗闇空間なので、現実世界と呼ぶには、無理がある。謎の空間に、自宅だけ漂っているような状態だろう。世界の理もかなり、曖昧になっているのかもしれない。


「しかし、収納したは良いけど、どうやって出そうか?」


 保管小袋(ウエストポーチ)に手をいれて、引っ張ってみたが、重くてビクともしない。

 仕方が無いので、保管小袋(ウエストポーチ)をひっくり返してみると、道具棚が飛び出してきた。


 ――ドガッ、ガラガシャンッ


 必然的に、道具棚もひっくり返ってしまい、辺りには、キャンプギアが散乱してしまった。


「…………」


 何とも言えない表情の恭兵。誰にも、文句が言えない状況だ。黙々と散らかってしまった道具棚を整理しながら、対策案を練っていく。


「……これは、収納時に向きを調整しなければならないなぁ」


 今度は、道具棚上部に保管小袋(ウエストポーチ)()()にして、吸い込ませてみる。


「これで、逆さにしても、綺麗に出てくるはず……」


 なるべく衝撃を与えないようにするため、保管小袋(ウエストポーチ)の入口を地面につけて、蓋を開ける。


 ――ゴスッ


 地面に道具棚が着地する手応えをを感じて、ゆっくりと保管小袋(ウエストポーチ)を引き上げていく。


「よし、上手くいったみたいだ」


 想像以上に抵抗感なく、整理したままの状態で、スッと道具棚が出てきた。


「あと気になるのは、時間経過の有無だが……部屋にもどるか」 


 部屋に戻った恭兵は、キッチンでお湯を沸かす。沸かしたお湯は、湯たんぽに入れ、保管小袋(ウエストポーチ)に収納した。あとは、数時間後に取り出せば、時間経過の有無が分かるだろう。


「さて、少し休憩したら、夕食の準備をしてから、戻りますかね」





 ***





 三時間ほど休憩を取ってから、夕食のカレー用に、トッピングのゆで卵と付け合わせのサラダを準備していた。

 メインのカレーは、保管小袋(ウエストポーチ)の時間経過の有無が判明してから作る予定だ。


「そろそろ、湯たんぽを取り出してみますか」


 保管小袋(ウエストポーチ)から、湯たんぽを取り出して、触ってみると熱々だった。


「少なくとも、時間経過が遅い事は確定だな」


 再度、湯たんぽを保管小袋(ウエストポーチ)に戻して、一週間程度、放置してみることにした。


「時間経過が遅いなら、カレーは熱々で持って行けるな」


 早速、カレー作りに取り掛かる。異世界(向こう側)に持ち込むカレーは、市販品のルーを使用し、箱の裏に書いてあるレシピ通りの何の変哲も無いカレーだ。恭兵は、カレーに対しては、何の思い入れもない。


「サラダやドリンク類は、クーラーボックスに入れようかなぁ」


 恭兵が愛用しているクーラーボックスは、釣り具メーカーのものだ。アウトドアメーカーのクーラーボックスは、オシャレなのだが、断熱材にウレタンを採用している。対して、釣り具メーカーは、真空パネルを採用していて、保冷性能が高い上、コンパクトだ。恭兵は、釣りメーカーのステッカーを剥ぎ取り、代わりにアウトドアメーカーのステッカーを貼って、キャンプギア感を出している。


「カレーは“シャトルコック”に入れよう」


 “シャトルコック”とは、魔法瓶構造のお鍋で、電気を使わない“ほったらかし”調理器具だ。 

 カレーやおでんなどの煮込み料理には、ピッタリの調理器具で、キャンプの時は、家で暖めておけば、キャンプ場に着く頃には、良い感じの煮込み具合になっている。今回は、完成品の保温効果が目的だ。


「ライスは、ガス炊飯器ごとでいいよな」


 このガス炊飯器は、普通のプロパンガス用炊飯器に、CB缶ガスが使えるように、レギュレーターなどを付け足した恭兵カスタムのガス炊飯器だ。

 恭兵も、飯ごうや鍋で炊いていた時期はあったのだが、保温性能が欲しくなり、ガス炊飯器を導入した。よく『決して、“ほったらかし”で炊けるので、楽をしたいために、導入したのではない。あくまで保温性能が欲しいのだ』と、自身に言い訳していた。


 準備が出来た“シャトルコック”と“ガス炊飯器”は、カトラリーや食器と同じコンテナに収納していく。どちらも保温に優れているので、取り出すときに、火傷する事はない。


 所持可能な保管小袋(ウエストポーチ)は、全部で八つ。背負い袋(ザック)、道具棚×3、クーラーボックス、コンテナを収納しているので、空きはあと二つ。

 道具棚を連結して、一つとする事も出来るのだが、サイズが大きすぎるため、今回は止めていた。今後、保管小袋(ウエストポーチ)に余裕が無くなったら、実施するだろう。


「とりあえず、空のコンテナでも入れておくか」


 コンテナがあれば、ひとまとめに収納出来るので、便利だ。二つの空き保管小袋(ウエストポーチ)にコンテナを詰めて、準備は整った。


「夕食の準備も出来たし、異世界(向こう側)に移動しますか」


 今までなら、増殖させるキャンプギアを慎重に検討、厳選し、泣く泣く置いていったこともあった。しかし、保管小袋(ウエストポーチ)の登場で、何も考えずに、大量に増殖させられる。その喜びは、言葉では表現できない程だ。


 軽い足取りの恭兵は、相変わらず、メンテナンス中のエレベーターを横目に、ドアを開けて、異世界(向こう側)に移動していった。


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