037 城塞都市潜入(13)
「さっきの戦闘で、何が悪かったか分かるか?」
渋顔は、ある程度、動けるようになった恭兵に、先程の戦闘の反省を促すように問いかけていた。
「……き、恐怖で、動けなくなってしまったことです」
恭兵は、ばつの悪そうな表情で答えた。今でも、あの大きく開いた口を想像すると、身震いがする。
「それは仕方ないと言っただろう。恭兵は自分自身で、戦闘に向いていないと自覚しているんだよな?」
自覚しているが、ハッキリと言語化されると、心が萎える。格闘技経験なんて無いし、人生で、殴り合いの喧嘩なんて、小学生に一回あった程度だ。戦闘に向くような、好戦的な思考も嗜好も持ち合わせていない。
「……は、はい」
あまりにも、ストレートな物言いに、落ち込む恭兵を見て、諭すように、問いかけてくる。
「では、何故、ハンドガンを構えたんだ?」
「???」
恭兵は、よく分かっていなかったが、渋顔は構えろとは言ったが、“ハンドガン”とは言っていなかった。
「あの時、恭兵が構えるべき、武器は防弾盾じゃないのか?」
「あっ……」
構えろと言われて、真っ先に浮かんだのは、PNーTBだった。QBXー97Bは、殺傷力が高い。本能的に避けたのだろう。
しかし、防弾盾は違う。身を守る為の武器だ。本来であれば、真っ先に思い浮かべるべきだった。
「射撃の腕など、一朝一夕でどうにかなる物ではない。まずは、自分自身を守る事を優先しろ。余程の事が無い限り、俺かシュティルが、恭兵の近くにいる」
「……はい」
恭兵自身が、銃を持つことで、ある種の“特権意識”を持っていたことに、気付き、恥ずかしさのあまり、俯いてしまう。
「今後も、一匹は恭兵に抑えてもらう。防弾盾で、敵を上手く捌く練習だ。いいな?」
「……はい」
ゴブリンを倒したり、銃を手に入れたことで、気付かないうちに、自己陶酔的な考えになっていた。そして、渋顔に、その事を見抜かれていた。
渋顔が恭兵に武器を渡したのは、あくまでも、自衛の為だ。攻撃に参加して欲しい訳ではなかった。
「もちろん、射撃練習を熱心にする事は、悪いことではない。続けてもらうぞ。いいな?」
考え違いに気付き、戦闘直後より、更に落ち込む恭兵を見て、慰めてくれているのだろ。
「はい、……ありがとうございます」
慰めてくれる渋顔の期待に、応えるべく、両頬を叩き、心を引き締めていく。
「よし、では、そろそろ出発だ」
その後も、レッサーハウンドやニードルラビットに襲われ続けた。殆どが、群れで襲ってくるのだが、渋顔と先生が一匹を残して、あっという間に仕留めていった。
恭兵は、残された一匹に対し、しっかりと防弾盾を構えて、突撃を防ぐ練習を続けた。
最初は、恐怖から目を逸らす事も多く、危ない場面もあったが、そこは、渋顔達がキッチリと対応してくれる。
そんな練習を兼ねた禍獣との戦闘回数が、十回を越えた時点から、突然、不思議な手応えを感じるようになっていた。
(何だろう? 本当に“慣れてきた”のかなぁ?)
実際に、禍獣に対する恐怖が薄れ、防弾盾も上手く扱えるようになってきた。奇妙な手に馴染む感覚が出てきたのだ。
(……いや、こんなに短時間で、“慣れる”ものなのか?)
違和感を覚えた恭兵は、ゲーム機を取り出し、自身のステータスを確認してみた。
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木工:D
鍛冶:C
料理:D
盾術:F
恐怖耐性:F
特殊スキル:ヴェルトヴィラ Lv1(4/5)
特殊スキル:帰還pt 1/100
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(えっ?! 能力が増えている?)
GGFでは、能力は修得できなかったが、異世界では、後天的に修得が出来るようだ。
問題は、“慣れた”から修得出来たのか、能力よる補正で“慣れた”と感じているのかだが……。
(渋顔達は、恐怖耐性は持っていないよな? “慣れた”が、修得条件なら、持っているはずだよなぁ)
渋顔達は、簡単に禍獣を処理している。間違いなく、戦闘に“慣れている”からだろう。
そんな渋顔達が持っていないのだから、恭兵は“慣れてはいない”が、恐怖耐性を修得した影響で、“慣れた”と感じている可能性が高い。
(能力のお陰で“慣れた”と感じているのなら、悪くはないなぁ)
自宅の世界には、能力は無い。能力のお陰で、“慣れた”と錯覚しているなら、自宅に戻る時に、『日常に戻りやすいかも』と考えていた。
この時、その考え方の危険性に、恭兵は気付いていなかった。
***
午後の日差しが、徐々に薄れだし、辺りには、黄昏時の気配が濃くなり始めた頃、待望の開扉インターバルを迎えていた。
「は、渋顔さん。そろそろ、自宅に移動してきてもいいですか?」
もう、待ちきれないといった様子の恭兵に対し、幼い子供を見るような優しい表情で、渋顔が答える。
「ああ、ゆっくりと休んでこい」
今回の帰還は、特殊スキルのレベルアップに、保管小袋の検証と、楽しみが、目白押しだ。
目の前には、渋顔の答えを聞く前から、ドアを出現させていた。もちろん、カウンターはゼロになっている。
「では、行ってきます」
恭兵は、楽しさを隠しきれない希望に満ちた足取りで、ドアを潜っていった。
すみません。次の投稿から2週間程度の間、17~20時の投稿になります。




