035 城塞都市潜入(11)
恭兵は、無事、コートを入手し、村外れの森で渋顔達と合流していた。
「こ、コート入手出来ました」
「よくやった。さっそく、移動準備をするぞ」
褒められて、上機嫌になった恭兵が、置いていた装備品を装着していると、珍しく先生が話し掛けてきた。
「……助力、感謝……」
先生が、貸していたキャンプ道具一式を返してきた。伏せ目で、差し出してくる様は、寂しげで、儚い雰囲気を纏っていた。
(な、なんか、落ち込んでいる? キャンプ道具が気に入ったのか?)
普段見せない健気な感じが、動揺を誘ってくる。不思議なことに、あれだけの強者に対して、『何とかしなければ……』という庇護欲が湧き上がってくる。
「……こ、これは、お邪魔で無ければ、シュティルさんに使って頂きたいのですが――」
その言葉を聞いた途端、先生は、顔を上げ、花が咲いたように笑った。
「――感謝、幸福」
その瞬間、世界は止まった……恭兵の中だけで。
(…………ああ、私はこの瞬間の為に、生きていたのか。今、死んでも後悔はない!!)
あまりの可愛さに言葉を失っていた恭兵に、渋顔が、横から話し掛けてくる。
「俺には無いのか?」
「…………」
「恭兵? 聞こえているのか?」
「…………」
今の恭兵には、何も聞こえていないし、聞く気も無い。既に思考は、結婚式場の選定まで飛躍している。
(異世界にも、結婚式場はあるのかなぁ? やっぱりキャンドルサービスはしたいよね。各テーブルに、花嫁を自慢して回るのだ。それに――)
渋顔は、『やれやれ』と、溜息をつきながら、恭兵が反応するのを諦めて、移動準備を進め始めた。
もちろん、先生も石像と化した恭兵を完全に無視して、準備を進めていた。
***
(――だよなぁ……。ハッ!? いかん! 準備をしなければ!)
恭兵が我に返るまでに、要した時間は約五分。流石に妄想全てを書き出すと、とんでもない量になるので、割愛させて頂いた。
「あ、あの、渋顔さんの分も一式用意してきたのですが、使われますか?」
「……ようやく戻ったか。もちろん使わせてもらうよ。ありがとう」
渋顔は、嬉しそうにキャンプ道具一式を受け取った。
「お二人とも、壊れたりしたら、言って下さい。交換しますので」
「了解だ。大事に使わせてもらうがな」
――コクッ
渋顔は、そう言うと、どう見ても入らない“手のひらサイズ”のウエストポーチに、キャンプ道具を収納してしまった。キャンプ道具一式が吸い込まれる光景は、某国民的アニメの猫型ロボットのポケットのようだった。
「そ、そ、それはなんですかッ!」
恭兵は思わず、大きな声で、渋顔に尋ねていた。
「うん? ウエストポーチだが?」
当たり前のことを聞くなと、あきれ顔の渋顔。恭兵は、その表情を見て、少しイラッとして、捲し立てる。
「ど、どう見ても、入らない大きさの道具が吸い込まれましたよッ!」
「……まぁ、ウエストポーチだからな」
さも、当然の事のように答える渋顔。
「「?????」」
どうにも、会話がかみ合わない。理由は簡単だ。渋顔達が、表情豊かに会話しているから、忘れているが、彼等はGGFのキャラクターだ。
GGF特有の仕様が、普通だと思っていたり、自宅の一般常識が欠如したりと、思わぬ違いがあるため、こういう事も起きる。
当たり前のような顔をしている渋顔に、納得がいかない恭兵だが、かなり使える道具だ。反論は諦めて、確認することにシフトした。
「……あ、あの、それ、私にも使えるんでしょうか?」
「個別認証システムが、搭載されているから無理だな」
「で、ですよね……」
恭兵の思惑通りには、進まない。セキュリティーはバッチリのようだ。
「あ、あの、私の背負い袋を預かってもらうことには、可能でしょうか?」
恭兵自身は使えなくても、預けられるだけでも、かなり楽になる。
「構わないぞ。今は“空き”があるからな」
「あ、空きとは?」
「うん? 今は暗視装置とキャンプ道具しか持ってないから、あと六つ空いているぞ」
そう言いながら、渋顔は、腰回りのポーチをポンポンと叩く。腰回りには、八つの小さなポーチが付いていた。
(八個あるから、携行品用のポーチかなぁ?)
携帯ゲーム機を取り出し、渋顔の装備品一覧で、携行品を見てみると、『暗視装置』と『キャンプギア』と表示されていた。どうやら、間違いないようだ。
(なるほど。一まとめにすれば、枠一つで、収納できるのか。なら、背負い袋も、枠一つで、収納が出来るかもしれないなぁ)
「で、では、お願いします」
「了解だ」
渋顔は、背負い袋を受け取ると、そのままウエストポーチに納めていく。
そこで、恭兵は、あることに気が付いた。
(……銃を貰うときは、予備弾倉用の“ポーチ”も一緒に渡されたよな。ひょっとしたら……)
「……ハイラントさん。“暗視装置”は、譲ってもらえますか?」
「構わないぞ」
渋顔はそう言うと、ウエストポーチを一つ外して、渡してきた。外したはずの渋顔の腰には、何故か、またポーチが生えてきた。
「……………………」
恭兵は、渡されたポーチに、手を入れてみる。すると、某猫型ロボットの如く、明らかに大きさが合わないポーチから暗視装置が取り出せた。そして、収納する事も出来た。
「うぉぉぉ! やったー!!」
思わず、周りも気にせず、雄叫びを上げてしまう。
(これ、大発見じゃないか! ポーチは何個まで持てるんだ? 今までの流れだと八つだろうけど、それでも背負い袋八つ分の収納はヤバいな。……いや、下手したら道具棚とか冷蔵庫を収納なんて事も可能かも知れない!)
革命と言っても過言ではない。これで、恭兵の荷物事情は、改善される。いわゆる“ストレージ”が手に入った瞬間だった。
その後、保管小袋の入手条件を検証した結果、持てる数は八つ。銃と同じく、背負い袋に入れていても、九つ目を手に取ろうとすると、すり抜ける事が分かった。
「あとは、自宅でも使用出来るかだなぁ」
恭兵は、早く検証したいのだが、あと六時間は待つ必要がある。その上、次回はドアのレベルアップもある。
「早く六時間経って欲しいなぁ」
残念だが、気長に待つしか無いだろう。




