033 城塞都市潜入(9)
――ピッピッピッピッ……
恭兵は、スマホのアラーム音で飛び起きた。
「さて、未来の花嫁の朝食でも作りますか!」
……朝から元気だ。現在時刻は、八時で、異世界に向かう時間は、十時を予定している。二時間も早めに起きたところが、本気度を感じてしまう。
「やっぱり、ヒロインに食べて貰う朝食は目玉焼きとトースト、林檎かなぁ」
某天空のお城アニメの主人公が、ヒロインと坑道内で、食べた朝食メニューだ。恭兵の得意料理が目玉焼きということもある。
「林檎はどうしようかな。丸ごと持って行くのも芸が無いなぁ。……コンポートでも作るか」
そう考えた恭兵は、さっそく林檎を切り分け、芯を取る。あとは、お皿に並べて、レモン汁、砂糖、白ワインを入れて、レンジでチンすれば完成だ。出来たては、熱いので、粗熱を取ったら冷蔵庫で冷やしておく。
「よし、あとは、トーストと目玉焼きを作れば完成だな」
恭兵にとっては、毎朝のルーティンだ。あっという間に完成させてしまう。違いは、目玉焼きは、いつも半熟だが、今回はしっかりと火を通しているくらいだ。完成した朝食をタッパーに詰めて準備は完了だ。
「あとは、荷物をチェックしたら、異世界行きますか」
今回は、移動を考慮して、登山用のブーツや簡単に食べれる行動食などを用意していく。更に、渋顔に貢ぐ用のソロキャンプギア一式も用意しておく。
本当は、キャンプ道具をもっと増殖させたいのだが、重くて移動に支障をきたすと不味いので、今回は、泣く泣く置いていくことにした。
「こんなもんかな。……思ったより時間が余ったな」
腕時計を見ると、『09:06:35』と表示されている。やはり、早起きすぎたのだ。
「時間まで、ゆっくりとコーヒーでも飲みますか」
***
倉庫と化しているアプローチを満足げな表情で通り、異世界に繋がるドアの前にきていた。腕時計を見ると『09:59:39』と表示されている。
そんなにピッタリに移動する意味は無いのだが、そういう心理が働くのは分かる気がする。
「さて、ようやく未来の花嫁に会えるな」
……いつまで、この妄想に付き合わなければならないのか。まぁもう少しの辛抱だろうが……。
最初の頃と比べ、軽い気持ちでドアを開けて、異世界に移動するようになってきた。『状況が大分、理解出来てきたからかなぁ』と考えながら、ドアを潜る。
すると、目の前にには、渋顔が少し驚いた顔で、立っていた。
「……前回も思ったんだが、本当に自宅に戻っているのか?」
(あっ! 渋顔には、時間が止まっていること、伝えていない……)
前回は、異世界に移動して、すぐに、説教だっため、【ヴェルトヴィラ】について説明が出来ていない。 渋顔には、ドアは見えないため、突然、服装が変化しているのだろう。
「ええ、準備は終わりました。自宅に行っている間は異世界の時間が止まるんです」
「ほう、便利そうだな」
「そうなんですよ。時間があるので、自宅で、射撃練習をしてきました。弾の補充いいですか?」
それを聞いた瞬間、渋顔の顔が曇る。
「…………ああ、了解だ」
渋々といった返事だったので、助け船を出してみる。
「今回は、予備弾倉用ポーチに入る分だけで、良いですよ」
背負い袋に予備弾倉を入れると、重くなり、移動に支障が出るので、城塞都市に着いてから、出してもらう予定だ。
「――本当かッ!? あっ……。そ、それならば、任せておけ」
余程、嫌な作業なんだろう。パァと表情が明るくなったと思うと、すぐに、誤魔化そうとあせった表情になる。
(……渋顔って、意外と抜けてるところがあるなぁ。城塞都市に着くと、また補充してもらうから、騙している感じになってないか? これ?)
「よ、よろしくお願いします」
このままでは、罪悪感が増しそうなので、話題を変えることにした。
「そ、そういえば、朝食を作って来たのですが、食べませんか?」
「……恭兵は、料理が得意なのか?」
渋顔は、ちょっと驚いた顔をしている。
「と、得意という程ではありませんが、人並み程度には、出来るのと思いますよ。先生さんの分もありますから、一度合流しませんか?」
「了解だ。元々、状況確認の為に合流する予定だった。朝食の件は、連絡しておく」
「あ、ありがとうございます」
……恭兵の鼻の穴が少し、膨らんでいる。徐々に興奮してきている証拠だ。
***
日の光が森の木々の隙間から差し込み、光の線条となって、地面に降り注いでいる。そんな、村から少し離れた森の中で、渋顔は、先生に報告を求めていた。
「なにか変化はあったか?」
「変化、皆無」
「そうか、夜間の森の様子だが――――」
恭兵は、渋顔が先生から報告を受けている間に、着々と朝食の準備を始めていた。
テーブルと椅子を組み立て、普段は使うことのないテーブルクロスを敷く。その上に、食器やカトラリーを並べて、朝食を盛り付けていく。
普段なら、片付けを楽にするため、食器には、ラップを巻くのだが、今回は巻いていない。見た目に拘ったのだろう。仕上げにコーヒーを入れれば、完成だ。
「ちょ、朝食の準備出来ました」
……凄いな。鼻の穴が広がりっぱなしだ。
「――よし、報告は以上だな。朝食にしよう」
渋顔と先生が席に着く。
「……普通に美味しそうだな。本当に料理できるんだな」
予想外の仕上がりに、少し驚いた渋顔。
「趣味がキャンプですから。さぁ、食べてみて下さい」
「では、頂こう」
先生は、無言だか、ちゃんと食べている。その姿を凝視している恭兵の鼻息は荒い。
「ど、どうでしょうか?未来の花嫁さん?」
「料理美味、お前汚穢、眼前消去」
「「…………」」
「あ、あので――」
「――お前ゴミ、即死希望」
「「…………」」
どうやら、先生と会話するのは、百年早かったようだ。
恭兵は、膝から崩れ落ちていた。肩を叩いて、慰めている渋顔との絵は、光の線条と相まって、やけにシュールに感じる。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。マップにマーカーを表した。コートを入手して、目立たないように移動を開始してくれ』
活動拠点から連絡が入った。これでようやく妄想から解放されるだろう。早く攻略に移って欲しい。
すみません。1話目で、書いていましたが、毎日投稿は、今回までです。次回からは、二日間隔で投稿予定です。よろしくお願いします。




