表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/74

029 城塞都市潜入(5)

 GGF(ゲーム)の空は、どんよりと曇っている。まるで、恭兵の気持ちを代弁しているようだ。


「……ま、まぁ、“金髪巻き髪ツインテール”は、そんなに好みじゃないしね」


 完全に強がりなのだが、一番の理由は、お嬢様に近づけなかったことよりも、“リアルメイドのスクショ”が撮れなかった事で落ち込んでいる。しかし、さすがに、変態感が強すぎて、口に出すことを躊躇しているのようだ。


「愚痴っても始まらない。ミッションクリアに集中しようか……」


 仕方なく、目的地に向けて、歩き出した足取りは、重かった。しかし、少なくとも、二人の女性(天上人)横抱き(お姫様抱っこ)する未来が待っていると考えれば、『悪くない、いや、むしろ有りなのでは?』と変態的発想に辿り着くと、段々と歩調が軽くなっていた。

 それに合わせるように、どんよりしていた空の雲間から、星々が見え始める。


「おお! 夜空も私を祝福してくれているんだなぁ」



 ……恭兵は、完全に失念しているが、あくまで渋顔(ハイラント)の未来だ。恭兵が横抱き(お姫様抱っこ)する未来ではない。





 ***




 目的地が見えてきたのは、すっかり日も落ち、静けさが、辺りを支配している頃。どんよりしていた空は、晴れ渡り、星々がそれぞれのテリトリーを主張するように、きらめいている。

 そんな中、遠目に見える城塞都市は、巨大な山々が両脇にそびえ立つ谷底平野(たにぞこへいや)の入り口を塞ぐような形で存在していた。


 山々が天然の防壁なのだろう。山の上部には重い雲がかかっていて、雪が積もっている。山を越えて、行軍することは困難だと、誰もが一目で分かる。


「あの山の麓で、キャンプしたいなぁ。あの自然の中で、カレー食べたら、堪らないだろう……。珈琲でもいいなぁ」


 地球上に存在していれば、間違いなく、世界遺産に指定されるだろう。絵になる風景だ。


「べ、別に、異世界でキャンプしては、ダメなんて法律ないよね?! こんなに素晴らしい景色なんだから、キャンプしないなんて、勿体ないよね!」


 キャンプ好きには、堪らないシチュエーションだ。しかし、問題は、禍獣(かも)彷徨(うろつ)いている事だ。奴らがいたんじゃ、安心して寝られない。恭兵も命懸けのキャンプなんてしたくないだろう。


「……何か対策が出来たら、キャンプしよう」


 そう、心のメモに記入しつつ、城塞都市の入口に向けて歩いて行く。すると、活動拠点(グランベース)から、通信が入る。


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。どうやら無事、到着したようだな。この時間だと、門は開いていなようだな。どこか潜入出来そうな場所を探してくれ』


『ラーベ1、了解した』


 恭兵自身が、異世界(向こう側)に行ったときの事を考えると、正規の手順で、都市に入りたいところだ。

 しかし、渋顔(ハイラント)には、会話能力は無い。朝まで待っても、門番に拘束される未来しか見えない。


「……潜入するしかないか。ちょうど真夜中だし、人が少ない今がチャンスだな」


 城門入口から、離れた人気の無い場所に移動する。近くに誰もいないことを確認し、ロッククライミングのように、城壁を登っていく。


 城壁の上の歩廊では、兵士が見回りをしていため、城壁に張り付いたまま、兵士が通り過ぎのを待つ。兵士が通り過ぎたことを確認したら、一気に城壁を登り切り、兵士の背後から、麻酔弾を撃ち込む。


「……難易度低いな。警備が穴だらけなんですけど、大丈夫なのか? まぁ、いいや、潜入しやすくて、助かるし……」


 潜入を悟らせないためには、眠らせた見張りを活動拠点(グランベース)に回収する事が、一番良いのだが、物陰に移動させるだけにした。気付いた時は、居眠りしていたと思うはずだ。 


「ある意味、活動拠点(グランベース)って、あの世だからなぁ」


 そのまま、都市側の城壁を降りていき、都市内部の潜入に成功すると、活動拠点(グランベース)から、再度、通信が入る。


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。無事潜入に成功したな。マップに目標地点を表示した。現地工作員が、この国での活動拠点を確保している。向かってくれ』


『ラーベ1、了解した』


 GGF(ゲーム)では、様々なところに現地工作員が派遣され、活動拠点を確保してた。そこでは、ゲーム時間を進めたり、装備品の補給などの、サポートを受けることが出来た。その拠点が、この城塞都市にもあるようだ。


 都市内部は、夜も遅いため、人影は少ない。千鳥足の酔っ払いがチラホラと見えるだけだ。こんな時間に酔っ払らえるということは、比較的治安が良い証拠だ。

 酔っ払いに絡まれないように注意しながら、マップに表示された目的地の民家に入ると、見覚えのある人相の悪い人物が、直立不動で立っていた。


『ご苦労様です』


「……こいつ、『ピーター・バウアー』か? ラント村を襲っていた盗賊頭だよな? なんか印象が違うなぁ。……敬礼なんてしてるし」


 GGF(ゲーム)と一緒で、回収した敵は活動拠点(グランベース)で、真人間に更生されるようだ。……完全に人格矯正されてる。


「そういえば、活動拠点(グランベース)のムービーに出てくる奴らも、全員、人格矯正されていたなぁ」


 GGF(ゲーム)の場合は、現地工作員で登場することは無い。活動拠点(グランベース)の警備や開発に従事していて、ムービーで、出てくることがあるだけだ。


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。拠点到着を確認した。次の指示があるまで、ここで待機だ』


『ラーベ1、了解した』


 特に、次の展開もなく、活動拠点(グランベース)からの通信が、終わってしまった。


「あれ? これでミッション終了か?」


 ミッションリストを確認してみると、『○城塞都市潜入』と表示されていた。


「うん、やっぱり前回と同様で、クリアは出来ているけど、次のミッションが出ていないなぁ」


 やはり、恭兵自身が異世界(向こう側)に行かなければ、次のミッションが出ないのだろう。


 前回みたいに、異界生物が絡んでくるのかもしれない。情報収集も兼ねて、活動拠点で、朝まで時間を経過させ、都市内の状況を把握することにした。





 ***





 朝まで、時間を経過させ、外に出てみると、人通りも多く、活気に溢れていた。大通りには、露店も出ていて、食べ歩きができそうだ。


 しかし、毎度のことだが、渋顔(ハイラント)には会話能力がない……。渋顔(ハイラント)が、露店に近付いただけで、衛兵を呼ばれそうになる。


『――ヒィ、ち、近づくな! 衛兵を呼ぶぞ! 衛兵! 衛――』


 ――ドサッ


 もはや、定番と言っても良い、容赦ない先生(シュティル)の凶弾が、露店の主人を葬り去ったため、慌てて、人気の無い場所に移動する。


「……まぁ、そうなりますよね。うーん。渋顔(ハイラント)での買い物は無理だな。てか、会話できなきゃ、情報収集出来なくない?」


 本当なら、精霊協会もあるので、渋顔(ハイラント)先生(シュティル)のクリスタルも作成したいところだが、会話出来ないのでは、厳しい。


「――あれ? これ、やること無くない?」


 恭兵は、街の全体像を把握してから、今日のプレイは終了することにした。


 少しずつ、評価やブックマークが増えてきました。ありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ