029 城塞都市潜入(5)
GGFの空は、どんよりと曇っている。まるで、恭兵の気持ちを代弁しているようだ。
「……ま、まぁ、“金髪巻き髪ツインテール”は、そんなに好みじゃないしね」
完全に強がりなのだが、一番の理由は、お嬢様に近づけなかったことよりも、“リアルメイドのスクショ”が撮れなかった事で落ち込んでいる。しかし、さすがに、変態感が強すぎて、口に出すことを躊躇しているのようだ。
「愚痴っても始まらない。ミッションクリアに集中しようか……」
仕方なく、目的地に向けて、歩き出した足取りは、重かった。しかし、少なくとも、二人の女性を横抱きする未来が待っていると考えれば、『悪くない、いや、むしろ有りなのでは?』と変態的発想に辿り着くと、段々と歩調が軽くなっていた。
それに合わせるように、どんよりしていた空の雲間から、星々が見え始める。
「おお! 夜空も私を祝福してくれているんだなぁ」
……恭兵は、完全に失念しているが、あくまで渋顔の未来だ。恭兵が横抱きする未来ではない。
***
目的地が見えてきたのは、すっかり日も落ち、静けさが、辺りを支配している頃。どんよりしていた空は、晴れ渡り、星々がそれぞれのテリトリーを主張するように、きらめいている。
そんな中、遠目に見える城塞都市は、巨大な山々が両脇にそびえ立つ谷底平野の入り口を塞ぐような形で存在していた。
山々が天然の防壁なのだろう。山の上部には重い雲がかかっていて、雪が積もっている。山を越えて、行軍することは困難だと、誰もが一目で分かる。
「あの山の麓で、キャンプしたいなぁ。あの自然の中で、カレー食べたら、堪らないだろう……。珈琲でもいいなぁ」
地球上に存在していれば、間違いなく、世界遺産に指定されるだろう。絵になる風景だ。
「べ、別に、異世界でキャンプしては、ダメなんて法律ないよね?! こんなに素晴らしい景色なんだから、キャンプしないなんて、勿体ないよね!」
キャンプ好きには、堪らないシチュエーションだ。しかし、問題は、禍獣が彷徨いている事だ。奴らがいたんじゃ、安心して寝られない。恭兵も命懸けのキャンプなんてしたくないだろう。
「……何か対策が出来たら、キャンプしよう」
そう、心のメモに記入しつつ、城塞都市の入口に向けて歩いて行く。すると、活動拠点から、通信が入る。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。どうやら無事、到着したようだな。この時間だと、門は開いていなようだな。どこか潜入出来そうな場所を探してくれ』
『ラーベ1、了解した』
恭兵自身が、異世界に行ったときの事を考えると、正規の手順で、都市に入りたいところだ。
しかし、渋顔には、会話能力は無い。朝まで待っても、門番に拘束される未来しか見えない。
「……潜入するしかないか。ちょうど真夜中だし、人が少ない今がチャンスだな」
城門入口から、離れた人気の無い場所に移動する。近くに誰もいないことを確認し、ロッククライミングのように、城壁を登っていく。
城壁の上の歩廊では、兵士が見回りをしていため、城壁に張り付いたまま、兵士が通り過ぎのを待つ。兵士が通り過ぎたことを確認したら、一気に城壁を登り切り、兵士の背後から、麻酔弾を撃ち込む。
「……難易度低いな。警備が穴だらけなんですけど、大丈夫なのか? まぁ、いいや、潜入しやすくて、助かるし……」
潜入を悟らせないためには、眠らせた見張りを活動拠点に回収する事が、一番良いのだが、物陰に移動させるだけにした。気付いた時は、居眠りしていたと思うはずだ。
「ある意味、活動拠点って、あの世だからなぁ」
そのまま、都市側の城壁を降りていき、都市内部の潜入に成功すると、活動拠点から、再度、通信が入る。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。無事潜入に成功したな。マップに目標地点を表示した。現地工作員が、この国での活動拠点を確保している。向かってくれ』
『ラーベ1、了解した』
GGFでは、様々なところに現地工作員が派遣され、活動拠点を確保してた。そこでは、ゲーム時間を進めたり、装備品の補給などの、サポートを受けることが出来た。その拠点が、この城塞都市にもあるようだ。
都市内部は、夜も遅いため、人影は少ない。千鳥足の酔っ払いがチラホラと見えるだけだ。こんな時間に酔っ払らえるということは、比較的治安が良い証拠だ。
酔っ払いに絡まれないように注意しながら、マップに表示された目的地の民家に入ると、見覚えのある人相の悪い人物が、直立不動で立っていた。
『ご苦労様です』
「……こいつ、『ピーター・バウアー』か? ラント村を襲っていた盗賊頭だよな? なんか印象が違うなぁ。……敬礼なんてしてるし」
GGFと一緒で、回収した敵は活動拠点で、真人間に更生されるようだ。……完全に人格矯正されてる。
「そういえば、活動拠点のムービーに出てくる奴らも、全員、人格矯正されていたなぁ」
GGFの場合は、現地工作員で登場することは無い。活動拠点の警備や開発に従事していて、ムービーで、出てくることがあるだけだ。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。拠点到着を確認した。次の指示があるまで、ここで待機だ』
『ラーベ1、了解した』
特に、次の展開もなく、活動拠点からの通信が、終わってしまった。
「あれ? これでミッション終了か?」
ミッションリストを確認してみると、『○城塞都市潜入』と表示されていた。
「うん、やっぱり前回と同様で、クリアは出来ているけど、次のミッションが出ていないなぁ」
やはり、恭兵自身が異世界に行かなければ、次のミッションが出ないのだろう。
前回みたいに、異界生物が絡んでくるのかもしれない。情報収集も兼ねて、活動拠点で、朝まで時間を経過させ、都市内の状況を把握することにした。
***
朝まで、時間を経過させ、外に出てみると、人通りも多く、活気に溢れていた。大通りには、露店も出ていて、食べ歩きができそうだ。
しかし、毎度のことだが、渋顔には会話能力がない……。渋顔が、露店に近付いただけで、衛兵を呼ばれそうになる。
『――ヒィ、ち、近づくな! 衛兵を呼ぶぞ! 衛兵! 衛――』
――ドサッ
もはや、定番と言っても良い、容赦ない先生の凶弾が、露店の主人を葬り去ったため、慌てて、人気の無い場所に移動する。
「……まぁ、そうなりますよね。うーん。渋顔での買い物は無理だな。てか、会話できなきゃ、情報収集出来なくない?」
本当なら、精霊協会もあるので、渋顔や先生のクリスタルも作成したいところだが、会話出来ないのでは、厳しい。
「――あれ? これ、やること無くない?」
恭兵は、街の全体像を把握してから、今日のプレイは終了することにした。
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