027 城塞都市潜入(3)
「……結局、愉快犯は、なんなんだろうなぁ?」
愉快犯は、声に出してないことに対しても、ナチュラルに会話してくる。
(認めたくは無いけど、神様的な存在なのかもしれないなぁ。神様にしては、ちょっと、あれだけど……)
「……下手に考えていると、また話し掛けてくるな。さっさとシナリオを進めよう」
ちゃんとミッションをクリアしてれば、いずれ正体がわかるだろう。今は、『城塞都市潜入』を選択し、ミッションを進めることが最優先だ。
ミッションを選択し、着陸ポイントを指定すると、以前と同様に、実写のような移動ムービーが挿入される。程なくして、ACCが、渋顔達を降ろし、離脱すると、活動拠点から、通信が入る。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。目標の回収を確認した。この地域での作戦は完了とする。次のミッションは、城塞都市レーベルクに移動し、情報収集する事だ。マップにマーカーを表した。コートを入手して、目立たないように移動してくれ』
次のミッションは、村に潜入し、コートを盗み出す必要があるようだ。潜入自体は、さほど難しい訳ではない。熱光学迷彩服があるので、簡単にコートを入手できるのだが、盗む場所がよろしくない。
マーカーが示した場所は、グラ爺の家だった。お世辞になった人の家で、盗みを働くのは、倫理的にどうだろうか……。
「あんまり、いい気持ちはしないなぁ。でも、割り切るしかないか……」
マップにマーキングされている以上、ミッションクリアには必要な事だ。『しょうがない……しょうがない』と言い聞かせながら、グラ爺の家に侵入し、クローゼットの扉を開ける。
「……あの爺さん、やっぱり変だな」
クローゼットの中には、上着がこれでもかというほど、ズラリと並んでいた。考えてみれば、上着一着に、一ヶ月分の収入を出している。とんでもなくディープな“上着沼”にハマっている証拠だ。あの歳では、抜け出すことは不可能だろう。
「今度会ったら、謝っておこう。……モウラさんに」
後味は悪いが、コートは入手できた。『一刻も早く村を出たい』と、後ろめたい気持ちから、逃げるように、城塞都市レーベルクを目指して、移動を開始した。
***
「――なんか、禍獣多くないか?」
今まで、モンスターと呼んでいたが、この世界では、禍獣と呼ぶそうだ。禍獣は、ダンジョンから発生し、野生化したと考えられているが、本当の事は、誰にもわからないらしい。
禍獣と、それ以外の動物の違いは、人を見つけたら、必ず、襲ってくるのが禍獣。普通の動物も、襲ってくる場合はあるが、大体は逃げ出す為、襲ってきたら禍獣と思えと、教えられた。
「こんなに、禍獣がいたんじゃ、普通の人は移動できないんじゃないか?」
移動を開始してから五分間で、既に、六回襲われている。GGFでの五分は、実際の時間に換算すると、一時間だ。たった一時間で、六回も襲われるのであれば、自衛手段のない一般人は、大変な道のりとなる。
(ゲームだから、よく襲われている可能もあるけど……。その辺のことは、グラ爺に聞いてみるか……いや、モウラさんの方が確実だな)
モウラさんという常識人と知り合った以上、グラ爺の出番は、もう無い。恭兵は、一瞬、思い浮かべた、グラ爺の顔をモウラさんの顔に、上書きしていた。
出てくる禍獣は、大体がレッサーハウンドと表示されていた。いわゆる野犬だ。ヨダレを垂らしながら、牙剥き出しで、襲ってくる。
恭兵は、犬は好きな方だが、『こいつは勘弁して欲しい』と思った。
その他には、ニードルラビットが、たまに出てくる。角の生えたウサギで、見た目は、かわいいのだが、れっきとした禍獣だ。こちらを見つけるや、角で串刺しにしようと、弾丸如く飛び込んでくる。
「こいつは、向こうの世界にいった時の要注意禍獣だな」
先生に撃たれても、勢いをそぐことができず、串刺しにされる可能性がある。串刺しにされた自身を想像して、血の気が引いていく感覚を覚えた。
「……防弾盾だけでは、心許ないな。早急に、防具を入手しないと……」
城塞都市レーベルクにつけば、防具は手に入る。ラント村の北に位置している国境に接した都市で、国境防衛最前線のため、武器や防具が豊富に手に入るそうだ。
「移動するために防具が欲しい……。防具は移動先でしか入手できない……。世の中、上手くいかないもんだねぇ」
そんな二律背反な思案をしている最中も、禍獣に襲われ続けていた。
***
禍獣に襲われ続けて、二十分は経過した。
「しかし、全然着かないな……。こんなに移動が長いと、ゲームとしては、クソゲー認定確実だな」
“異世界”をGGFに、当てはめた弊害だろう。マップのサイズが合わないのか、GGFでは、あり得ない移動時間になっている。おかげで、禍獣のドロップアイテムが沢山、集まっていた。
本来、ドロップアイテムは、活動拠点で武装開発や拠点拡張などに使用するのだが、異世界産のためか、換金アイテムとしてしか、使い道がない。
しかし、異世界に来てからは、稼げるミッションを繰り返し、クリアするなんてことは、出来なくなっている。現在、ゲーム通貨を入手する唯一の方法が、これだけなので、大事な収入源となってくる。
渋顔の装備は“タダ”ではない。消耗するたび、購入する必要がある。また、プレイ中の追加装備輸送なども、お金がかかる。
クリア済みのデータなので、余裕はあるが、有限なので稼げる時には、稼いでおきたい。恭兵の安全を買うために、お金は沢山あっても困らないのだ。
禍獣を倒し続けて、三十分が経過した頃、GGF内では、すっかり夜になっていた。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。その先で、民間人が襲われている。救出するか、判断は任せる』
『了解だ』
「ヒ、ヒ、ヒ、ヒロイン救出イベント、キターー!!」




