026 城塞都市潜入(2)
部屋に戻ると、大好物の弁当がお出迎えしてくれる……。
「どうしよう、〆のカップラーメンを食べる予定だったけど……。少しだけ、食べようか? そうだな、少しだけなら、いいよな」
今日は普段に比べると、運動量が多かった。カロリー消費も多かったはずだ。しかし、その分、モウラさんの料理をたらふく食べている。弁当を食べていいわけないのだが……。お酒も入っている恭兵に、誘惑に勝てる要素など、何一つなかった。
***
「ウップッ、ちょっと食べ過ぎたなぁ」
見事に、弁当を平らげ、欲望を満たした恭兵は、倉庫について、考えていた。
「銃の射撃場として使えるかもなぁ。……的は、かなり近くなるけど」
自宅いるときは、異世界の時間が、止まっているため、異世界と自宅では、時差が発生する。
その時差を利用すれば、異世界では、一秒にも満たない時間で、膨大な練習時間が確保できる。
その為の予備弾倉は、渋顔が、山ほど準備してくれた。まさか、すぐに使い切られるとは思ってもいないだろ。
異世界に戻った時に、嫌そうな渋顔の顔が、目に浮かぶ。恭兵は、自然と口元が緩んでしまった。
「……いかん、いかん。よく考えたら、GGFの状況確認が先だな」
倉庫の便利さに、目が眩み、一番重要なGGFの状況確認を忘れていた。恭兵は、目先の餌に、見事につられたことを隠すように、急いで、GGFの状況が変化してきないか確認してみる。
ゲーム画面には、前回は、表示されなかった『城塞都市潜入』が、ちゃんと表示されていた。やはり、恭兵の異世界の進行具合で、変化があるようだ。
「なんでだろう? セーブデータは別枠っぽいんだけどなぁ。フラグは共通なのかなぁ?」
原因を考えたらところで、答えはでない。そういうものだとして、対応する方が楽だと、お得意のスルー《棚上げ》を発動させた。
「しかし、最初の方は、ほとんど同じ流れだったけど、途中から違う内容のミッションになっていたなぁ」
GGFでは、異界生物は出現していない。同じだと思い込んで、行動すると痛い目にあうだろう。次回からは、油断なく行動しなければならない。
「……とりあえず、GGFで『城塞都市潜入』の予習をしますか」
全く同じではないが、多少でも、未来が分かるのは、大きなアドバンテージだ。出来る限りプレイしておいても、損はない。
今回は、移動がメインなる為、定石だと“馬”をバディとして選択する場面なのだが……。
「安全はすべてに優先するですよ!」
どうやら恭兵は、先生無しでは、もう生きていけないようだ。見事に調教されている。
「ゲーム内なら、ゲームオーバーになっても、コンテニュー出来るから、速さが必要なら、やり直せばいいよ。うん、間違いないね……」
誰に対しての言い訳かは、分からないが、今回もバディは先生を選択するようだ。この調子だと、今後も馬の出番はなさそうだ。
次の問題は、伝言板をレンタルするかどうかなのだか、恭兵にとっては、非常に不本意ではあるが、愉快犯との唯一の連絡手段だ。
「レンタル画面……開きたくないなぁ……。ろくでもない事しか、無いからなぁ……」
完全に一方通行だが、ひょっとしたら、凄く重要な事を書いてくれるかもしれない。
「万に一つだとしても、開くべきなのだろうけど……開きたくないなぁ」
愚痴を言っても、仕方がないので、渋々、レンタル画面を開いてみる……。
『ヴァイス(会社側として、ちゃんと雇用を守ったよ(∀`*ゞ)テヘッ』
「――テヘッじゃねぇよ! 相変わらず、顔文字使ってんじゃねぇよッ! 今どき、中々居ないぞ! そんなに顔文字使ってる奴! しかも、自分の手柄を全面アピールしてきやがって! そんなに褒めてもらいたいのかよッ!」
恐らくは、地面の光の犯人は愉快犯だ。助けられた以上は、社会人として、御礼はしなければならない……。GGFでは、分からない未来があるんだ。愉快犯の力が必要だ。
恭兵は、苦虫をかみつぶしたようような表情で、御礼を口にした。
「…………その節は、大変お世話なりました。今後とも、どうぞ末永いご支援の程、宜しくお願い致します……」
「……………………」
(くッ、屈辱だ。そもそも、愉快犯のせいで、こんな事態になってのに、下手に出なければならないなんて! 労働組合が弱いと会社に良いように使われるというのは、本当の事だったんだな。今まで、組合活動を小馬鹿にしていたツケが、こんな異世界で回ってくるとは……)
愉快犯には、心の声も伝わってしまう。大丈夫なのか?
『ヴァイス(会社の責任だからな(๑•̀ㅂ•́)و✧任せろ!)』
「――反応速いなッ! どんだけヒマなんだよッ!!」
どうやら、問題ないらしい……。恭兵は、思わず、ツッコんでいるが、愉快犯の思うつぼだ。
(落ち着け、ここは、前向きに捉えていこう。少しは、何かあった時には、雇用を守るのは会社の責任と考えてくれているのだ)
『ヴァイス(もっと感謝してもいいよ?(´ฅω•ฅ`)チラッ)』
「くっ! 相変わらず、煽ってくるなッ! 誰が、感謝など……くっ、この状況では……」
(…………よく考えたら、伝言板を無事、レンタルできたんだ。もう愉快犯に構う必要はない。ゲームを進めよう!)
『ヴァイス(無視すんなよ?ヾ(・ω・;)ォィォィ)』
(……見えません。全く見えません)
『ヴァイス(こっち見ろよ?ლ(・ิω・ิლ)カモンッ)』
「――どんだけ話しかけてくんだよッ! もう、十分だろ! これ以上は、ヴァイス君が可哀想でしょうがッ! くそー! 無駄な時間を過ごしたな。さっさとシナリオを進めよう」
『ヴァイス(伝言板に人権は無い!(・`ω´・ ●)キッ)』
「……本当に、もう勘弁してください……」




