025 城塞都市潜入(1)
恭兵は、本当にミッション完了なのか、ゲーム端末で確認してみる。ゲーム機画面には、『○異界からの来訪者』と表示されている。○はミッション完了の印だ。
(……あれ? 次のミッションが出てる?!)
さらっとミッションクリアしただけではなく、GGF上では、何をやっても出現しなかった、次のミッションまで表示されていた。次のミッションは、『城塞都市潜入』となっている。
(それなら、能力にも、変化あるのか?)
続けて、能力欄を見ると『帰還pt 1/100』と表示されている。どうやら、恭兵自身が異世界で、ミッションをクリアすると、ポイントが貯まるようだ。
怒濤の展開に、感情の起伏がついて行けず、頭の中が、“現実世界に戻れる可能性”に支配されていく。
(ポイントが貯まったんだ。100で戻れるぞ! 還ったらどうする? ……まずは、焼肉だな! キャンプで、焼肉だよ! 後輩にも、キャンプ場、教えてやらないとなぁ――)
「――では、予定通り、シュティルは、外で警戒、俺達は、宿で警戒する」
渋顔の次の指示が聞こえて、我に返り、慌てて返事をする。
「イ、イエッサー!」
――コクッ
先生は頷くと、黒い霧になって、出て行った。
「……恭兵、初めての任務で、疲れだろう。警戒は、俺がするから、ゆっくり休め」
(……渋い! 渋すぎますよ! 軍曹! なんかもう、泣いちゃいそう。一生、付いていきますよ!)
顔に似合わず、内面が優しさで、出来ている渋顔の言葉と、現実世界に戻れる希望が合わさり、涙が出そうになる。
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
出そうになる涙を何とかこらえ、渋顔の優しさに感謝する。
今まで感じたことがないほどの疲労感が、恭兵の体を包んでいたのも事実だった。謎の生物に襲われるなんて、人生初体験だ。疲れて当然だろう。その上、お酒も入って、ほろ酔いだった事も大きい。『早くベッドで寝たい』という思いと、『〆のラーメンは外せない』という思いから、無意識にドアを呼び出していた。
(あっ! そういえば、まだ検証してなかったなぁ)
チラッと渋顔を見てみる。ドアが見えていれば、何らかの反応があるはずだ。
「うん? どうした? 俺の顔に、何かついているのか?」
(奴が、見えないのか? 一応、聞いてみるか……)
「すみません。私の能力の検証に付き合って下さい。ここに、何かみえますか?」
素直に、検証している事を伝えた。
「ああ、良いぞ。特に何も見えないのが……何かあるのか?」
やはり渋顔には、見えていないようだ。
「私の特殊スキルで、ここにドアが出現しています。すみませんが、触れるか、試してもらえますか?」
恭兵の認識では、ここにドアがある。渋顔には、見えないだけで、触れるかも知れない。
「……確かに、なにかあるな」
どうやら、触る事は出来るようだ。きっと他の人が見たら、パントマイムをしているような仕草に見えるのだろう。
「――そこがドアノブです。開けられますか?」
渋顔は、手探りでドアノブを見つけ、ガチャガチャと回しているが、開けることが出来ないようだ。
「――ダメだな。鍵がかかっている」
(やはり、ダメか。まぁ、想定範囲内だけど)
「では、私がドアを開けますので、入れるか試してもらってもいいですか?」
「了解だ。ドアの中はどうなっているんだ?」
「私の家に繋がっています。さぁ、試してみてください」
恭兵は、ドアを開け、渋顔を誘導してみる。
「……ここか? 先ほどと変わらず、ただ壁があるだけだが……」
今度は、恭兵の目から見ても、世界の境界で、パントマイムをしている渋顔がいる。やはり入れないようだ。
「そうですか……では、これが最後の検証です。私に触れた状態で、一緒に入れるか試してもらってもいいですか?」
「了解だ」
恭兵は、渋顔の後ろから肩を持つ。
「そのまま、前進して下さい」
「…………やはり、壁だな」
(ダメか。よし、では、私が先入ってみよう)
「では、私の手を握って下さい、先に私がドアに入りますので、そのまま一緒に、通過出来るか試します」
そういって、渋顔と手を繋ぎ、奴に入っていくが、一歩ドアに踏み入れた瞬間、妙な違和感を覚えた。
振り向いて、渋顔を見てみると、表情が消えている。繋いだ手も力なく、簡単に、ほどけていく。
「ああ、今回は、石像のパントマイムだ。まるで時間が止まっているようだ」
実際、時間が止まってるんだろう。恭兵が、異世界から、自宅に戻ると、異世界の時間は、完全止まるようだ。
そのまま、恭兵はアプローチに入り、渋顔に一礼して、奴をそっと閉じた。
***
アプローチには、相変わらず、メンテナンス中のエレベーターと、出発時に置いたペグがあった。
「あれ? 時間が戻ってないのか?」
取りあえず、アプローチのペグは、置いたままにして、玄関に置いたペグを確認するために、部屋に戻る。
「玄関のペグは無くなっている……。玄関のドアを開けたタイミングで、時間が戻るのか?」
再度、検証の為、また玄関にペグを置いてみる。そして、玄関から出て、アプローチのペグを見る。……ちゃんとある。
「うーん? アプローチは、戻ってないなのか?」
また、アプローチのペグは、そのままにして、部屋に戻る。今度は、玄関に置いたペグはある。
「……つまり、アプローチは時間が戻らないで、部屋は、一度だけ戻るってことだよな? 時間が戻るタイミングは、玄関のドアじゃないなぁ」
恐らくだか、異世界から、ドアを潜ると、時間が戻るのだろう。適用範囲は、自分の部屋だけで、アプローチには及ばない。
「なるほど、アプローチ君、君は使える奴じゃないか! 今日から、君は倉庫だ!」
自宅マンションは、ワンフロアに一世帯のみのため、倉庫が広い。庭のような感じだ。
「これで、背負い袋を山ほど持ち歩く異世界生活から、解放されるなぁ」
部屋の棚を倉庫に設置して、収納力を向上させたり、冷蔵庫を設置すれば、食品もストックできるだろう。
(夢が広がるなぁ! 倉庫様々だ!)
恭兵は、部屋で休憩しつつ、今後の倉庫改造計画を立てることにした。




