023 異界からの来訪者(15)
グラ爺が、∞軌道の連続パンチを食らってノックアウトされた後、お食事会はお開きとなった。帰り際、モウラさんと『上着を返す、返さない』で、一悶着あったが、何とかグラ爺の手元に、残してあげれた。
(グラ爺には、何だかんだ、お世話になってるからなぁ)
当の本人は、まだ復活してないと思うが、特殊能力所持者だから大丈夫だろう。
「結構遅くなったな……」
クリスタルを起動すると『21:05』と表示された。外は、すっかり暗くなっているが、精霊協会へ続く道は、明るく照らされている。クリスタルは、街灯の役割も担っているようだ。
「クリスタルって、本当に便利だなぁ」
恭兵は、ほろ酔い気分で、宿屋までの道を歩いていると、足元に“光る点”が在ることに気が付いた。
妙に気になって、触ろうと、しゃがんだ瞬間、今まで頭があった位置を、轟音を立てながら、“何か”が、通り過ぎた……。
咄嗟に顔を上げると、えぐれた大木の幹が、目に留まった。もし、しゃがまなければ、恭兵の頭が同じ事になっていただろう。
「ほう、よもや、我の存在に、気付いていたとはな……」
抉られた大木の反対側から、低い重厚な声が、聞こえてきた。この惨状を生み出した犯人だろう。どうやら、恭兵が、自分の存在に気付き、攻撃をかわしたと勘違いしているようだ。
(いえ、全く存じ上げませんが、どちら様でしょうか?! てか、攻撃してきましたよね? 木の幹が、えぐれてるんですけど!?)
犯人の声が、聞こえてきたのは、クリスタル街灯から離れた、暗がりからだった。このままでは、敵の姿が見えない。街灯の下におびき出すために、恐怖を押さえ込み、『存在に気付いてましたよ』と言わんばかりのしたり顔で、探りを入れる。
「そ、存在には、気付いていた。お前は何者だ?」
「逆に聞こう、貴様こそ、何者だ?」
「「…………」」
(まさかの質問返し!? そこは、ペラペラと個人情報を喋りながら出てくる場面でしょ!)
お互いの思惑が噛み合わない、微妙な沈黙が流れる。先に折れたのは、犯人の方だった。
「ふっ、まあいい、どうせ貴様は、ここで死ぬのだからな。冥土の土産に教えてやろう」
(そうそう、それですよ。初登場の悪役はこうじゃなきゃ!)
この手の悪役は、どこの世界でも、自分語りが、好きなようだ。思惑通り、姿を現した敵に対して、スカウターを起動する。
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名称 アメルゲス・ヴァリ
種族 異界生物
能力 衝撃操作:A
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(“異界からの来訪者”って私達じゃなくて、こいつの事なのか?)
見た目は、赤黒く、テカってる。スキンヘッドで、体全体が鱗に覆われていて、爬虫類の目でこちらを見ている。
(うん、赤黒いリザードマンって感じだ。尻尾はないみたいだけど)
「我の名は、アメルゲス。ヴァリ家の直系継承者だ。そして、貴様の命を刈るも――」
――ドサッ
赤蜥蜴が饒舌に、しゃべり出した瞬間、派手に倒れ込む。恭兵は、哀れすぎて、遠い目になっていた。
「……ですよね。ここは、野外だから先生から、丸見えです」
(異世界で、自分の家系を誇るような出オチ残念キャラなんだから、もう少し、情報をしゃべらせてあげればいいのに……)
赤蜥蜴に勝手なキャラ付けして、同情の念を抱いていていると、
「なぜ、恭兵をねらったんだろうな?」
(――びっくりした! 後ろから急に声をかけられると、心臓の鼓動が止まっちゃうよ!?)
恭兵が、突然の襲撃に、対応することが出来たのは、渋顔がすぐ近くにいる事が、分かっていたからだ。でなければ、一目散に逃走している。
「まぁいい、情報収集は、活動拠点で行う」
ワープコアで回収しようと、渋顔が近付くと、突然、赤蜥蜴の横に、人影が現れた。
「――悪いけど、撤退させてもらうよ」
フードを深く被った小柄な人物は、赤蜥蜴に触ると、一瞬でかき消えた……。どうやら、敵も、切り札を隠していたようだ。だが、その切り札もスカウターで、情報は得られている。
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名称 ハルファス・セエレ
種族 異界生物
能力 空間操作:A
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マップで行方を確認してみると、最初の砦付近にマーキングが移動していた。
「よし、シュティルよ、追跡出来るか?」
――コクッ
「敵の戦力がわからない以上、戦闘は極力さけて、情報収集に徹してくれ。いいな?」
――コクッ
先生は、頷くとすぐに黒い霧状になり、移動を開始した。
「俺たちは、宿屋で待機だ」
「あ、あの、シュティルさんと合流して、ワープコアで、敵を回収したほうが良いのでは?」
先生なら、今回みたいに不意を突かれなければ、簡単に無力化できるはず。しかし、あくまでサポートキャラのため、ワープコアは使えない。もう、襲われたくない恭兵は、ワープコアで回収することを提案してみた。
「俺一人なら、隠密高速移動は可能だが、そうなると、この村で恭兵が一人になるぞ。敵戦力が解らないんだ。まだ、潜んでいる可能性がある。少なくとも、俺ならそうする」
(なるほど、それは怖いな。渋顔には、是が非でも、近くにいて貰わないとな!)
「恐らく、敵の狙いは恭兵だ。一人にする訳にはいかない。大丈夫だ、シュティルならどんな状況からでも、生還できる。とにかく、俺たちは宿屋で待機だ。いいな?」
「イ、イエッサー!」
「しかし、最初の奇襲に、よく対応できたな」
「い、いや、ハイラントさんのお陰です。助かりました」
「……ん? 俺は、なにもしてないぞ」
(えっ!? 渋顔が、地面にレーザー光線的な何かを照射してくれたんじゃないの?)
「……じ、じゃあ、シュティルさんですかね? あの時、地面に光る点があったので、触れようして、しゃがんだんですよ」
「どうだろうな、シュティルのライフルには、レーザーサイトは、着いてないはずだが……」
「「…………」」
どうやら、運が良かっただけみたいだ。屋外なら先生いるから大丈夫と、過信していると、気が付いたらあの世なんてことになりかねない。
「……とりあえず、宿に戻ったら、銃の扱いを一から、たたき込んでやる」
鬼軍曹も、危機感を持ったようだ……。




