012 異界からの来訪者(4)
「……さっきまでの緊張感は何だったんだ? 私は必要だったのか? 一人で緊張して、馬鹿みたいじゃないか!」
若干、恭兵は怒りを覚えていた。まぁ無理もない。かなりの気合を入れてきたのに、先生だけで、終わったのだ。
色々と作戦を考えて、“禁断の装備品”まで引っ張り出して来た結果がこれでは、収まりが悪いのだろう。
よくよく考えれば、砦を占領していたゴブリンの能力が低いのだ。その近くの人間も、同じ位の可能性が高い。実際に、眠っている盗賊達をスカウターで確認したが、殆どが『E』だった。先生無双になっても仕方ない。
「……いいんだよ。村人が全員助かってるし、それはいいんだよ。でもね、村人が拘束している盗賊連中からリーダー格を探して、密かに回収するために、“禁断の装備品”を使用するなんて……」
……確かに、それはちょっと切ないかもしない。恭兵は、達観した目で、どこか遠くを見ている
「完全に火事場泥棒だよね? いや、火事場人さらい? 気が付いたら、人ひとりが消えてるんだよ。完全にホラーじゃん!」
実際は、逃げ出したと思われているのだろう。盗賊頭が、逃げ出して、付近に潜伏しているかもと思うと、村人は夜も眠れないだろう。それに、こういった場合は、報奨金が出るのかもしれない。特に、盗賊頭は高いだろう。
「……ごめんなさい。でも、仕方ないのです。すべては、愉快犯の指示です。私は悪くないのです」
実行犯が、恭兵なのは変わらない。恭兵は、愉快犯に散々、賠償を要求しているんだ。謝罪のみではなく、村人に、賠償を考えなければならない。
「………………まぁ、無事にミッションクリアできたし、村人達に被害は無い! 良しとしようではないか! それに、思わぬ収穫もあったし……」
……なるほど、賠償はスルーするようだ。良い性格をしている。余程、面の皮が厚いのだろう。
恭兵がいう、思わぬ収穫とは、回収したゴブリンと盗賊が、特殊スキルを持っていたことだ。
それぞれが、【身体言語:ゴブリン】と【アルタート語】を所持していた。これにより、文字化けした項目が一部、解読出来るようになった。
現在、作戦展開中の地域は、『グリューエン王国』で、最初の森は『ゲシュペンの森』、隣接する村は『ラント村』と判明した。
そして、回収した盗賊頭の名前は、『ピーター・バウアー』と表示されたので、今後は、スカウターで覗けば、名前が表示されるようになるだろう。
謎なのは、【身体言語:ゴブリン】だ。回収したゴブリンリーダーは『ゴブリン』としか記載されていない。身体言語だからだろうか? それならば、文字化けする必要はない気がするのだが……。
とにかく、無事ミッションクリアは出来た。
取りあえず、メニュー画面を開き、ステータスの確認をみる。
「……帰還Ptに変化ないな。てっきり、ミッションクリアで貯まると思っていたのだが……」
どうやら違ったらしい。そうなると、なにか別の条件があるはずだが……。
(うーん? 何をやれば、帰還Ptが貯まるんだ? 敵の拠点制圧かな? もしくは、敵の回収数とか?)
可能性を上げたらきりが無い。恭兵は、考えていても仕方がないと思い、次に進むためにマップを開いてみたのだが、新しいミッションは表示されていなかった。普通なら、ミッションが完了すれば、次のミッションが表示される。
『なにか、重要な事を見落としているのか?』と考え、ミッションを繰り返してみようとしたが、選択自体が出来ない。
GGFの時とは違い、一度クリアすると再チャレンジは、出来ないようだ。この仕様ならば、見落としがあったら、ミッションクリアにならないだろう。
「……ひょっとしたら、次のミッションを出すには、ある程度の時間経過が必要がなのかもしれないな」
画面越しに見ているせいか、どうしてもゲーム感が抜けないが、これは異世界での出来事だ。次のミッション発生時期が、決まっているのかもしれない。考えてみたら、当たり前の話ではある。
GGFのときは、現実時間での一時間が、ゲーム内時間で十二時間だったが、それは今も変わってないようだ。
(……ライブ映像とは、何なんだろかうか? 普通に考えれば、十二倍速になるはずだが……)
それはそれで、面白映像だが、難易度が跳ね上がる。敵も味方も、十二倍速で動くなんて、恭兵には対応できない。
(まぁ、考えてもしかたない。きっと愉快犯がトンデモ能力でどうにかしてるんだろう)
「ちょっと村に潜入して、情報収集を兼ねた時間潰しでもするか。何気に異世界の暮らしぶりも見てみたいしなぁ」
恭兵は、異世界の生活に興味津々だった。緊張から解放された影響もあるのだろう。
キャンプ好きの恭兵にとっては、大自然の中の村は、最高の環境だった。
「……ああ、キャンプしたいなぁ。結局、キャンプ出来てないし、焚き火も出来てない。……ベランダでやっちゃうか?」
現在の自宅ベランダでならば、焚き火をしても、誰からもクレームはないだろう。火事の危険性を除けば、出来ないこともない。
「……やっぱり止めたおこう。あの暗闇は、得体が知れない」
焚き火の誘惑は強力だが、外の得体が知れない暗闇には、さすがに勝てないようだ。
すみません。明日の投稿時間は、16時頃となります。宜しくお願い致します。




