表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/74

011 異界からの来訪者(3)

 このミッションの攻略ポイントは、時間との闘いだ。残虐行為が、いつから行われるのか分からない以上、少しでも早く、村に到着する必要がある。


 作戦はこうだ。足の速い先生(シュティル)は、村に到着後、待機する設定から、けん制を開始する設定に変更する。

 【羽織る至極色(はおるしごくいろ)】を発動して、長距離隠密狙撃をしている先生(シュティル)を見つけ出すには、かなりの時間と人手が必要なはずだ。敵は先生(シュティル)の対応で、手一杯になり、村人を襲うヒマは無くなる。

 先生(シュティル)がけん制して、時間を稼いでいる間、渋顔(ハイラント)は、バイクで村に急行し、残った敵を二人で一気に制圧する。


 ……不安材料はある。


 ここが、ファンタジー要素が強い異世界であるならば、魔法や異能などが、存在している可能性が高い。

 実際、先生(シュティル)特殊スキル(羽織る至極色)なんかは、異能みたいなものだ。一応、設定上ではDNA操作した強化人間となっているが……。


 何より、一番の不安材料は、恭兵のゲームスキルだ。いわゆる『死に覚え』で進めるタイプの恭兵は、『私のゲームスキルでは、一発クリアなんて、不可能』と、初見のミッションに不安を感じていた。そこで、ミッション達成確率を上げるため、“禁断の装備品”に手を出すことにした。


 このGGF(ゲーム)には、いわゆる“チート装備”が存在している。恭兵が入手している装備は、四つ。


 一つ目は、無極襟巻き(むきょくえりまき)。弾薬無限化で、残弾を気にする必要がなくなる。しかし、リロードは必要なので、注意が必要だ。

 二つ目は、熱光学迷彩服ねつこうがくめいさいふく。透明人間になれると言えば、わかりやすいだろう。違いは、赤外線も再現するので、熱源センサーにも引っ掛からない。

 三つ目は、照準補正手套しょうじゅんほせいしゅとう。文字通り、照準を補正してくれる。表示されるサークル内に標的を収めれば、急所に命中させてくれる。

 四つ目は、消音軍靴 (しょうおんぐんか)。音を消してくれる。その効果は装備品すべてに適用される為、すべての武器がサイレンサー付きと同じになる。


 正直、“禁断の装備品”を使用すると、GGF(ゲーム)としては面白くない。難易度が下がりすぎて、すぐに飽きてしまう。ただ、今回はミッションクリアが最優先だ。人の命が掛かっている中、楽しんでいる場合ではない。むしろ、難易度が下がるのは、大歓迎だ。


 恭兵は改めて、気を引き締めて、車輌の選択に進んだ。


 今回は、森の中を短時間で、走り抜ける必要があるため、移動速度と小回りのバランスが良い移動手段の確保が必須だ。そんな時は、馬を選択するのがセオリーだが、今回の作戦の要は、先生(シュティル)なので、選択することが出来ない。そこで、馬の代わりに、移動車両を持ち込むことにした。


 このGGF(ゲーム)に登場する車輌の中で、小回りが利き、速度も早いのは、WLAm-740というバイクになる。今までは、馬の方が使い勝手がよい為、出番がなかった車輛だが、馬の代役としては、ピッタリだろう。


 最後に、先生(シュティル)の設定を『見敵必殺』に変更すれば、準備完了だ。


「よし、始めよう」


 恭兵は、“村人全員を助けたい”という思いを、指先に込めながら、ミッションを選択した。



 ***



 前回と同様に、渋顔(ハイラント)を砦入口に降ろすとACC(空中指令機)は、離脱していく。


「シュティル。辺りの偵察に行ってくれるか? 何かあれば、我々が合流するまで、足止めしろ。いいな?」


 ――コクッ


 台詞が変わっている。設定が、ちゃんと反映されるようだ。


 頷いた先生(シュティル)が、体を黒い霧状に変化させ、高速移動を開始したのと同時に、手配したバイクに乗り、村に向けて走り出した。


 不安による緊張のせいか、コントローラーを握る手が、妙に汗ばむ。“本当にこれで間に合うのか”と、嫌な光景が思い出される……。


 逸る気持ちを抑えながら、バイクの操作に集中して、森の中を走らせていく。


 程なくして、活動拠点(グランベース)の通信官から連絡が入る。


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。ラーベ2から交戦を開始するとの連絡があった。マップに座標を表示したので、援護に向かってくれ』


『了解』


 どうやら、先生(シュティル)は、足止めを開始したようだ。敵は多いが、なんとか恭兵が着くまで、頑張ってほしい。



 ***



 慣れないバイクで、森の中を駆け抜けると、目的地が見えてきた。


 恭兵は、心のどこかで、逃げ出した気持ちと駆けつけたい気持ちとが、妙な釣合を取りながら、なんとかここまで来ていた。


 しかし、徐々に近づく目的地に比例するように、抑えていた不安が溢れ出して、その釣合を崩そうとしてくる。


先生(シュティル)は一人で、必死に足止めをして、合流を待っている』


 そう言い聞かせ続けてることで、なんとか目的地に辿り着くまで、耐えることが出来た。


 どうやら、初動も早く、バイクで移動したこともあり、前回より大幅に、移動時間を短縮することに成功したようだ。


「これならば、かなりの村人を救えるかもしれない。上手くいけば、全員助けられる可能性だってあるはずだ!」


 安全第一に制圧するのであれば、スカウターで情報収集してから、拠点制圧を実行するべきだ。しかし、今は、時間が惜しい。一秒でも速く制圧することで、救える命が増えるかもしれない。   

 恭兵は、リスクはあるが、スカウターは敢えて使用せず、制圧を開始すると決めていた。


 コントローラーを持つ手が、汗ばむ。

 体は震え、皮膚の表面がチリチリとヒリつく。

 心臓の鼓動が、全身に伝播していく……。


「……緊張しているのか?」


(違う。これは武者震いだ)


 そう自分に言い聞かせ、気迫を込めて、自らの頬を叩く。


「さあ! 今度こそ、ハイラント(救世主)になろうじゃないか!」


 やれることは、全てやってきたはずだ。あとは、敵を制圧する事だけに、集中すれば良い。


「いざ、推して参る!!」


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。ラーベ2から送られてきた映像を確認した。敵勢力の無力化に成功したようだ。情報がほしいので、一人でいいので、回収してくれ。残りの処理方法は任せる』


『了解』









(………………えぇぇと、私の出番は?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ