011 異界からの来訪者(3)
このミッションの攻略ポイントは、時間との闘いだ。残虐行為が、いつから行われるのか分からない以上、少しでも早く、村に到着する必要がある。
作戦はこうだ。足の速い先生は、村に到着後、待機する設定から、けん制を開始する設定に変更する。
【羽織る至極色】を発動して、長距離隠密狙撃をしている先生を見つけ出すには、かなりの時間と人手が必要なはずだ。敵は先生の対応で、手一杯になり、村人を襲うヒマは無くなる。
先生がけん制して、時間を稼いでいる間、渋顔は、バイクで村に急行し、残った敵を二人で一気に制圧する。
……不安材料はある。
ここが、ファンタジー要素が強い異世界であるならば、魔法や異能などが、存在している可能性が高い。
実際、先生の特殊スキルなんかは、異能みたいなものだ。一応、設定上ではDNA操作した強化人間となっているが……。
何より、一番の不安材料は、恭兵のゲームスキルだ。いわゆる『死に覚え』で進めるタイプの恭兵は、『私のゲームスキルでは、一発クリアなんて、不可能』と、初見のミッションに不安を感じていた。そこで、ミッション達成確率を上げるため、“禁断の装備品”に手を出すことにした。
このGGFには、いわゆる“チート装備”が存在している。恭兵が入手している装備は、四つ。
一つ目は、無極襟巻き。弾薬無限化で、残弾を気にする必要がなくなる。しかし、リロードは必要なので、注意が必要だ。
二つ目は、熱光学迷彩服。透明人間になれると言えば、わかりやすいだろう。違いは、赤外線も再現するので、熱源センサーにも引っ掛からない。
三つ目は、照準補正手套。文字通り、照準を補正してくれる。表示されるサークル内に標的を収めれば、急所に命中させてくれる。
四つ目は、消音軍靴 。音を消してくれる。その効果は装備品すべてに適用される為、すべての武器がサイレンサー付きと同じになる。
正直、“禁断の装備品”を使用すると、GGFとしては面白くない。難易度が下がりすぎて、すぐに飽きてしまう。ただ、今回はミッションクリアが最優先だ。人の命が掛かっている中、楽しんでいる場合ではない。むしろ、難易度が下がるのは、大歓迎だ。
恭兵は改めて、気を引き締めて、車輌の選択に進んだ。
今回は、森の中を短時間で、走り抜ける必要があるため、移動速度と小回りのバランスが良い移動手段の確保が必須だ。そんな時は、馬を選択するのがセオリーだが、今回の作戦の要は、先生なので、選択することが出来ない。そこで、馬の代わりに、移動車両を持ち込むことにした。
このGGFに登場する車輌の中で、小回りが利き、速度も早いのは、WLAm-740というバイクになる。今までは、馬の方が使い勝手がよい為、出番がなかった車輛だが、馬の代役としては、ピッタリだろう。
最後に、先生の設定を『見敵必殺』に変更すれば、準備完了だ。
「よし、始めよう」
恭兵は、“村人全員を助けたい”という思いを、指先に込めながら、ミッションを選択した。
***
前回と同様に、渋顔を砦入口に降ろすとACCは、離脱していく。
「シュティル。辺りの偵察に行ってくれるか? 何かあれば、我々が合流するまで、足止めしろ。いいな?」
――コクッ
台詞が変わっている。設定が、ちゃんと反映されるようだ。
頷いた先生が、体を黒い霧状に変化させ、高速移動を開始したのと同時に、手配したバイクに乗り、村に向けて走り出した。
不安による緊張のせいか、コントローラーを握る手が、妙に汗ばむ。“本当にこれで間に合うのか”と、嫌な光景が思い出される……。
逸る気持ちを抑えながら、バイクの操作に集中して、森の中を走らせていく。
程なくして、活動拠点の通信官から連絡が入る。
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。ラーベ2から交戦を開始するとの連絡があった。マップに座標を表示したので、援護に向かってくれ』
『了解』
どうやら、先生は、足止めを開始したようだ。敵は多いが、なんとか恭兵が着くまで、頑張ってほしい。
***
慣れないバイクで、森の中を駆け抜けると、目的地が見えてきた。
恭兵は、心のどこかで、逃げ出した気持ちと駆けつけたい気持ちとが、妙な釣合を取りながら、なんとかここまで来ていた。
しかし、徐々に近づく目的地に比例するように、抑えていた不安が溢れ出して、その釣合を崩そうとしてくる。
『先生は一人で、必死に足止めをして、合流を待っている』
そう言い聞かせ続けてることで、なんとか目的地に辿り着くまで、耐えることが出来た。
どうやら、初動も早く、バイクで移動したこともあり、前回より大幅に、移動時間を短縮することに成功したようだ。
「これならば、かなりの村人を救えるかもしれない。上手くいけば、全員助けられる可能性だってあるはずだ!」
安全第一に制圧するのであれば、スカウターで情報収集してから、拠点制圧を実行するべきだ。しかし、今は、時間が惜しい。一秒でも速く制圧することで、救える命が増えるかもしれない。
恭兵は、リスクはあるが、スカウターは敢えて使用せず、制圧を開始すると決めていた。
コントローラーを持つ手が、汗ばむ。
体は震え、皮膚の表面がチリチリとヒリつく。
心臓の鼓動が、全身に伝播していく……。
「……緊張しているのか?」
(違う。これは武者震いだ)
そう自分に言い聞かせ、気迫を込めて、自らの頬を叩く。
「さあ! 今度こそ、ハイラントになろうじゃないか!」
やれることは、全てやってきたはずだ。あとは、敵を制圧する事だけに、集中すれば良い。
「いざ、推して参る!!」
『……ラーベ1、こちらアルバトロ。ラーベ2から送られてきた映像を確認した。敵勢力の無力化に成功したようだ。情報がほしいので、一人でいいので、回収してくれ。残りの処理方法は任せる』
『了解』
(………………えぇぇと、私の出番は?)




