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010 異界からの来訪者(2)

 ミッションを開始すると、作戦展開地区のACC(空中指令機)が着陸できるポイントが、マップに表示される。今回、選べる着陸ポイントは、砦の入口のみだ。


 着陸ポイントを指定すると、移動ムービーが挿入されるのだが……。


「うおッ! 実写じゃないか? これ!」


 今までCGだったムービーが、実写映画のような移動ムービーに変わっていた。


(これ愉快犯(なんか凄そうな存在)が、撮影してるのかなぁ?)


 そんなどうでもいい事を考えていると、着陸ポイントに着いていた。


「さっきまでいた森だ。ここも、実写なんだなぁ」


 森の木々や古びた砦、流れる雲や渡る鳥たち。映し出される映像は、どれもCGではなく、まるで異世界(向こう側)から、ライブで生配信されてるような美しい映像だった。

 

「うん? 急にLiveの文字が出てきたなぁ。『異世界から生放送でお送りしてます』ってアピールですか?」


 画面に左上には、テレビでよく見る生放送を示す『Live』の文字が表示されている。そのせいで、せっかくの美しい森の映像が、どこか滑稽に見えてしまう。


「……あっ! いかん、いかん、考えたら負けだ」


 ACC(空中指令機)は、渋顔(ハイラント)を砦入口に降ろすと、離脱していく。すると、渋顔(ハイラント)が喋り出した。


「シュティル。辺りの偵察に行ってくれるか? なにかあれば、その場で待機し、我々の到着を待て。いいな?」


 ――コクッ


 頷いた先生(シュティル)は、黒い粒子を体に纏わせ、高速移動を開始した。先生(シュティル)の特殊スキル【羽織る至極色(はおるしごくいろ)】の効果だ。

 【羽織る至極色(はおるしごくいろ)】は、身体能力向上・光学迷彩・黒粒子化の効果を持つ複合特殊スキルだ。先生(シュティル)の隠密長距離射撃は、この特殊スキルがあってこそ成せる極技だ。  

 マップに表示されている先生(シュティル)を示す光点が、驚くべき迅さで、動き回る。“黒粒子化”は、物体をすり抜ける効果があり、どんなに深い森でも、目的地まで直線で移動できる上、“身体強化”で、人間離れした移動速度を実現している。万が一、敵に見つかっても、このスキルで、敵の追跡を躱すことは容易で、先生(シュティル)を捕捉し続けることは困難だ。


「さすがは、先生(シュティル)! 頼りになるなぁ!」


 恭兵が、先生(シュティル)の働きを賞賛していると、突然、先生(シュティル)を示す点が動きを止める。それと同時に、活動拠点(グランベース)の通信官から連絡が入った。


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。ラーベ2から何かを発見との連絡があった。マップに座標を表示したので、合流してくれ』


『了解、すぐに向かう』


 早速、渋顔(ハイラント)を操作し、マップに表示された座標に向けて、移動を開始する。どうやら、森の外れに村らしきものがあるようだ。


「さて、なにが出るか楽しみだなぁ」



 ***



 程なくして、指定座標に着いたのだが……。


『……ラーベ1、こちらアルバトロ。ラーベ2から送られてきた映像を解析した。どうやらこの国のやつは、クソ野郎が多いみたいだな。情報がほしい。敵の回収を優先してくれ。だが、回収するのは、一人で充分だ。残りの処理は任せる』


『了解』


 先生(シュティル)の偵察結果から敵が最低でも、二十三人いることは判明している。いつものように、敵にマーカーをセットするため、スカウターを望遠モードに切り替え、敵を映し出していく。


 映し出される映像は、見慣れた光景のはずだった。特に、このGGF(ゲーム)は、テロリスト相手だった為、非人道的な行いなど日常的な光景だった。

 

 そう、今までは……。


 何の覚悟もなく見た光景は、一瞬の思考停止の後、こみ上げてくる吐き気を必死に押さえることを強要した。


 急いで、トイレに走り、胃の中のものを戻していく。一度吐いても、何度も吐き気は打ち寄せてくる。


「なんなんだよ……」


 覚悟が足りなかった……。

 考えが足りなかった……。

 想像力が足りなかった……。


 (当たり前じゃないか、これはゲームじゃない)

 

 愉快犯(なんか凄そうな存在)は、警告してた。実在する世界(ライブ映像)だと……。


 繰り返し、押し寄せる吐き気に抗いながら、自分の浅はかさと人間の底知れぬ醜さを痛感していた……。



 ***



「何が目的なんだ……」


 食べたばかりの弁当(バラエティ特盛り)と胃液をすべて出し切ったのだろう。吐き気も収まり、転移の理由について考えていた。


「わざわざゲーム設定を使い、ミッションという形で、私を誘導している。ミッションの中に、なにか目的があるのか?」


(もし、ミッションをクリアさせることが目的なら、ライブ映像ではなく、ゲームと同じCGにしてくれ。あんな残酷な映像には、もう耐えられそうもない……。私は平和な世界の一般人だ。残酷とは、程遠い世界の住人なんだよ……)


 ……恭兵は、そんなことを考えていると、ふと“ある映画”のセリフを思い出した。


 実際に起こった内戦を描いた映画の中で、主人公が『あなたが撮影した映像を見た世界中の人々がこの異常に気付き、救いに来てくれます。ありがとう』と戦場カメラマンに、御礼を言うのだが、『世界中の人は、この映像を見ても、夕食を食べながら、ただ怖いと思うだけで、なにもしない……』と悲痛な表情で、戦場カメラマンは答えていた。


 恭兵は当時、この映画を見て、自分のことだと思い、恥ずかしさを覚えた。


(あれから何年経ったかなぁ……)


 結局、恥ずかしさを覚えただけで、“自分には出来ることは無い”と言い訳して、何もしていない。


(今回も、ただ怖いと思うだけか? また、何もせず、言い訳を探すのか?)


 先程の光景が頭をよぎる。『アレが自分に向けられたら……』そんな感情が、全身を支配して、体を強張らせる。『助けない言い訳なんて、いくらでもあるだろ?』と自分自身が囁いてくる。


 恐怖心から“助けない言い訳”に天秤が傾きつつあった恭兵が、画面に目を向けると……。


『使命を果たせませんでした……。やり直しますか?』


 画面の“使命”の文字を見た瞬間、今までの全身を支配していた恐怖心が、不思議と薄れていくのを感じた。恭兵に、“助ける言い訳”が、与えられた瞬間だった。


「……よし! 今回は、ハイラント(救世主)になろうじゃないか!!」


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