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両片想いのお話

作者: 峰風猫

誤字脱字があったらご報告お願いしますm(_ _)m

鈴木(すずき)優華(ゆうか)、17歳。現在彼氏はいないJK(フリーの女子高生)である。

平均より若干背が高く、細めな銀フレームのメガネと、そのメガネのせいで余計にキツく見えるちょいつり目な一重の目がチャームポイントな、ボンヤリしているもさい女。

それが、私。

不細工ではないけれど、特別美人という訳ではない普通顔。とっても賢いということもなく、上の中から中の上あたりを漂っている。

両親が健在で家族仲もまぁまぁ良好。それなりに親しい友人がいて、まぁ普通を謳歌している凡人。


そんな(凡人)には、非日常的な存在がいたりする。

それが、彼。

人気のない図書館の隅で教科書を開く私の目の前に座る、ニコニコとその整い過ぎているかんばせにを笑みを浮かべて頬杖を突く美青年こと、真宮(まみや)瑞樹(みずき)

彼はこの高校のアイドルみたいな人。

容姿端麗で、黒髪はサラッサラだし、スタイルも良いし、成績優秀で、スポーツ万能で、いつも笑みを浮かべているし、フェミニストだし。ちょっと軽い人ではあるが、それを入れても有り余るかっこよさ。


私の好きな人である。勿論私の片思い。

彼に惚れない人がいるなら会ってみたいものだ。実際、いるらしいのだが。

その瑞樹君に惚れない人と言うのは、なんと瑞樹君の想い人らしい。折角イケメンに生まれたのに、好きな人に効果がないとはなんて皮肉。

なんで私が知っているのかって?

それは、その皆のアイドル瑞樹君が、何故か、私にその恋愛相談をするのだ。本当に何故。


私があなたを好きだと知っての行いだろうか。いや、本当に知らないんだろう。瑞樹君はそういう意地悪な人ではないから。

私の表情筋が死んでいるのと、意識して悟らせないようにしているからなんだけど。


いやだって、瑞樹君は皆のアイドルなのだ。私ごときが好きだなんて言えない。

それに、私は瑞樹君に好きな人がいることを知っているのだ。

絶対振られる。振られたら、多分しばらく立ち直れない。

高校とは勉学に励む場所で、私は惚れた腫れたで騒ぐつもりはない。バッサリ振られて、学力が落ちたら困る。私はそこまで頭が良くないので、ちょっと気を抜くとガクンと点が落ちるのだ。

単純に振られるのが怖いし。

まあ瑞樹君が目の前にいるだけで、良い感じに緊張するし、集中力もやる気も上がるし、好きな人が私に話しているという事実が嬉しいので、地味どころかグッサリ刺さる瑞樹君の想い人トークも甘んじて聞く。


「多分、異性としては見られてはいるんだよね。ただ、恋愛対象としては見られてないだけで…」

「そうですか」

「う~ん、もうちょっと興味持ってくんない?」

「そうですか以外に何を言えと?」


全くもって可愛くない。

でもこれくらいでないと相手に想いを悟られてしまうかもしれない。

こうして会話できるだけで十分幸せなので、あまり多くは望んでいない、つもりだ。

それに、瑞樹君を意識していない態度が、きっと瑞樹君のお気に召しているのだから。

直接聞いた訳ではないけど、多分瑞樹君は女子の態度を鬱陶しく思っている。でも意外と真面目な彼は周囲のイメージ通りのキャラを演じている。

それは私の前でも変わらないけれど、私の全く気にしていませんという態度を楽に思っていることを、ふわっと言っていたのを聞いたことがある。

だから、私は少しでも好印象に思ってもらうために瑞樹君を好きなことを隠す。


「あぁ、そうだ。優華ちゃんて辛い物好きなんだって?」

「…まぁ、そうですね。甘い物かどっちと言うなら辛い物の方が好きです」

「良い感じのカレー屋さん知ってるから、一緒に行かない?」


いつもと変わらない微笑みで出された提案に、私はピクリとも表情を動かさないまま目を瞬く。

これは、そう、デートのお誘い!?

………まぁ、そんなわけ訳ないか。

誰から聞いたのか知らないが、私が辛い物好きと知ってカレー屋さんを教えてくれたのだ。それなりに私を気にしてくれていると分かってとても嬉しい。

まあ男女で出かけたら、それはデートだ。相手はそう思ってないが、思う存分楽しもうじゃぁないか。

そんなに辛い物が好きなのか、と思われるだろうが、まあ良いか、と。

僅かに口角を上げて、自分にしてはかなりレアな笑みを、感じたまま浮かべてみせた。

目を見張って私を見つめる瑞樹君を、レアな表情を頂きましたーと。たまには、ちょっと笑みを浮かべるくらいはしてもいいかな、なんて。


「嬉しいです。いつ連れて行ってくれるんですか?」

「…あ、あぁ、うん……今日の放課後はどうかな?」

「いいですね。親に連絡しておきます」


わぁい、瑞樹君とデートだ! 友人枠だけど。

後で今日の夕食はいいと連絡を入れなきゃ、と喜びを抑えながらノートに視線を落とした私は、瑞樹君が動揺を顕に視線を泳がせて耳が赤くしていたことに、ついぞ気付かなかった。



******************




真宮(まみや)瑞樹(みずき)。それが、俺の名前。

自分でいうのもあれだが、顔が良いし、背も高くて、イケメンの部類に入る。大体のことはそつなくこなせるし、人当たりも良くしているから、完璧王子などとこっ恥ずかしい2つ名がついていたりする。


こんな俺だが、幼い頃はそれなりに騒がしいガキ大将と言われるような奴だった。

一つ一つと歳をとっていくうちに、母の求める自分をなんとなく察するようになって、その通りに演じていたら今の俺になっていた。

母さんの夫――つまり俺の父親は所謂クズといわれるような奴で、そんなクソ親父に暴力で支配され傾倒していた母さんはクソ親父から逃げることすらできずいた。――息子の俺も。

クソ親父も、酔っているときに足を滑らしてすっ転び、頭の打ち所が悪かったらしくそのまま帰らぬ人となった。

不謹慎にも俺があの男から解放されるのだとほっとしている中、母さんは亡くなったクソ親父のお面影を俺から探して、俺に親父のように……いや、母さんの理想になるように強要した。

常に笑みを浮かべて。女性に優しく。でも軽い雰囲気に見えるように。いつでも流行りの物を身に着けて。誰からも人気で。賢く、美しく、真面目で、それで、それで――――


それが、母さんの理想が、俺。

クソ親父が死んでから――いや、きっともっと前から、母さんは壊れてしまっていて。クソ親父が死んで、本格的に壊れてしまった母さんは、俺が理想になってもどんどんおかしくなっていった。未遂に終わったが自殺をしようとして、それから精神病院に入院させた。

それから俺は母方の叔父さん(独身)の家に居候させてもらっている。

数年とかけて作られた母さんの“理想”はそう簡単に崩れることはなく、俺は今でも母さんの求めるいい子を演じている。

いい子だと、母さんは喜ぶから。母さんの心が少しでも安らかであるなら、俺はいくらでもいい子を演じる。

なんて言って、母さんが喜ぶからっていうのも本当だが、自分の素を表に出すのが不安だから、というのが一番の理由だ。

今までずっと“いい子”でいたのに、今更我が儘で甘えん坊の自分を他人にさらけ出すなんて、怖くてたまらない。

すっかり臆病になってしまった俺を、叔父さんは辛抱強く待ってくれている。今では、家でなら叔父さんに少し素を出せるようになってきた。


そんな一進一退な状態が数年と続き、俺は高校生となった。

そこでもいい子を演じていた俺は人気者の、完璧な王子さま。


適当に、女の子と付き合ってみたりもした。が、それなりに期間を経てから少し素を見せたりもして、こんなの瑞樹君じゃないと何故かキレられてから一度も男女交際をしていない。俺の女性嫌い…というより人間不信が更に深刻化しただけだった。


女の人って苦手。

騒がしいし、煩いし、甲高い声は耳につくし、猫なで声は背筋がゾッとするし、ナチュラルメイクくらいがいいのに無駄にケバいし、香水の匂いはキツイし、か弱いとかいいながら手を上げるし、影口とか苛めとか陰湿だし。

高校生でコレだというのに、これが大人になったらどうなるというのだろうか。想像したくもない。


そんな俺はある日運命の出会いをした。

ちょっと疲れて人気のない第二図書館に避難していた時、物音を聞いて俺は先約がいたことを知った。

本を片手に第二図書館を出ていく女子が目に入って、自分に気付いていなかったのだと、ほっと息を吐く。そんな後ろ姿をぼぅっと見送っていると、彼女のノートからひらりと紙が落ちたのが見えた。静かに席を立って、そのプリントをぺらりと摘まむ。

先生に渡してしまおうか、と思ったのはほんの一瞬だけで、皆の求める完璧な王子さまなら少し走るだけで追い付くなら絶対走って渡す、と骨まで染み付いたその思考は俺に深く考えさせる暇も与えず、俺の足をつき動かした。


「君! これ落としたよ」

「……あぁ、ありがとうございます」


にこっといつも通りの人当たりの良い、でも軽薄に見えるような笑みを浮かべて声をかけると、その人は無表情に不思議そうな色を乗せてこちらを振り向いて、プリントを受け取って感謝を述べた。

口角を上げただけの笑みで、なんの興味関心のない目でこちらを見つめる彼女に、俺は酷く興味が湧いた。


「君、いつも第二図書館(あそこ)使ってるの?」

「…ええ、まあ。あそこは静かなので」


それだけ返した彼女は、それ以上会話を広げさせることなく軽く会釈して去って行った。

止める暇もなかった。ぽかんとそれを見送って、足早いな…と鈍い思考がそんなことを考える。


それが、彼女――鈴木優華との出会い。

優華ちゃんは俺になんの興味関心なくて、だから俺に完璧な王子さまを求めることもない。

俺が、珍しく嫌悪感を抱かなかった女性だった。




まぁまぁ顔は整っているが、美人という程ではなくて、少し背が高めで普通にスタイルが良い。

脇下までギリギリいかない程の少し明るい茶髪をシンプルにハーフアップにして、制服も殆どアレンジなどをしていないし、多少はメイクをしているが、あまり顔を映えさせるつもりはないようだ。

銀フレームのメガネがつり目を若干強調していて、無表情なこともあって少し冷たい印象を受ける。きゅっ口角を上げただけの笑みは、彼女に表情といえるものを作れていなかった。


意識して観察した結果がこれで、多分普通に会っただけだと全く印象に残らなかっただろう。それほど彼女は存在感が希薄だった。母さんのように儚そうという訳でもなく、影が薄い。この一言に尽きる。


1ー C組、鈴木優華。

隣町の○○中から入学した、メガネが印象的な女子。

それなりに親しい友人が数人いて、成績は上の下辺りをうろうろしている。愛想は良くないが、真面目で先生の印象は悪くない。ガリ勉タイプ。

ぼんやりした子で、たまに無表情のままギャグも言うような、まあ普通の子。彼氏はいない。


情報通な友人にそれとなく彼女のことを聞いた結果がこれ。

情報が少な過ぎる。どうしたものか、と頭を抱える俺に友人がからかうように笑った。


「なんだ、惚れたのか?」

「…えぇ? どうだろうね?」

「は? 否定しねえの!?」

「いや、分かんないって。俺恋したことないもん」


16歳になって初恋すらまだなのだ。惚れたなんだと俺に分かる筈がない。

とても興味を持った人だから、どうしても彼女と接触を取りたい。できたら、女性嫌いが少しでも和らいだらいいかな、という打算もあって。

ええええええ、と声を漏らす友人とじゃれあって、まあそうだったら協力してね、と適当に返す。




それから、約1年半。

俺は彼女と親しくなることには成功していた。


確かに、俺は優華ちゃんに恋をした。だけれど、本人に全く通じない。

自覚まで結構時間がかったこともあって、散々アピールしても友人だからと総スルー。

臆病な俺は告白することがなかなかできず、ずるずるこの友人以上恋人未満を続けている。なにが完璧な王子さまだ。


ひたすら好きな子のことと優華ちゃんのことを上げたり、どうしたら良い? と優華ちゃんのして欲しいことを聞いてみるが、その反応はへぇそうですかとか、一般論を述べる程度。本当に話を聞いているのか不安になるんだけど。

凄く恥ずかしいのを隠して甘えたときなんかは少し照れたような反応が返ってくるので、多分、きっと、異性としては見られてはいるのだ。多分。

でもどうしても、恋愛対象として見てもらえない。

くっそ緊張しながら好きだよ、と言った時もさらりと私も瑞樹君が大好きです、と無表情で返ってくる始末。嬉しいけど、違うんだ。そうじゃない。

その後どれだけ悶絶したと思ってるんだ。



特別美人な訳ではないがそれなりに可愛い顔をしていて、気遣いはできるし、結構甘え上手だし甘やかし上手で、俺が髪がキレイだと言ったらそのまま伸ばしてくれるような良い子で、無表情だけど普通の感性をしていて、本当に嬉しい時はフワリと微笑みを浮かべて、普通に賢いのに傲ることもなくて、誰より努力家で真面目で、運動神経は壊滅的な可愛い所もあって、どこかぼんやりした子だけど結構人の話は聞いていて、辛い物が好きで―――


そう、優華ちゃんは辛い物が好きらしい。最近知って慌てて激辛の店をリサーチしたのは記憶新しい。

いつも通り鈍い優華ちゃんに、内心超ドキドキで、嫌なら断れるような軽い雰囲気でカレー屋誘うと、彼女は無表情のまま目を瞬くことで驚きを知らせた。

そして、目をゆるりと細めて、満面のとはいえないが、超珍しく微笑みを浮かべて。嬉しい、と。


本当に、嬉しそうに言うものだから、いや辛い物(好きな物)を食べるからなんだろうけど、ドスッと心臓にハートの矢が刺さるのだ。

俺が誘ったも喜んでくれてたり、と夢見がちな妄想を抱えてみる。

超動揺しながらも何とか返した俺の様子に優華ちゃんは気付かず、既に手元のノートに視線を移していた。

優華ちゃんにはいつまでも俺を見てて欲しいけど、今は助かったな、と。熱を持つ頬ごと顔を手で覆って俯いた。






「あああああ、優華ちゃんが可愛過ぎてツライ」

「そうか、良かったな」

「どうしよう?」

「知るかさっさと告れこのヘタレが」






「ゆーちゃん、何か機嫌いいね?」

「うん。今日ね、瑞樹君が一緒にカレー屋さんに行こうって誘ってくれたの」

「えぇ!! マジ!? ゆーちゃん良かったねぇ! ついに瑞樹君誘えたのか……あの意気地なしが……」

「? ごめん、今なんて言ったの?」

「いやいや、なんでもないよ! それでいつ行くの?」






鈴木優華(すずきゆうか)

絶賛本校のアイドルと両片思い中。

振られるのが怖いので告白できない普通の女の子。

無表情デフォだが、表情筋死んでいるだけで普通の感性をしている。

私なんかが、という思いがあるので瑞樹の想いに全く気付いていない。

5人兄弟のど真ん中で、兄姉弟妹がいる。オールマイティーな対応ができ、甘え上手で甘やかし上手。

瑞樹に「先日のメガネちゃん」と呼ばれからメガネちゃんがあだ名になった。(本人は不本意)

辛い物が好き。

地味系美人。若干高身長。


真宮瑞樹(まみやみずき)

絶賛本校のモブメガネ女子と両片思い中。

同じく振られるのが怖くて告白できない、残念な子。(作者はどうやらヘタレ男子が好きらしい。最近気付いた)

両親のことがトラウマで人間不振で女性嫌い。でも表には出さない。

母親の望む軽薄なイケメン王子像を守っており高校のアイドル。完璧な王子さまが2つ名。友好関係が広い。

優華が完全に友人対応をするので異性として見られていないと散々アピールしたり、好きな子の話と優華のことを話すが、全く気付かれない。好きな子の話は逆効果だということに気付いていない。

でも優華相手にもだもやっているのを見られて王子さま像が若干崩れている。そんな瑞樹君も可愛い! とそれはそれで人気。皆には応援されている。

優華の(珍しい)笑みだけで撃沈するヘタレ。(大事なのでもう一度いいました)

ハイスッペクイケメン。スタイルがいい。

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