姫野恋
三ヶ月ぶりの更新…w
「はぁ……はぁ……んぐっ、お、遅れました……!」
汗だくのまま謝罪の言葉を口にする。
運動した後特有の少しネバッとした唾液が喉に詰まり喋りにくい。
「駿人くん遅い!もう集合時間三十分も過ぎてるよ!遅刻なら遅刻するでしっかり連絡しなさい!」
「す、すみません」
「何回も電話かけたんだから!」
ぷんぷんと可愛らしく怒る佐伯マネを尻目に携帯を確認すると、十件近くの着信が来ていた。
ほんとごめん、佐伯ちゃん。
桃華からの追及をどうにかこうにか躱し全速力で走ってきたものの、全然集合には間に合わなかったようで、三十分も遅刻をしていた。
多分もう俺のこと“シュン”って確信してるよなぁ。さっきは強引に抜け出してきたけど、絶対に誤解を解けなかったよな。いやまあ誤解ではないんだけど……。
はぁ……百瀬さんが俺のことをバラさないといいんだけどな。まあでもクラスメートは俺の顔は前髪で見えてないだろうし、百瀬さんがもしバラしたとしても誰も信じないだろうし大丈夫か。うん大丈夫だ。
もう悩んでてもしょうがないので無理矢理自分を納得させた。
「君はもう一人前のモデルなんだから、しっかりそれ相応の振る舞いをしてよ」
「はい」
「よし!じゃあ説教はここまで!さっさとシャワー浴びて撮影しちゃいましょ……あ、そうそう今日はレンも一緒だから」
まじか、今日はレンも一緒か。汗くさ、とか思われても嫌だし、何よりそんな思いはさせたくないから念入りに汗流してくるか。
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「着替え終わりました」
「はーい、じゃあ今日は第一スタジオだからね。もうレン待ってるから早く行って来な」
「了解でーす佐伯ちゃん」
「“さん”って呼びなさい!」
いつもちゃんとツッコミを入れてくれるのでついつい揶揄ってしまう。ほんとは年上の人をむやみに揶揄うなんてやめた方がいいんだけど。まあ佐伯ちゃんだし。
「遅れました〜」
「もう、遅いよシュン!一時間近く待ったんだからね!」
「ごめんて」
第一スタジオについた俺を迎えたのはレンだった。
姫野恋。美人というよりは可愛いという表現がよく似合う子。平行二重で目はぱっちりとしていて、形の整った鼻梁。笑った顔が本当によく似合う、作り物かと錯覚させるような完璧に整った顔。
レンは桜の花びらみたいな淡い髪色をしていて、普通の人がそんな髪色だったら違和感ありまくりなんだろうが、レンの場合はむしろその派手な髪色が整った顔立ちをさらに引き立てていた。
「今日はどうして遅れたの?」
こてんと可愛らしく首を傾げながらそう尋ねてくる。
普通の男子だったらイチコロだろうな。
俺とレンはほぼ同時期に有名になった。そこから共演する機会も増え、俺の中では恋愛対象ではなく、なんていうか親友みたいなポジションになっていた。
レンが親友なんて、全国の男子から恨み買いまくっているんだろうなぁ。いつか刺されるかもしれん。
姫野恋の紹介はここまでにして……
「ごめんな、学校で色々あってさ」
「どしたの」
「いや、実は俺が“シュン”ってことがばれたかもしれないんだよ」
「ええ!?大丈夫なの?学校パニックにならなかった……?」
「バレたって言っても一人だけだから、その人が言いふらさなきゃ大丈夫だよ。それにまだ誤魔化すこと諦めてないし」
「う、うん頑張ってね」
「さ、ちゃっちゃと撮っちゃおうぜ」
「……ッ!」
横を通る際、「頑張ろうぜ」という意味を込め頭をポンポンと優しく叩いたのだが何故か俯いてしまった。
「レン?」
「が、頑張ろうね」
両手でガッツポーズをとるレンだったがどうにも様子がおかしい。顔がどうにも赤い気が……。
「顔、赤いけど大丈夫か」
「だ、大丈夫だよ!ほら!早く撮ろ!!」
どうにも誤魔化された気がするが、まあいいや。ただでさえ時間が押しているから早く撮影に入ろう。