駿人はシュンとして出会ってしまう①
俺、桐谷駿人は"シュン"として高校生モデルをやらせてもらっている。
だが、実は桐谷駿人が"シュン"な事は家族や一部関係者にしか知られていない。
ただ、それは決して人気が無くて誰にもバレていないとかそういうのではないんだ。
むしろ……
「あ!おはよう~桃華ちゃん」
「百瀬さんおはよう」
「はい、おはようございます」
クラスのマドンナ、百瀬桃華が黒く美しいロングヘアを靡かせながら教室へとやってきた途端、多くの人が彼女へと話しかける。
ぱっちりとしたタレ目がちな大きな目、他の人と一線を画する艶やかな黒髪、低身長ながらも出るところはしっかり出ている。
そしてなんと成績もいいらしい。前回のテストは一位とかなんとか。
そんな彼女に人気が出ないわけが無い。男女共に慕われていてクラスの、いや学年の人気者だ。
噂によると入学してまだ三ヶ月なのだが、既に告白された回数は二桁を超えるらしい。
「桃華ちゃん桃華ちゃん!昨日、シュンが表紙を飾ってる雑誌出たんだけど買った!?」
「えっと、いえ、すみません。買ってないです……」
ガタッ!
突然"シュン"としての俺の話を始めたから思わず椅子から落ちかけてしまった……。
「……?」
やばいやばい大きい音が出て皆こっちを向いてる!な、何事も無かったように座り直せば誤魔化せるよな?
幸いにも「なんでもないですよ?」みたいな顔をしてじっとしていたら全員俺に対する興味は失われたようだ。
「駿人、お前なにやってんだよ」
ヘラヘラしながら歩いてきたのはこのクラスで唯一の俺の友達である佐藤健也だ。
「うるせぇよ。寝ぼけてたんだよ」
「いやお前嘘つけよ」
「まじまじ」
「ほーん。そうか、まぁそれでいいや。というかお前そのうざったらしい前髪切ったら?目とか見えねぇじゃん。もうちょっとマシな顔になるんじゃねえの?」
「ばあちゃんが死ぬ直前に俺に『前髪は目を隠すくらいにしなさいよ』って言ったんだよ。だから切らん」
「はぁ、なるほどなぁ。……いや、んなわけねえだろ!!」
「は?俺の事信じないの?」
「いやなんでお前逆ギレしてんの?明らかな嘘じゃん。無理ありすぎじゃん」
チッ、誤魔化せなかったか。
「おーい舌打ち聞こえてるよ」
健也が何か言ってるが無視する。
さっき俺は「桐谷駿人がシュンということはほとんどの人に知られていない」と言ったが、その理由は今のやり取りから分かるように俺は普段前髪で目を隠しているからだ。
モデルの時は髪型をしっかりセットして仕事をしているから雰囲気が大分違うんじゃないかな。
妹にも「お兄ちゃん髪型変えるだけで相当雰囲気変わるよね」とか言われたし。
「まぁ別にそんな不便じゃないししばらくは切らないわ」
キーンコーンカーンコーン
俺がそう言うのとほぼ同時に始業のチャイムがなり、健也は自分の席へと戻って行った。
「あああ疲れたあ!!駿人一緒に帰ろうぜ」
六時限目が終わり、部活へ行く者、帰る者、それぞれがそれぞれの行動を取る自由が与えられた時間となった。
うん、ただの下校時間。
「あーすまん、今日バイトだわ」
「え、お前バイトやってたの?」
「あーうんまぁ」
「なんのバイトなんだよ」
「外歩き回って落ちてるゴミを見つけたら拾ってスキップしながらゴミ捨て場まで運ぶバイト」
「……」
「……」
「……」
「まぁ聞かないでくれ」
「……わかった。犯罪にだけは手を出すなよ」
「いや出さねえよ!?」
俺をなんだと思ってやがるこいつ!もう三ヶ月の仲じゃないか!!
「まぁバイトだから一緒には帰れないけど玄関までは共に行こうではないか」
「お、おう。たまに変な口調になるよなお前」
ほっとけ。
「桃華ちゃん!絶対シュンが写ってる雑誌買った方がいいよ!!」
「じゃあ今日買ってみますね」
教室を出る瞬間そんな会話が聞こえた。
へへ