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まじ村長

うちの村長まじ卍

作者: 華美

うちのいる村は、何かとやばいと噂がある。数年も経たずドッカンと何か建ててるし、ドバーと魔物が来ても被害少なく済むし。でもうちらは知ってる。その一端を、いや全て背負ってるのは村長だって。


「ほれ、朝じゃ。今日は村の様子を見たいから着いてこい」


「ええー、村長だけで済むじゃん。うちいる?」


村長はよくうちと優男を連れ歩く。最近は特に多いし、雑用と表する仕事をさせられる。まじ大変だし、よく真面目にやってるなって自分を褒めたい。


「いいから来い。あやつも呼んでおるのじゃ」


少しでも嫌がると村長は軽い威圧を掛けてくる。手加減してくれてるって分かるけどまじ半端ない。身近に例えるなら上級魔族。具体的にいうなら魔王だし。


「村長、まじ卍」


「は?久しぶりに聞いたがよく分からんぞ?どういう意味じゃ」


そこへちょうど良いタイミングで優男が現れた。爽やかな顔付きだけど、内心嫌がっているに違いない。


「来ましたけど、何をすればいいんですか?」


「困っとる者がいないか、確かめるのじゃ。最近は外ばかりに目を向けていたでな、内側も確認せねばと思ってな」


優男が合流してからすぐさま近くの家から訪問することになった。


「どうも、困った事か手伝って欲しいことはあるか?わしとこやつらで何でもやるぞい」


「村長、こんにちは。そうですね...最近村に訪れる方が多いでしょう?宿が少ないので家を借りたいと言う方が多くて。仮宿でもいいですから作ってくださるとありがたいです」


なんか、普通とは違うと感じるのはうちだけかなといっつも思うんだよね。手伝って欲しいこととか、もう少し軽い事だと思うんだけど、村長が絡むと大事になる。家が傷んでるから床を直して欲しいとかならわかるんだけど、家を作れだもん、言ってる事が...。村長なら一人でも出来るだろうけどね。


「テントとか?」


「そんなもの外からの客には可哀想じゃろ。王都からも遠いんじゃし。家くらい作ればええじゃろ?3人もおるんじゃ」


何かを言おうとして、肩を優男にポンポンと叩かれた。まるで言っても無駄だよ、というように。でも笑顔なのはちょっとムカつく。


「3人で家、しかも宿なんてまじ鬼畜だし。呆然通り越して草生える」


「そりゃ魔法を使えば何とか木の家が...って絶対意味が違うじゃろ、なんじゃ、草生えるとは」


村長はこういう時はかなり真面目に聞いてくる。若者言葉とか、略語とか好きみたいで、優男に教えてもらうまで話が進まない。最初は可愛いと思ってたけど...。


「...という訳で草生えるとは笑える、爆笑すると言う事でもあります。ただ、皮肉な笑いの場合も使うので時と場合によります」


「時と場合に...とな、そんなんばっかじゃな、若者言葉」


話が終わり、外に出る。すると村長が村人に宿がどこがいいのか聞いた。そして数ヶ所場所を決めた途端に、東の方へ指さした。


「木を狩りに行くぞ。あっちには頑丈なものが沢山ある。きちんとついてくるんじゃぞ」


うちは東の方にある森を頭の中で思い浮かべて顔を顰めた。あっちには確か。


「村長、あっちには危険な魔物が出るんですよ?木を持って帰るにもどうするんですか」


「そんなもん気合いじゃ。村人のお願いは聞かねばならん」


気合い。村長は本当にその言葉が好きで、実際に実現させてしまうのが凄い。それをいつもそばに居るうちらは身をもって知る。


「そいっ、ほっ、お主らも早う手伝わんか」


東の森の中に入った途端に魔物に襲われた。それをまるで草を刈るようにスパスパと斬っていく村長。残ったのは可哀想な魔物。


「村長、まじ卍...。なんもいえない」


「あの、これ、僕達は木を切っていればいいんですか?」


斬られた魔物を解体するのに時間がかかる。確かにうちらは近くにある木を切っていけばいいと思う。


「その木は繊維が柔らかい、数十年しかもたん」


「ええ?結構頑丈でしょ?ていうか、他に何処にもっと頑丈な木があるんだし。数百年ものとか狙ってるの村長?」


急に溜息を大きくついた村長がこちらを見る。いかにも残念なものを見る目で、少しギクリとした。


「年単位の問題ではないわい。種類じゃ、種類。ほれ、ちょうどあそこにいい素材がある。見てみろ」


見ろ、と指を指した先をうちは見て後悔した。いや、まじ鬼畜だし、やっぱうちらの村長、人間やめてるよ...。


「一言言わせてもらいますよ、村長...。あれは木ではありません。魔物です」


優男が蒼白な表情で淡々とそう告げた。持ってきた斧を使うつもりがなくなったのか、そっと村長へと渡す。


「なんじゃお主ら、やらんのか。動く植物など、脅威の内に入らんというのに。魔物の中でも温厚だぞ、あれは」


うちは再度木のような魔物を見る。枝のような手は鞭のようにしなり地面を叩き上げ砂埃を上げている。幹のような顔は醜悪な表情を見せ、ケヒャヒャなどと不快な鳴き声をしていた。


「温厚でも無理があるってゆうかー、どう見ても地面が虐められてんじゃん」


そうこうと話している間に、魔物はこちらに目を向けた。明らかにニタァと笑うと、足をこちらに向けた。


「「あ」」


声がハモったのは優男に違いない。村長はうちらを見回して再度溜息をついたかと思えば、その場から消えた。


「えー」


「わしは期待しとったんだがなぁ、こんなもん、上から叩き切れば直ぐに大人しくなるというのにの」


言葉通り、村長は魔物の上から斧を振り上げていた。そこからなんと回転を始め、勢いのままに地面まで斧を振り落とした。


「ピギャ」


凄く可哀想な音がして、醜悪な顔は更につり上がったかの様な表情を見せ、スゥ...と邪気と共に消えていった。


「ケヒャヒャ!」


後ろから先程聞いた魔物の鳴き声がした。うちは無意識の内に背後を振り返り、その醜悪な顔を見た。意外にも近くに居て、何だか臭い気もする。


「っふざっけんなし!」


思わず手が出る、足も出た。鞭のような手が振り上げられていたが、どうにか弾く。しかし衝撃で後ろへと飛ばされ、うちはたたらを踏んだ。


「優男!」


優男はすぐにうちの掛け声と同時に魔物の背後から殴って注意をうちから逸らす。うちは背に掛けていた斧を取り、魔物に向かって駆けだした。


「こっんの!斬れないじゃん!」


全力で振り回したのに、少しの傷しか入らない。仕方なく、魔物が振り向く瞬間を狙って優男へ斧を投げ渡す。


「殺す気ですかっ!?」


何度かバク転で距離を取り、私は優男に向かって合図を出した。親指をぐっと前に出すと、優男はわたわたと手に取った斧を握りしめた。


「てぃやっ!くっ!」


助走をつけて、全力で斬りかかった優男の攻撃は少し効いたようだ。怒りの表情に変わった魔物が更に攻撃の数を増やす。


「いたっ!うぅ、うー!村長!やっぱりむりー!」


足を取られ転んだうちは、あまりの無茶ぶりをした村長に向かって声を上げる。こんだけ固い魔物を縦に斬った村長なら楽勝だし。振り返ると、五体同じ魔物の死体が転がっていた。まじやば。


「貧弱じゃのう、じゃがいい攻撃じゃった。今回はこれでいい、少しでも経験が積めれば...な」


ちょっと嬉しそうにそう答えた村長はいつの間にかうちの前に立っていた。そしてしわしわだけど、力強い手でうちの頭を撫で回した。


「はわっ!?危ないし!」


うちは村長の顔を見た。眼光は歴戦の戦士のように鋭くて強すぎる光を帯びている。だけど、口元には優しすぎる程の笑みが浮かんでいて。うちを撫でる手は太陽のようにあったかい。


「いつかは、わしを超えろよ、娘」


「百年後なら多分いけるし」


「いや、わしもうおらんじゃろ、あれじゃあれ、草生えるわそんなもん」


うちは思わず笑う。自分でもうるさいと思うくらい。こんなに頼りになる村長、他にはいないっしょ。


「ちょっと!楽しそうにしてますけど、僕死にそうなんです!早く助けて下さい!」


半泣きになっていた優男がこちらに向かって叫び、村長はやれやれと言いながら、魔物の暴れている鞭のような手を掴む。何をするのかと思えば、そのまま魔物を手繰り寄せた。あまりの力に魔物が倒れ込む。


「ヤバっ!」


何をするのか一瞬頭に浮かび、うちは惚けている優男の傍まで行くと、その肩を掴む。


「近くにいると危なそーだから逃げるよ優男!」


「えっ、はっ!...うん!」


我に返った優男はすぐさま距離をとる。同時に、村長が自分を中心に魔物を振り回した。


「ケヒャヒャ、ヒャーーーー」


本体を掴む手は離す様子もなく、だがその遠心力の力に魔物が耐えきれなくなったのか、中身がなくなったかのように顔が消えた。


「こんなので、死ぬの?」


「いや、気絶したんじゃ。斧が無かったもんでな、この方法でやってみたぞい」


斧は途中で壊れてしまったらしい。地面も砕く威力に耐えられなかったようだ。うちが渡した斧を、優男が村長に渡す。


「...」


村長がそのまま斧を振り落としてトドメを刺したが、魔物は何も声を発することは無かった。絶対既に死んでいたのではないだろうか。


「可哀想な魔物...」


「自分から向かってきたんじゃ、これも自然の摂理。素材として使うのじゃし、仕方なかろう」


自然の摂理なのは分かるけど、村長の無敵すぎるところはどんな相手でも可哀想に思えてくる。到底うちらでは村長相手に何も手出しは出来ないだろう。


「それにしても村長、僕達はどうやって持ち帰ればいいんですか?解体するにも硬すぎますし、多すぎます」


うちは辺りを見渡し、六体の木の魔物を確認した。村長は何やら期待するようにうちをチラチラと見る。


「なんだし」


「わしは魔法使えんし、お主なら何とか出来るか?」


うちは、少し肩を落とす。これをやるとまじ疲れるし、まじ動けないしで嫌なんですけど...。


「もう少し削ってくれないと無理だし。うちの体力なくなっちゃうんですけど...」


「わかった。優男、手伝え。流石に数が多いでな」


うちは倒れている木に腰をかけた。解体する二人を眺める。うちでは、死んでても魔物を解体する力がない。鉄より硬い木の魔物だし。村長には劣るけどそれを解体できるほどの力を持つ優男はヤバい。うちの知る世界で二番目に凄いと思う。


「出来たぞ」


十分も経たない内に、目の前に山のように積まれた素材が出来た。これでも少なくなった方なのだろうけど、普通に持ち帰るにはフルにやって三日かかりそうだ。


「仕方ないしやるけど、今回だけだからね!」


うちは魔法が使える。生まれた時から使えたからどうやってとか何ともいえないんだけど、村長に褒められるくらいには使える。今回使うのは別空間に移す魔法。なんか真っ白な場所で、声がするけど何もいないから、収納に役立つ。


『今回も使うのか?一応、我の私用空間なのだが...聞いてるか...?』


「帰ったらすぐ出すんでー。ちょっと使わせてくださーい」


この魔法は全部魔力持ってかれるし、体力も奪われるわでまじ大変。しかも得体の知れない存在に声を掛けられる。最後まで聞く前にいつも閉じてしまう、なんか怖いし。


「もう、限界突破だし...村長ぉー」


立つことも辛くてうちは地面にへたり込む。目の前に山のように積まれた素材は一瞬にして移動して今は別空間にある。うちは座っているのもキツくて倒れ込む。


「おぶってやろう、優男は周囲の警戒を頼むぞ」


村長が傍に来てわざわざ優男に手伝わせてうちを背負ってくれた。担がれても文句は言わないのに、こうして気を遣ってくれる。


「ありがと、そんちょ」


「こんなに大きくなったんじゃな、娘も、息子もな」


村長はまだ村長じゃなかった時、うちらを拾ってくれた。うちと優男は魔王に狙われた家系の生き残りだと聞いた。


「村長はさ、うちらを見つけた時に村長になったの?」


「お主らを見つけた所があの村で、たまたま村人に頼まれてやっておるんじゃよ」


「そうなんですか、でもどうしてですか?」


村長は、村の統治をしていた貴族がうちらの家系で、滅ぼされてしまって跡継ぎが赤子しかいない状態になってしまったからと言った。


「それじゃ村長は、いつかどこかへ行くの?」


「いんや、わしもいい歳じゃからの、この村で眠ることにしとる。わしの娘と息子もおるんじゃ、離れることはせん」


うちは胸の辺りがじーんと暖かい気持ちになった。歳は凄く離れてるけど、昔からうちらのことを自分の子供のように扱ってくれる。


「うへへ、どっちかというとじいちゃんだけどね」


「なぬ、そういう見方もあったか。育てたのはわしじゃから、孫というよりは子供のようじゃったが...」


「いえ、村長は村長ですよ」


「そうだし」


村長は、何かを噛み締めるように深い笑みを浮かべ不敵に笑う。そして優しくも鋭い瞳をうちらに向けた。


「さぁ、娘、息子よ。村人のため、早く家に帰るぞい。娘、少し飛ばすから奥歯噛み締めときなさい。息子、ついてこいよ」


その言葉とともに、うちは全力で村長に抱きつく。振り落とされたら待っているのは死だ。


「そんーーーーー」


優男の声がかき消された。というより、村長に置いていかれてしまったのだろう。見ようにも暴風のせいで目が開けらんないけど。


「荷を出すのにどれくらいかかるかの?」


「ーーえ、と!2日後には何とか回復するけど...家建てるの手伝えないかも?」


流石に体力も奪われるから手伝いなんて出来そうもない。うちは自分の力不足に少しだけ肩を落とした。


「村長達に運んでもらった方が早かったかな?」


「いんや、余計な荷物が増えてより時間がかかったじゃろう。血の匂いや素材の臭いに敏感な魔物は多いからの。倒せはしても、解体せねばならん。勿体ないからの」


確かに、今は村長が走ってるから魔物がいても残像しか見えない。でも運んでたら村長はともかく、優男が手間取るだろう。手軽な方がいいに決まってる。


「なら良かったけど...」


そう話している間に、前方にうちらの村が見えてきた。とはいっても、巨大な柵に囲まれた、普通の村とは違う村。


「もう家だし。なんか卍通り越して草生えた。ふふ、ふふふ、村長、まじおもろ」


うちらの家はごく一般的な木造の小屋のようなもの。でも、こんなに安心するところはない。豪華でも、頑丈すぎる家でもない。気を張らなくて済む、素敵な家だし。


「ぜはっ、はっ、ふ...追い付いた、追いつきましたよ村長...」


息切れした優男が後から姿を現した。気力を尽くしたのか、目が据わってる。


「ダサ」


「...おぶってもらってるんですから、そういう事はいえないと思いますけど」


少し怒ったのか、目が据わったままこちらを睨みつけてきた。うちは堪らず笑う。


「ぶふっ、髪...」


ストレートでサラサラな髪が、全力で走ったからなのかボサボサで後ろに流れていっている。それに気付いた優男はササッと直していた。


「僕にそう言いますけど、貴方も子供のようですよ」


「今だけはいーんだし。羨ましいんでしょ、村長に背負ってもらってるの」


「なんじゃお主らは。あれじゃぞ、微笑ましくてまじ卍草生えるぞい」


村長の言葉にうちらは顔を見合わせて、お互いに肩を揺らす。その方法で使うとか。


「村長、まじ卍...ぶふっ」


「違いますよ村長、その使い方はちょっと...!」


その後、3日後には宿が完成した。数十人は泊まれるであろう大きさの宿が数軒並んだとか。その関係者である村人曰く、目にも止まらぬ早業だったという。

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