2話 突然の来訪者
「えーこれなら皆さんには1人1人別室で血液の…」
花一華高校のホームルームでどの教室にも警察が2人教卓に立っていた。
事情は詳しく話されないが、血液の採取のためという理由で今日の授業はなくなった。
明日からは今朝のニュースの犯人が捕まるまで当面は自粛というのが決まった。
「おかしくないか?」
隣のクラスの生徒からやることが決まり、まだ当分はこちらのクラスの順番が回ってこない。
向葵は前の席の刹那に言った。
刹那は椅子を反対にして、向葵に向けた。
「まぁ、おかしいな…」
向葵の隣の席の子は今日は休みだ。
いつも休まずに学校に行く生徒だが今日は休み。
そしてその先に移動してきた美咲が座っている。
「昨日の今日でこんな調査なんて出来ないわよ、学校も応じるわけないわ」
刹那の発言に向葵は共感した。
しかし刹那は何か違うことを考えているように見える。
「じゃあ犯人が花一華の生徒って思われてるんじゃないのか?」
刹那の発言に向葵と美咲は顔を白くさせる。
同じ教室に連続殺人をおこなった人物がいるかもしれないと恐怖からだ。
「…犯人じゃなくても目撃者が監視カメラに写ってたとかかも知らないけどな」
「不安にさせないでよ」
美咲は刹那に悲しそうに言った。
2年生を調べる警察2人は理科実験室で生徒がくる準備をしていた。
同い年くらいの男女2人、男の方は刑事だが女の方は鑑識だ。
男の名は菅原綺音。女の名は楠木花蓮。
花蓮は血液採取の準備をしながら綺音に疑問になっていたことを聞く。
「今まで一切の証拠を残さなかった連続殺人者が何で今回の事件は証拠になりそうなものを2つも残したのかしら?」
「…冤罪を狙ってるかもしれない」
冤罪は誰かに罪をきせることだ。
被害者の女性は花一華の生徒で、手の爪が剥がされたり死なない程度の傷が何度もあり普通の人間の犯行とは思えない。
爪を剥がすのは今回が初めてだが、浅い傷があり心臓に的確に包丁のようなもので最後は刺し殺しているのが似ている。
そしてその連続殺人の被害者は10人以上、殺し方を変えて何人も殺している可能性が高い。
何故なら犯人が見つかっていない殺人は1年前から何件からあるからだ。
今回の事件は今まで一切の証拠がなかったにも関わらず、被害者ものではない血が残っており近くの監視カメラで深夜2時に花一華高校の制服を着ているのが映されていた。
「本当に同じ学校の生徒があんな酷い殺しを出来るのかしら…考えただけでも」
「この世にはサイコパスと言われる人間もいるんだ、なんら不思議じゃない」
やがて生徒の血液採取が始まった。
どの生徒も警察と喋るときは声が震えている、はじめての体験だからだろう。
「名前は?」
綺音が聞く。
向かいには男子生徒が座っている。
他の生徒とは違く落ち着いているように見える。
「如月刹那です」
刹那の名前を聞き、鑑識が名簿にチェックを付ける。指紋採取の間は綺音を生徒を緊張させないように世間話を先ほどまでしていた。
「刹那君は緊張しないの?」
「いえ、あまり緊張とかしたことないんで…なんかの発表とかで緊張してたら失敗するでしょう?」
ニッと刹那は綺音に向かって微笑む。
綺音の直感からして刹那からは少しどこか殺人鬼にと似ている傾向を感じていた。
刹那はじーっと自身の血が抜かれているのを観察している。しかしすぐに口を開いた。
「ニュースで見ました。最近騒がられてる連続殺人鬼を探しているんですよね?目星とかって付いてるんですか?」
「…それなりについてるさ」
綺音は嘘をついた。
2つの証拠は甘い、本当にこの花一華に犯人がいる可能性は少ない。
その言葉を聞くと刹那は綺音の顔を見たあと、花蓮の顔を見つめた。
「血液採取ってことは血が見つかったことですよね…生徒だけってことは制服がどっかに映ってたりしたんですよね?」
「興味を持つことをダメとは言わないが、あまり事件に首を突っ込むなよ…痛い目に合うぞ」
刹那は目を丸くした、話を逸らすのが下手くそだと思ったからだ。
話が終わったところで血液採取が終わり、刹那は教室を後にした。
「えっと…須川向葵です」
ビクビクしながら向葵は椅子に座った。
普通の生徒と変わらない態度だ、先程の刹那の異様さが引き立てられる。
すぐに血液採取が始まる。そしてすぐに血液採取も終わり向葵は教室を後にした。
そこには美咲が立っていた。
「次は美咲の番なんだね」
「痛かった?」
「えっ…」
突然の問いに驚く向葵を気にするわけでもなく、美咲はもう一度聞いてきた。
「僕は痛くなかったよ、注射器みたいので血を抜いて…一瞬だったよ」
「そう、ありがと」
美咲は教室に入り、椅子に座ったが手を出さない。
それでは血液採取ができない。
花蓮が手を出してとお願いする前に、美咲が口を動かした。
「拒否します」
「えっ…?」
ここにきて初めての血液採取の断りに花蓮は驚いたが、綺音は驚かなかった。
「令状も何も出てないので拒否出来ますよね?これで失礼します」
そして美咲は本当に教室を後にした。
何も言わなかった綺音はふっと笑った。
「ここにきて拒否できることを知っているやつがいるとはね…」
綺音はそう言うと、立ち上がった。
美咲で2年生は最後のため、ここに長居する必要がなかったからだ。
花蓮と美咲は学校を後にした。