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8話【迷子の探し物】

 

 わたしの前にはしゃがみこみ頭を抱え込んで泣きじゃくっている小さな男の子が居た。


 そしてその男の子の前にはサーベルタイガーの様な動物がお座りの体制で困りきった顔でオロオロしていたのだ。


「うえぇぇん!誰かぁぁ!!」


 男の子はブルブル震えているせいか、わたしが来たことには気が付いていない。

 サーベルタイガーの方はわたしに気が付くと「待ってました!」と言わんばかりに駆け寄ってきた。

 精霊王となったわたしはなんと動物と意思の疎通が出来るようになった。動物好きにはたまらんスキルだ。意思の疎通ができるので、嫌がられない限りモフリ放題だもんね。


 近くに来たサーベルタイガーの頭を撫でると言葉ではなく、この動物の思念が伝わってくる。

 どうやら何か探し物をしに森に入ったようだが、道に迷い困っていたので助けてあげようとしたら大泣きされてしまったらしい。


 うん。確かに初見じゃ君は怖いもんね…とは言えず、労るように「ご苦労様、ありがとう」と思念を飛ばす。

 撫でられて満足したのか、サーベルタイガーは森の奥に姿を消した。


 ちなみに普通の森には人を襲う動物はほぼ居ない。巣を荒らされたり、仲間を傷付けられたり、無意味に神経を逆撫でされたりしない限りは彼等は無害なのだ。



「ふええ…僕なんて食べても美味しくないよぉ!誰かぁ!助けてよぉぉ!」


 何も見るもんか、聞くもんかと頭を抱えて縮こまっているので、わたしは敢えてその子の前に回り込み同じ様にしゃがみこんだ。


「ねぇ。ちょっと、聞こえてる?」


 少し大きめの声で問うと男の子はびくりと体を震わせ、恐る恐ると言う感じで顔を上げる。そしてわたしを見た途端、呆気にとられたような表情を浮かべて尻餅をついた。


「君、こんな所で何してるの? もうすぐ日も暮れるのに」


 危ないよ、と手を差し出すと男の子はわたしの手と顔を何度か見ると、ゆっくりとその手をとった。

 立ち上がったその子は今のわたしより少しだけ背が高い。本当に少しだけ。多分5歳くらいだと思う。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだけど、かなり可愛い顔をしていた。淡い金髪にエメラルドグリーンの瞳。身なりも垢抜けていて素人目には結構良い服を着ていた。まるで絵本から飛び出した何処かの王子様のようだ。


 男の子は先程から言葉を発することなく、ただ呆然とわたしを見ている。


「どうかした?」

「え!?あ、えと、花をさがしてて…」


 男の子は友達にこの森の中に花畑が有ることを聞いてやって来たと口にした。

 どうやら母親の誕生日に花束を贈りたいようだ。

 お金で買えるものは結局そのお金を稼いで自分に小遣いとして渡してくれたのが親なので意味がない、と思ったらしい。

 そして迷子になり日も落ちかけ不安になっていたところに先程のサーベルタイガー君が登場した、と言う訳だ。


「あの子は君を森の外に送り届けようとしてくれたんだよ。だからそんなに怖がらないで?」

「う、うん…でも僕あんなに大きい動物見たことなくて…怖くて…」


 先程の光景を思い出したのか男の子の目からポロポロと涙が溢れる。


「もう!男の子なら泣かないの!」

「だってぇ…」

「ほら、お花畑はあっちだよ。さっきのサーベルタイガーが最後に教えてくれたんだから、一緒に行こう?ね?」

「うん…」


 わたしは男の子の手を引いて森の中へ入った。

 ぐすぐすと泣きながらも男の子はわたしの後ろに付いて来ている。涙花には弟は居なかったから歳の離れた弟が居たらこんな気持ちになったのかな。


「グスッ…ねぇ、…君はこんな森の中で何してたの…?」


 鼻を啜りながらたどたどしく男の子はわたしに聞いてきた。

 涙は引っ込んだけど、目は赤く腫れていてウサギみたいだ。


「何って…あなたが泣いて助けを呼んでたから、様子を見に来たんだよ」

「どこから?」

「精霊の森だけど」


 前を向いたまま会話していたら急に男の子はピタリと歩みを止めた。どうしたのかと振り返ると、男の子は目を真ん丸に開いて「ほんとう?」と問う。


「だって、わたし精霊王だもの。世界中の森はわたしの庭みたいなものだから、森で助けを求める声は自然と聴こえちゃうんだよね」

「本当に精霊王様なの?」


 うん、と肯定すると男の子はキラキラとした瞳でわたしを見詰めた。美少年…いや美幼児の輝く目が目映い。やめて、そんな純粋なキラキラした目で見ないで!


「コホン…。で、今日はたまたま…すごく大きな声で泣いてるのが聞こえたから見に来たの」

「そんなに大きな声で泣いてないよ!」


 男の子は耳まで真っ赤になり恥ずかしそうに視線をそらす。

 わたしにショタっ気は無いけど、可愛いと思ってしまった。


「でも君は女の子なのに王様なの?王様って大人の男の人がなるものじゃないの?」


 最もな質問にわたしも頭の中で考えてしまう。

 確かにわたしは一応幼女…女の子だ。じゃぁ女王だろうか…?と。


「君、その…すごくか、可愛いから…精霊姫が良いと思うんだけど…!」


 顔を真っ赤にしながら意を決した様に言われ思わず固まる。


 ─ぎゃひいぃ!!ひ、姫!?恥ずかしいと言うよりいたたまれない気持ちになるのは何故!?


 そんなわたしの心の葛藤など知らない男の子は繋いでいた手を両手でぎゅっと握る。


「いや…姫はちょっと……一応王様だし…」


 ぎこちなく返すと男の子は「そっかぁ…」と肩を落とした。


「でも女のわたしが王様って言うのもなんか変だし、帰ったらファムに相談してみようかな」

「ファム…?」

「うん。わたしの相棒…かな?」


 ─あ、そう言えばファムに黙ってこっちに来たんだっけ…また怒られるかも。


 怒られるのやだなーと頭の片隅で思っていると、男の子は小さく「いいなぁ」と呟く。何がいいなぁ、なのかわからないけど、取り敢えず日が落ちるまでもう時間がなかったのでわたしは再び男の子の手を引いて歩き出した。辺りはいつの間にか傾く夕日にオレンジ色に染まりかけている。

 歩き出して一分弱の所で開けた野原になっていて、そこはサーベルタイガーに教えてもらった通り色取り取りの花が咲き乱れる花畑になっていた。


「うわぁ…!」


 男の子は感嘆の声をあげ笑顔でわたしを見る。


「すごい!お花がこんなにたくさん!これなら母上に喜んでもらえる花束を作れるよ!ありがとう!」


 男の子は花を摘むために屈むと嬉しそうに吟味し始めた。その後ろ姿を眺めながら、わたしは涙花としての記憶にある母を思い出し郷愁に目を細める。母も花が好きだった。もう会えないと解っているからだろうか、酷く懐かしく…寂しいような感情が胸に広がる。


 暫くすると男の子は両手一杯の花を束ねて戻ってきた。

 泣き腫らした目元もすっかり元通りになって満面の笑顔だ。


「キレイね。きっと喜んでもらえるよ」

「そうかな?そうだったら良いな…」


 はにかみながら答える表情にわたしにも笑顔が伝染した。

 日が落ちるまでごく僅か。


「森の入り口を覚えてる?」

「うん、覚えてるよ」

「そっか。なら大丈夫かな。じゃあ目を閉じて森の入り口を思い浮かべて?」

「え?うん…」


 男の子は瞼を下ろす。わたしは男の子の肩に手を置いて彼の思い浮かべる場所へと転移した。


 ─ふふん。最近やっと転移の魔法を使えるようになったんだよね。

 転移!超便利!


誤字、脱字報告ありがとうございます(*´ω`*)


発見したら遠慮せずにお知らせくださると助かります(*^^*)

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