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7話【魔法の練習】

 

 わたしがこの世界で目覚めてから一週間が経った。


 その間わたしはウサリス─わたしのワンピースを作ってくれた小動物達に念願のパンツを作ってもらった。

 そう、あの金と同等の例のヤツで、である。


 名前が無いのでわたしが勝手にウサリスと呼んでいるけど、ファムは問題ないと言ってくれた。


 あれからわたしはファムと沢山話をして色々と教えてもらった。なので魔法も使えるようになりました!すごい!


 普通、人間が使う魔法は魔力魔法といって、自分の体の中の魔力を使って魔法を発動させるものなのだ。

 けれどわたしは精霊なので精霊魔法を使う。精霊魔法は人が使う魔力と違って、魔力の根源が【精霊界(アストラル)】その物なので力が尽きることはほぼ無い。けれど力の扱い方が難しく、まだわたしは練習中だ。

 小、中、大、特大と分けて威力の練習をしてるんだけど、小と中の間がまるでマッチの炎と家一軒が焼失するくらいの炎の差があるのだ。火で例えたらね。

 加減を間違えると森が焼失する!

 ファムには「こればかりは練習と慣れ、ですね」と言われたので、わたしは目下日々訓練中なのだ。


 あとは魔法を使うときの詠唱も教えてもらったけど、余り使いたくないなぁ…。だってなんか中学生が患うアレっぽいじゃない。

 それに詠唱すると威力が上がるみたいだし、危ない気がするんだよね。

 まぁそれは追々考えるとしよう。



 そしてその間、ファムはわたしの為に踏み台を作ってくれた。あらゆる場所の高さがわたしの身長に対応していないためである。

 流石に全ての家具を作り直すことは難しいので、今や家の中には至る場所にわたし専用の踏み台が備え付けられている。

 お陰でお料理も出来るようになった。


 あれからファムはロイヤルミルクティーが大変お気に召したようで、わたしは作り方をレクチャーさせていただいた。

 お陰で今はファムがわたしのためにロイヤルミルクティーを淹れてくれる。

 ぶっちゃけわたしより上手い。

 本人(鳥)いわく慈しみの心で作っているのだとか。

 そもそもどうやって淹れているのか、とか、どうやって踏み台を作ったのか、とか、謎だ。

 ちなみにファムはカチカチの謙譲語はとれたけど、依然わたしに対する言葉遣いは敬語のままだ。



 そしてわたしは今日も魔法の練習をするのだ。


 家からちょっとだけ離れた場所にある広場で魔法の練習をするのがわたしの日課になっていた。


「よし、今日は無の心で魔法を使ってみよう」


 わたしが手を眼前で開くと手の中心からまるで花が開くように魔方陣が形成されて行く。

 そして中心に光の塊が出来上がる。


 ─無の心、無の心…!


 わたしの手から離れた光の塊は弧を描いて飛んでいった。

 次の瞬間、森全体が揺れるような大爆発音が轟く。


「何事ですか!?」


 爆音に慌てて駆けつけたファムの声が爆煙の向こうで聞こえた。


「ファ、ファム?」


 爆煙にケホケホと咳き込みながらファムが居る方へ向かう。


「けほっ! 可笑しいなぁ? 無心でやればうまくいくと思ったんだけど…何がダメだったんだろう?」


 う~ん…と首を傾げる。


「な!?む、無心で魔法を使ったのですか!?」

「え?ダメだった?」

「駄目です!!無心と言うことは何も考えず、要するに息をするのと同じ様に、と言うことじゃないですか!!」


 目を剥いてお説教モードになったファムに、大人気なく私も言い返した。


「え~。でも体に力が入りすぎると駄目ってよく言うじゃない」

「だからと言って無心でなんて危険にも程があります!!そもそも誰がそんな事を言ったんですか!!」

「ぶぅ~」

「拗ねても駄目ですからね! 全く…結界が無ければこの辺りは吹き飛んでいましたよ」


 爆煙が晴れた後は大爆発が起こった形跡は何一つ無い。

 ここは魔法の練習のために何代か前の精霊王が作った演習場だ。過去の精霊王もわたしのようにここで魔法の訓練を行っていたそうで、かなり強力な結界が張られているからどれだけ暴れてもびくともしない。

 ただ振動だけは許容を越えると外に響いてしまうらしく、わたしは駆け付けたファムに叱られるのを何度も繰り返していた。


「ん~…魔力を少しずつ出して調節するのってすごく難しいんだよね。はぁ…魔力の蛇口がわたしの中にあれば良いのに──」


 ─そうか!蛇口だ!


 そこでわたしは閃いた。

 わたしはずっと魔力を【出す】方に集中していた。だから調節が難しかったんだと思い至った。それなら逆に【塞】の方に集中するのはどうだろうか?流れ出る魔力を調節する方の、要はバルブだ。


「なんか今度はうまく行きそうな気がする!」


 わたしは自分の中に捻って回すタイプのバルブをイメージして流れる魔力を水に例えて手のひらに集中させる。


「おぉぉ!何かいい感じ!」


 今までかなり慎重に魔力を操る方に集中してたけど、逆に押さえる方に集中したら断然やり易くなった。

 わたしは数メートール先の岩に砕ける位の威力に調節した魔法を放つ。バコン!と岩は見事に砕けた。


「やったー!」

「やりましたね!さすがですティア様!」


 大喜びするわたしにファムも笑顔で喜んでいる。

 魔力の調節ができるなら他の魔法も断然扱いやすくなるもんね。

 この調子でどんどん魔法を覚えていこう!とわたしは意気込んだ。



 それからまた、数日間は魔法の特訓に勤しんだ。

 お陰でわたしの魔力のコントロールは当初に比べるとかなり上達した。ただ魔法は感情の起伏にも影響を受けるらしいので、焦ったりすると上手く使えないときもある。頑張らないと。


 そんなある日、わたしは助けを呼ぶ声を聞いた


 聞いた、と言うより頭のなかに誰かの声が響いたのだ。


 わたしの住むこの精霊の森は世界中の森に繋がっている。

 入り口を作れるのはわたしだけなので絶対にこの場所に人は入れない。

 けれど森を抜けて街へと続く道も多いので、ごく稀に人間が道を外れて森に迷い込むこともあるのだ。

 森には二通りあって普通の森と魔の森がある。普通の森に人間が立ち入っても問題はないけど、魔の森は違う。

 魔の森には魔物(モンスター)や魔獣が居る。それらはとても狂暴で訓練もしていない一般の人間にはとても危険な場所なのだ。



 ─声が聞こえるのは外の森…どうしよう。ファムには外には出ないようにって言われてるけど…。


 先程から泣き声と「助けて」という思念が伝わってくる。

 こう言うことは実は初めてではない。今まで何度か聞こえたことがあるけど、正直とても口にできない様な思念が殆どだ。

 人間死の間際や死を直感したときには本性が出る。

 そんな声を聞きたくなくて、聞こえないように意識的に声が聞こえる器官に蓋をしていたのに。


 声が聞こえるのは普通の森の方で、声の主は小さな子供だった。

 なので尚更放って置けない気がしてしまう。


 ─無視してもいいけど、あとで何かあれば寝覚めが悪いしなぁ…。いつもなら迷子の声には小さな光の粒を飛ばして森の出口まで導いて終わりだけど、…ちょっとだけ様子を見てそれから考えよう。



 わたしは外の森に出る入り口を魔法で作り出すと、ちょっとだけ顔を覗かせて様子を伺った。ちなみにこれは入り口を作る魔法で転移の魔法ではない。



「あらら…」



 わたしは意外な光景に呆れながら、けれど笑いそうになるのを堪えて外の森に足を踏み出した。








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