17話【お姉さんなのです!】
テーブルの上には昨日みんなが絶賛した角煮サンド、時短ポトフ、ポテトサラダに果実のジュースが並べられた。
簡単な物ばかりだけど、みんな喜んで食べてくれた。ポトフなんて誰が作ってもそんなに味の違いがあるものじゃないと思うんだけどな。でも誉めてくれると嬉しい。
そしてみんながクリードさんにニヤニヤと角煮サンドを薦め出した。昨日自分達が食べて衝撃を受けたあの体験をクリードさんにも味わってもらおう、と言う感じだ。
怪訝な表情で仲間を見渡したあとおずおずと角煮サンドを口に食んだ。
「!!」
その瞬間クリードさんは目をカッと見開き、それを見守っていた三人はニヤ~っとほくそ笑む。
作ったのはわたしなのに三人はドヤ?ドヤァ?とニマニマしていた。
「これは…」
クリードさんは言葉もなく角煮サンドを眺めている。
「どうですか?団長。ティアの作る料理は絶品でしょう?!」
ふんす!と何故かクロエが鼻息荒く胸を張った。
あ、でもこれ『私の友達スゴいのよ!』みたいでわたしもなんか嬉しいかも。
「あぁ。旨い。こんなに旨い食べ物は初めてだ」
「でしょう?」
みんながそれぞれに誉めてくれるのが嬉しくて気恥ずかしかった。
ファムは相変わらず人間には我関せずで嬉しそうに作ったごはんをモシャモシャ食べてたけど。
食事が終わるとクリードさんには横になってもらった。
暫くすると微睡みはじめたので、わたし達はうるさくしないようにお片付けして食後のティータイムだ。
「そう言えば、ティアはどうして団長には敬称付きで敬語なの?」
それはクロエの何気無い質問だった。
「え。だってクリードさんは年上だし」
「へ?」「え?」「は?」
クロエ、ルード、ダルケンは一言だけ発してぽかんとわたしを見た。
いや別に年下だからタメ口OKじゃんて訳じゃなくて、なんか自分より年下だと可愛いなって言うか可愛がりたいなって気持ちがあって、ついつい普通に話してしまうんだけど…。
「え、と…みんなもクリードさんはみたいに話した方がいい?」
「いやいや!そこじゃなくて…。え?ティアって幾つなの?私には四、五歳に見えるんだけど…」
クロエの言葉に残りの二人がブンブンと縦に首を振った。
「んとね…外見は多分クロエが言った通りだと思うんだけど、精神の方はみんなより上かな。だからわたしはみんなよりお姉さんなんだよ」
ふふん、と顎を上げて笑ったものの、みんなからの反応が返ってこない。不思議に思ってみんなの顔を見ると困ったように逡巡していた。
─これはみんな信じてないって顔だな。
「だからわたし最初に言ったでしょ?形はこんなだけど立派な大人だよって。あれ?もしかして信じてなかった?」
ルードとダルケンは明後日の方向を向いてクロエが何とかしてくれるのを期待している様だ。
「でもまぁ精霊や妖精の類いは年齢って概念があまりないからね。見た目じゃ年齢はわからないんだよ」
「そうなのね…」
わたしもそこら辺は【世界の記憶】を見て知ってるだけで実際には他の精霊に会ったことないし、はっきり「こうだ!」とは言えないんだけど。
「見た目だけで物事を判断する。それが人間の悪癖です」
だから私は人間が好きになれないのです。とファムはプイッとそっぽを向く。
ファムの言うことは間違ってない。けれど全ての人間がそうだとは限らない、と思うんだけどなぁ。
「もう、またファムはそんな事言って…」
「でも…そうね。人間は見た目や身に付けているもので相手のステータスを知った気になる。自分より下だって思うと尊大な態度を取ったりする人間も確かにいるわ」
クロエはカップに移る自分を見てそう溢した。
でもそう言うの、わたしもわかるんだよね。一応涙花はゴリゴリの人間だったもんで。でもね…。
「ファム、人間はね、すっ…ごく!臆病な生き物なの。そりゃもういっそ哀れだと思うくらいにビビリで臆病なんだよ。未知の物には警戒心バリバリだし、自分とは違う考えの人なんて最早【敵】だよ? 道端の犬にすら後退りするんだから。それを言うなら生まれたての赤ちゃんさえ怖がる始末よ。どんだけビビリなの?ってくらいなんだから。『絶対美味しいから!』って言われても見たことのない物だと半目で半身反らしちゃうし、夜中の物音なんて風が原因でも飛び上がっちゃうんだから!」
わたしの力説に三人の表情が悟りを開いていくように失くなって行く。
「だからね、ファム。─だから人間は面白いの。 怖いのに、気持ち悪いのに、解らないのに、それでも知らないものを知ろうとする探究心。苦手を克服したり、勉強したり、そして過去を学習する。だから人間は知らない真っ暗な道でも進んで行けるの。新しい道を照らす何かをいつだって発見して、発明して、少しずつだけど決して歩みを止めない。それが人間だよ」
「……人間は、そんなに良いものですか…?」
ファムは納得がいかないのか、わたしと目を合わせない。
「人間の事が好きじゃなくても、バカにしたり蔑むのはよくないよ? 万人が良い人じゃないのはわたしもわかってる。でも少なくとも彼等は違うでしょ?」
「……」
「もし彼等が悪党なら、今頃ファムなんて焼き鳥だよ」
「ピッ!?」
一瞬だけ毛を逆立てて震えたファムがそろりとクロエ達に振り返る。
「……わかりました。以後気を付けます。 まぁ彼を信じている様なので悪い方達ではなさそうですしね…」
「ん?なんか言った?」
「いえ、なにも」
後半呟くようなファムの声はわたしには聞こえなかった。
「それにホラ、人間が居ないと美味しい食べ物が食べられないんだよ?ファムの好きな紅茶だって流石にわたしは作り方知らないんだから。ハチミツだって養蜂してくれる人が居るからこそ手に入るんだし」
「っ、そうですね!」
食いしん坊のファムはわたしの言葉に目から鱗が落ちたようにハッと顔を上げた。それが可笑しくてわたしは笑ってしまいそうになる。
そんなわたし達を三人が微笑ましげに見ていることに気が付いて、慌てて咳払いをしてしまった。勿論わざとらしいのはわかってる。
「とにかく、わたしはお姉さんなのです!」
─大事なので二回言いました!フン!
「だからと言って別に偉そうにしたりとか、そんなつもりは全然ないし。それに精霊王っていうのも肩書き?みたいなものでわたし自身が偉いって言うより、頭の上に【精霊王】っていう王冠があるみたいな感じで、わたしはそれ専用の付属品みたいな物だと自分で思ってるんだよね~」
あはは~と苦笑を溢すとファムは「そんなことありません!」と声を大にして否定する。
別に自分を卑下したつもりはないんだけど、わたしの感覚的にはそっちの方がしっくり来るのだ。
だって記憶だけとはいえ異世界転生してるのに全然人生イージーモードじゃないし、わたしの武器といえば魔法くらい。
ファンタジーな世界なのにわたしの身体は普通の幼児並だ。もし不意を突かれて物理攻撃されたらそれで終わりじゃないか。
─あれ?もしかしてわたしの人生かなりハードモードじゃない?
考えてみればこれってとても危険なんじゃないの?と嫌な汗が流れた気がした。
らぶ要素がない…笑
誤字、脱字を発見しましたらお知らせください(*^^*)
よろしくお願いします(*๓´╰╯`๓)