13話【初めてのお客様】
「いやぁ~大変お見苦しい姿をお見せしました」
柔和な笑みで苦笑するのは魔の森でわたしを大変笑わせてくれたダルケンだ。
あの後、ルードが負傷者を、女性─クロエがダルケンを支え魔法で作った出入口でわたしの住む場所までやって来た。意識のあるルードとクロエは顎が外れそうな程あんぐりと口を開き頻りに辺りを見渡していた。しかしわたしの脳裏はもう犬○家で埋め尽くされていて笑いをこらえるのに必死だ。
やっと笑いの神が帰っていった頃、ダルケンが目覚めた。彼も最初状況の把握ができずわたわたとしていたが、クロエの説明で漸く落ち着きを取り戻したのだった。
ちなみに団長さんは急遽作ったふわふわ苔ベッドの上で眠っている。さすがに知らない人をわたしのベッドで休ませるのは気が進まなかったからね。
クロエとルードにより鎧を脱がされ兜を取った顔を見てわたしはビックリした。
腹筋がチラ見えした時もちょっと思ったが、とにかく顔も含めてめちゃくちゃわたしの理想だったからだ。
太すぎず細すぎない程よく筋肉の着いた肢体。瞼は閉じられたままだが精悍な顔立ち。素敵以外の言葉が出ない。
─これはヤバイ!見てるだけで上がる!
早く目が覚めないかな、とさえ思ってしまった。
何を隠そう、涙花は筋肉フェチだった。それも拘りのある。
ただムキムキなら良い、ではない。何よりもバランスが大事!がポリシーだった。
30㎏を片手で軽々持ち上げられる男、それが涙花の筋肉ライン。
何故30㎏かと言うと田舎では米袋が一袋30㎏だから、が理由だったりする。
そんな訳で涙花の記憶のせいなのか、わたしの好みも最早出来上がっているのだった。
そして冒頭に戻る。
クロエが軽く事の顛末を話すと痴態を見せたダルケンは渇いた笑い声を漏らした。
彼等はとある任務で魔の森へ入ったそうだ。総勢三十名の部隊で入ったのに気が付く度に人数が減り、最終的に四人になったようだ。
恐らく方向を惑わす様な何かがあったのだろう。
そしてゴーストに出会ってしまった。
戦闘が始まると真っ先に狙われたのが魔術師のダルケンで、それに焦って前に出たルードを団長さんが庇って大怪我をしたようだ。
「それにしても団長殿がご無事で本当に良かったです。あの方は我が国に無くてはならないお方ですから」
ダルケンは心底安心したように少し離れた場所で眠る団長さんを見つめた。
その横でクロエが真顔で「治癒師も努める貴方が真っ先にやられたせいで私は大変苦労をしました死ぬかと思いましたどうしてくれるんですか」と息継ぎなしで言い放つ。その言葉にダルケンは「すみません」としょんもりと肩を落とした。
「ところで精霊王はどちらに…?」
とクロエとルードが辺りを見回す。
そう言えばわたしはまだ自分が精霊王であることを明かしていなかった。
「精霊王はわたしだけど」
自分を指差して言うと三人は「え」と一言漏らす。見事にハモった。
三人の顔には「こんな子供が?」と書いてある。失礼な。
「形はこんなだけど、わたしは立派な大人ですからね!」
─中身は!
「それに、貴女でしょ?わたしを呼んだのは。だったらわたし以外が呼び掛けに答えるわけないじゃない」
ふんす!と腰に手を当て胸を張って言う。外見が幼女なので三人にはさぞかし滑稽に見えたに違いない。けど嘘は吐いてないのだから良いじゃないか。
三人はポカンし、我に返ると一斉にわたしの前に跪いた。
「し、失礼致しました!!」
三人仲良くハモったあと、ダルケンが顔を上げわたしをまじまじと見て首をかしげた。
「…?あの、私は精霊王は成人男性のお姿だと聞かされていたのですが…?」
「なに?そうなのか?私は聞いていないぞ」
ダルケンの言葉にルードは顔をあげて詰め寄る。
「あ、はい…一応機密事項でして…」
それはどこ情報なんだと思っていると、肩にいるファムが「彼等が言っているのは先代様の事でしょう」とこっそり教えてくれた。
前精霊王はもう居らず、新しい精霊王が自分であることを伝えると彼等は「そうですか…」と力なく頷いた。先代さんに用があったのに代替わりしていてがっかりさせてしまって何だか気の毒な気がする。
わたしのせいじゃないけど。
「実は我が国の先代王マグナス様は精霊王と旧知の仲だと聞き及んでいまして…」
ダルケンが言うには前王マグナスは青年時代お忍びで出掛けた先で先代さんに出会ったらしい。
出会った当初二人の年頃は同じだったのに、五年、十年と過ぎても姿の変わらない先代さんにマグナスは聞いたそうだ。「お前は人間なのか」と。
すると先代さんは「ついに聞いてきたか。いつ聞かれるのか僕は待ってたんだよ」と自分が精霊王であることを明かした。
その頃には二人は既に親友で、それからも友人として長く付き合ったのだそうだ。
しかし30年程前を境に先代さんとぱったりと連絡が取れなくなってしまったのだとか。以来マグナスはとても心配しているらしい。
そしてこの事はごく一部の限られた者にしか知らされない話だとダルケンは言う。
「そしてここからが問題でして…」
そこまで話すとダルケンはルードとマリアと目を合わせ小さく頷き合った。
そこからは皆が知っている話のようだ。
「マグナス様が…とある国の者に呪いをかけられてしまったのです。─正しくは元王であるフェリクス様にかかる筈だったものを、マグナス様が代わりに受けてしまい今は床に臥せっておられます」
とある国から送られてきた書簡に特定の者が見ると発動する呪いがかけられていたらしく、暇潰しに執務を手伝いにきたマグナスが気付かずに開いてしまったらしい。
それも発動後は痕跡も残らないような高度な呪いのようで、手紙の送り主を追及することもできず困っているのだとか。
─呪いって事は【呪術】だよね?なんでそんなハイリスクな術を…。
この世界での呪術はとても危険性が高い術だ。
それは代価が必要だからで、相手を呪うならばそれ相応の物を差し出さなくてはいけない。相手の腕を使い物にならなくしたいのならば、代価として自分の腕も差し出さなくてはならない。目には目を、足には足を、命なら命を─。
要は、人を呪わば穴二つ、と言う事なのだ。
だが自らを代価として差し出さなくても済む方法もある。
それは【生贄】を使う方法。
術との間に生贄を置き、それを通して術を行使する。そして生贄から代価が支払われた瞬間に術を止める。そうしなければ呪いが支払う代価を求め更に迫り上がってくるからだ。
しかし発動した呪術を途中で止めるのはかなりの手練れで無くては難しい。
その上呪いをかける相手を選定し術者の痕跡を消す事が出来るのだから、とても面倒そうな相手であることが解る。
「それで、マグナス様は【世界の記憶】を持つ精霊王ならば呪いを解く方法を何かご存知ではないか…と」
どうして私が【世界の記憶】を持つことを知っているのだろうか?と不思議に思ったが、先代さんと仲が良かったマグナスなら知っていても可笑しくはないかな。
「なるほど。─でも、何でその呪いの事と貴方達が魔の森に入ったのかが、わたしの中では結び付かないんだけど…」
わたしの言葉に三人はキョトンとしている。
ダルケンの言い分はわかったけど、何で皆して魔の森に入ったのか本当にわからない。
「─人間達の間では『魔の森を抜けた先に精霊王が居られる聖なる森がある』と言う伝承があるのです。恐らくそれを信じてこの者達は魔の森に入ったのかと」
小首を傾げるわたしにファムがそう言った。
ブクマありがとうございます(*´ω`*)
読んでくださる方が居ると思うと嬉しいです。
拙い文章ですが頑張ります(๑و•̀ω•́)و
誤字、脱字を発見しましたらお知らせ下さい(*^^*)