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12話【訪問者】

 

 ふぅ、と息を吐くとわたしは背後を振り返った。


 兜のせいで表情までは解らなかったが、意識のある二人は口を半開きにしたまま茫然とわたしを見ている。

 けど治癒魔法を使っている彼女はそれでも治癒の手を休めてはいなかった。自分の身も危険だったと言うのに…。


 わたしは無言で彼女の元へと歩み寄る。


「お、おい!」


 素通りされた剣の人が声をかけてきたけど、それに構っている猶予がなかった。

 それは治癒されている人物の命の灯火が消えかかっているから。

 怪我が酷く彼女の治癒魔法では現状の維持が精々で、傷を癒すまでに至っていない。血の流れは止められてもそこにある命までは留めておけないのだ。


「…、…っ…」


 治癒魔法を使う女性の傍らに膝を着くと、怪我を負っている人物の口元が何かを呟いているのが見えた。残念ながら読唇術なんて出来ないのでわからない。


「よく頑張ったね。─後はわたしに任せて」


 茫然としたままの彼女の横でわたしは負傷者の体にそっと片手を置いた。

 手のひらに魔力を集中させると覆うように淡い光と共に魔方陣が浮かび上がる。そして鱗粉のようなキラキラした光の粒か降り注ぐと息も絶え絶えだった負傷者の呼吸が落ち着き腹部の傷もふさがった。砕けた甲冑の中に中々いい感じの腹筋が見える。

 規則的に上下する胸を確認すると魔方陣はぱちんと弾けて消えてしまった。


 未だその光景を茫然と眺めたままだった二人にわたしは向き直る。


「怪我は治ったけど、失った血までは元に戻せないから暫くは安静にね」


 わたしの言葉にハッとしたかのように女性は兜を取った。

 艶やかな栗毛が滑るように溢れ出す。わたしを見つめる瞳は綺麗なライトグリーンだ。意思の強そうな目元。形の良い鼻梁に唇。彼女はとんでもない美人さんだった。

 思わずうっとり眺めてしまうような美貌だ。


「助かった、ありがとう─」


 彼女は土下座の勢いで頭を下げる。地に着いた拳を固く握りしめそして小さく「本当にありがとう」と絞り出すよう様に言った。


「いいよ、気にしなくても」


 顔をあげて?と言うと彼女は今にも泣きそうな顔で頭をあげる。


「いや…。あのままでは私達は死んでいた。─団長も…もう駄目だと…」


 そう言って彼女は目を伏せた。


「私からも礼を言わせてほしい」


 剣の人も傍らに膝を折り頭を下げた。声からしてまだ大人ではない気がする。

 こんな子供に頭を下げるのは屈辱だろうと思うけど、彼等はとても真摯で驚いた。


「ルード、兜を取りなさい。命の恩人に顔を隠したままでは失礼ですよ」

「─!失礼しました」


 女性に促され剣の人も兜をとる。中から現れたのは明るい金髪の美青年…いや、少年だった。エメラルドグリーンの瞳がまるで宝石のように見える。

  なるほど、この子はルードと言うのか。


「………小さいな」


 ─ん?今なんつった?


 目が合った瞬間ルードはボソリと呟いた。勿論わたしは聞き逃してなどいない。この2.5次元顔面野郎め。


「─貴殿方、イデア王国の者達ですね」


 ルードの失礼な呟きにちょっとだけムッとしていると、一言も口を開かなかったファムがわたしの肩の上で初めて言葉を発した。


「!と、鳥が…!?」

「喋る鳥…もしや貴方様は精霊獣なのですか?」


 ルードの最もらしい反応を新鮮に感じながら、わたしは心の中で「精霊獣?」と首をかしげていた。精霊獣が何なのかよくわからなかったので【世界の記憶】を後で覗いてみよう。


「まぁその様なものです。─それで、何故人間が…イデアの者が魔の森になど立ち入ったのです。大部隊ならばともかくその様な少人数で…。貴殿方が死ぬのは勝手ですが、魔の森で死なれては後々面倒なのです」


 わたしと話すときとは声のトーンが違うのでファムさんがちょっと怖い。

 確かにファムの言うことは間違っていない。魔の森で人間が死んでしまうとほぼ確実に亡者(アンデッド)になってしまうからだ。そして森に迷いこんだ者を襲い仲間を増やしていく習性がある。幸い亡者になった者は魔の森からは出ないので、お暇をしている精霊さんにファムが退治をお願いしていたりするのだけど。わたしは未だに他の精霊さんに会ったことはないけどね。


「お早く魔の森を発たれますよう。これ以上精霊王を煩わせないでいただきたい」


 その言葉で二人は俯かせていた顔をバッとあげた。


「精霊王!!我等は精霊王にお目通りを願いにきたのです!!」

「お願いします!どうか精霊王にお取り次ぎを!!」


 鬼気迫る勢いで身を乗り出すのでわたしは驚いて体を反らした。

 女性の方はわたしの手を取り懇願するように頭を下げる。


 ─と言うか、わたしの事は精霊王じゃないって思ってるんだね…。まぁ名乗ってないし、当たり前か。


 どうすれば良いのか解らなくて、わたしはファムの方に視線を移した。


「えと…どうしよっか?」


 目が合うとファムは静かにまぶたを下ろして小さく頭を垂れた。

 これはアレだ…「貴女のお好きにどうぞ」ってやつだ。


 ─え~っ、ファムってば丸投げなの?まぁ大概の決定権はわたしにあるからって事だけど…。もう。


「はぁ……それで?精霊王に会ったとして、何を伝えるつもりなの?」


「そ、それは…」


 わたしの問いに二人は小さく逡巡する。


「理由は直接精霊王にお話しさせていただきたい。秘匿情報なので…」


 苦渋に顔を染め女性は俯いた。かなり深刻な内容なのか、無理に聞くのは忍びないな、と思う。だからわたしは甘いんだとファムに言われそうだなぁ。


「…わかった。けど、お話だけだって約束して。例え何かお願い事があっても、決めるのは貴方達じゃない事を忘れないで」


 仕方なしにわたしは彼等の話を聞くことにした。でも釘を指すことは忘れない。

 涙花の記憶でもそうだけど、大抵の人間は「話を聞いてほしい」=それとなく「お願い聞いて」なのだ。そしてお断りするとがっかりした素振りをしながらも機嫌が悪くなる。

 だからわたしは「話を聞くだけ」に留めた。安請け合いなんて出来ないからね。


「構わない!本当にありがとう!」


 二人はこれ以上ないほどに頭を下げた。


「取り敢えず場所を移動しようか。いつまた魔物が襲ってくるかわからないし」


 私が立ち上がるとルードは負傷した人の脇に体を潜り込ませ支えるように膝立ちになった。重そうなのにわりと平気そうなので、やっぱり男の子だなぁと感心する。


 ─ん?あれ?確かもう一人いたような…?


 私が首をかしげると女性が背後に向かって駆けていく。


「生きてますか?ダルケン」


 女性が声をかけた先には最初の魔法障壁の際、流れ弾の風圧で吹っ飛んだらしい人が木の根元で犬○家ポーズで伸びていた。



誤字、脱字を発見しましたらお知らせ下さいませ(*´ω`*)


だんだん暖かくなってきたけど、カッフンが恐ろしいですね((( ;゜Д゜)))カユカユカユカユ…

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