11話【魔の森】
「じゃーーん!」
わたしは完成した布草履を履いてファムにお披露目した。意味のないモデルポーズ付きで。
「あの布の紐が履き物になるとは!すごいですティア様!」
「えへへ~」
なんだろう。ファムはわたしがなにか作る度にめちゃくちゃ誉めちぎってくれるんだよね。なんか嬉しいような恥ずかしいような。
「とはいえ、これは簡単なものだから実用性はないんだよね。あくまで街で靴を買うまでの繋ぎだから」
実はこの簡易布草履、ほどいて布紐として使えるように考えてあるので無駄にはならない。
今日は家の中の中で履く方の布草履も完成した。
なのでこの後は再びワンピ作りである。
体が大きくなっても着れるように肩と背中に何本かタックを入れるつもりだ。
袖はパフスリーブで襟は丸襟。腰に共布で作ったリボンを巻けば簡易ワンピの完成。
─まぁそこまでの道のりは遠いけど…。
時間は腐るほどあるのでわたしは今日もせっせと内職をすることにする。
ファムがお裁縫箱を持って来てくれて、わたしは片してあった布をテーブルの上に置いた。
椅子に腰掛けて「さあ、やるぞ」と縫い針を持った瞬間─。
『タスケテ!!』
キーン!と耳鳴りと同時に誰かの声が聞こえた。
若い女の人の声だ。
「───」
ファムも森に異変を感じたのか、窓から森の方を見ている。
─しまった…。一昨日のあれで意識的に聞こえる声に耳栓するの忘れてた…。それもまずい事に今回は魔の森から声が聞こえる。
聞こちゃった助けを呼ぶ声を無視するのはなぁ…。しかも魔の森…。
「─魔の森で化物が暴れているようですね」
ファムはどうされますか?とは言わないが窺うように私を振り返った。
魔の森はそれなりの経験と力がなくては立ち入ることなどできない。それをわかっていながら自身の力試しに入ってくる人間が居るのだ。その殆どが力に驕り人格に難のある者が多い。
だからファムはわたしがどういう答えを出すか窺っている。
ファムにとって人間は優先するべき物では無いと、一緒に居るようになってわかった。彼にとって優先すべき事は精霊王だけだ、と。
なので例えわたしが助けを求める声を無視し見捨てたとしても、ファムはなにも感じない。
わたしは元々普通の人間だったからそれがなんだか寂しかった。
わたし以外の物を全て慈しめとは言わないけど、ちょっとだけで良いので人間に優しくして欲しい。
とは言えわたしも聖人君子じゃないので、悪人は助けたりしない。どちらかと言えば悪人が酷い目に遭っても自業自得だと溜飲が下がる。その辺、涙花と同じで割りとドライなのだ。
「──一応、様子を見に行ってみようか?」
それで「こいつは見捨てても心が痛まない」と思えば帰ってくれば良いだけの話だ。
「ティア様のお心のままに─」
ファムはふわりと私の肩へと移動した。椅子から降り、わたしはその場で森への出入り口を開く。水溜まりを覗くように、ほんのりと向こうの景色が見えた。普通の森と違って薄暗く見ているだけで陰鬱とした気分になる雰囲気だ。
わたしはいつものように顔だけを出して辺りを窺う。
少し離れた場所でガキン!と金属のぶつかる音が聞こえた。そして数人の叫ぶような声が聞こえる。
「──に─してる!─早く!!」
「──です!──がひど──もう無理──!!」
必死に声を張り上げているけど激しい轟音と剣戟にその声がかき消されてしまう。その中で一際必死に叫ぶひとりの女性の声がわたしに聞こえた。
『──けて!このままじゃ皆がー皆が死んでしまう!お願いです!精霊王!!!!』
わたしの頭のなかに響く声。
彼女はわたしに自身に助けを求めていた。
わたしは彼等の背後にこっそり忍び寄り様子を窺う。
人間は四人。その中の一人は血味泥で腹部から大量に出血している。その人を庇うように覆い被さり必死に治癒魔法を使っている人。そして前線で剣を振るう人が一人。気絶しているのか、地に伏したままの人がひとり。だった。
気絶している人以外は全員甲冑を身に付けていて、鼻先まで隠れる兜で顔は見えない。
そして彼等が対峙していたのは幻影種─日本で言う幽霊だ。見た目は黒い煙の中に髑髏が浮かんでいる感じである。
ゴーストは実体がない。なので物理攻撃が殆ど効かない。ゴーストに唯一対抗出来るのは魔法、それも【聖】の属性ただひとつ。
気絶している人がローブっぽい物を纏っているので多分魔術師かなにか何だろうけど、真っ先にやられたっぽい。
しかも彼等も運が悪いことにあれはゴーストの中でも変異種だ。下手すればゴーストの上位種、ヘル・ゴーストよりも厄介かもしれない。たった四人で相手出来るほど生易しい相手ではない。
「クソッ!」
前線の一人はゴーストが伸ばす瘴気の蔓を仲間に近寄らせないように必死に剣を振っている。
剣自体に【聖】の魔法が付与されているのか切り裂くことはできても消滅させるほどの威力はなかった。
「ギ…ギギギギギ…キゲゲゲゲ!!!」
笑い声なのか雄叫びなのか解らないようで声でゴーストが叫んだあと、いい加減焦れたのか勝負を付けにきた。
膨大な魔力がゴーストに集中してゆく。
─あ、これマズイやつだ。
「──ッ!皆!魔法障壁を!!」
剣を振っていた人がそれに気付き声をあげる。
「無理です!!今治癒魔法をやめてしまえば…!」
涙ながらに叫ぶのは女性の声。
わたしに助けを求めた声の主だった。
治癒魔法をやめて魔法障壁を張らなければ彼女は死ぬだろう。あ、あと気絶している人も。
けど彼女は自分よりも怪我をしている人を優先した。
結局魔法障壁を張らなければどちらも吹っ飛ばされるのだけど、と思ったけど、わたしには彼女がとても眩しく見えたのだった。
剣を持った人は女性のところまで走り、彼女の前で構える。
─仕方ないな。
「グゲゲゲゲゲ!!」
高笑いしたゴーストは収束させた魔力をそのまま打ち出してきた。
あと少しで到達する、と言う寸でわたしは彼等の前に出た。視認できるなら10メートル位の短距離は瞬間移動が出来る。
ゴーストから放たれた魔法と彼等の前に出て魔法障壁を張ったのはほぼ同時だった。
「──!?」
振り返らなくても後ろで声にならない程驚く人の気配を感じた。向こうから放たれた魔法はわたしの魔法障壁に阻まれ四方に分散されていく。
攻撃が止むと爆煙の立ち込める魔法障壁の向こうで気持ちの悪い笑い声が響いた。勝利の高笑いだろうか。
─残念。相手の死亡を確認せずに勝利の雄叫びとか、ほんとフラグだから。
「な!?何をしてるんだ君は!?こんな子供が何故──」
剣を持つ男の場違いな言葉に思わず舌打ちしたくなった。
それは置いといて取り敢えずゴーストの始末をしなくては。
わたしは障壁の向こうに攻撃用の新しい魔法を用意して、爆煙が晴れうっすらと姿が見え始めたゴーストをロックオンした。
─おいたが過ぎたね。お仕置きDEATH!!
ゴーストだけに!としょうもないダジャレを心で叫びわたしは【聖】属性の魔法をぶっ放した。魔力の調整は日々の練習でバッチリだから大丈夫!と自分に言い聞かせながら。
「───!!!」
勝利を確信していたゴーストはまさか反撃されるとは思ってもいなかったのか、叫び声さえ上げずに聖なる光と共にその場で霧散して消えたのだった。
読んでくださる方が居るのでとても嬉しいです(〃ω〃)
ダラダラ小説ですが本当にありがとうございます(*´ω`*)
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