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王女殿下の死神  作者: 三笠 陣@第5回一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞


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16 魔術師の招待状

()けられているね」


 夕刻、陸軍大学校からの帰路、リュシアンは運河に面した通りを歩きながらそう言った。


「……私は、気付かなかったが?」


 隣を歩くエルフリードは、一瞬だけ周囲の気配を気にした後、そう応じる。


「ああ、エルが気付かないのも当然だよ。だって、尾けているのは人間じゃなくて、鳥だもの」


「鳥? 動物を使役する術か?」


「そう」リュシアンは肯定する。「鳥の視線を通じて、俺たちを監視しているらしい」


「どこの手の者だと思う?」


「アリシア・ハーヴェイか、ヴェナリア情報調査局」


「私の兄の手の者という可能性は?」


 エルフリードは皮肉に唇を吊り上げた。何せ今、自分はリュシアンと同じ屋敷に寝泊まりしている。第一王子である兄が、王位継承権を持つ妹の醜聞を探ろうとしている可能性はある。


「あるだろうけど、いまいち効果的じゃないでしょ」


「まあ、私とお前は婚約者でもあるからな。私が他の男と密会しているならば別だが」


「結局、エルの兄上が俺たちを監視する利点は少ない。だったら、共和主義者に俺たちの情報を流して爆弾テロなんかの標的にしてしまった方がいい。だって陸大への通学中は、俺しか護衛がいないんだから」


「さらっと私を抹殺する方法を言うな」


 エルフリードは半眼で自分より少し高い位置にあるリュシアンを睨み、軽く肘鉄を喰らわせた。


「でも、事実だよ」


 悪びれず、リュシアンは言う。彼のこういう思考の冷徹さを見せつけられるとき、エルフリードは何とも言えない苦い気分になる。かつては、そんなことすら考えられなかった子供だったというのに。

 しかし、感傷に浸る贅沢を自分は持ち合わせていない。未だなお、リュシアンを利用し続けている自分には。

 そう思うと、自嘲の笑みが浮かびそうになる。

 だって、リュシアン・エスタークスという少年は、出逢った時から自分のモノなのだ。それを雁字搦めに縛り上げて、解くつもりはまったくない。感傷に浸る自由が許される機会は、永遠に訪れないだろう。

 あの女魔術師が言っていることは、だから事実でもあるのだ。

 きっと自分は、相当な悪女なのだろう。女であることを厭いながら、女であることの醜さを体現しているような存在が自分なのだ。

 なんとも度し難い、矛盾に満ちた自分の心。

 エルフリードは内心だけで皮肉の笑みを漏らした。


「君にとっては不愉快かも知れないけど、君を守るのは俺の役割だから。悪い想定は常にしておかないと」


「あの女魔術師の言うとおり、大した騎士っぷりだな、リュシアン」


「まあ、エルの場合、ただ守られているだけのお姫様ってわけじゃないだろうけど」


「当たり前だ」


 エルフリードとリュシアンは、隣り合って歩く。それが、お互いの立ち位置だと示すように。


「私がか弱い姫ならば、とっと花嫁修業でもして、お前の家に降嫁しているぞ」


 そしてきっと、リュシアンとも今のような関係を築けなかっただろうと思う。

 ある意味で、自分とリュシアンの関係は奇跡が重なった末のものなのだ。所詮、人と人とが紡ぐ(えにし)など偶然の産物に過ぎない。

 生まれた家、育った環境、それらが少しでも違っていたら、自分たちの出逢いは生まれなかっただろう。


「それで、どうするのだ?」


 上を指しながら、エルフリードが問う。


「始末してもいいけど……」と、言ったところでリュシアンが顔を上げた。「ああ、なるほど」


 少年の目に、冷たい光が宿る。

 軽い羽音と共に、一羽の小鳥が降りてきた。その小鳥は小さく羽ばたきをすると、運河の欄干へととまる。

 リュシアンが足を止め、冷たい視線のまま小鳥を見遣る。小鳥の首に、折りたたまれた紙が巻き付けてあった。リュシアンがそれを取り外すと、小鳥はどこへともなく飛び去っていった。


「……アリシア・ハーヴェイからの招待状」


 ひらりと、紙をエルフリードに示した。


「なるほど、そういうことか」エルフリードは即座に理解する。「あの女の残した呪符を使ったのだな?」


「そういうこと」


 アリシア・ハーヴェイと直接対峙したあの夜、彼女はエルフリードに呪詛を掛けた後、連絡用呪符を残して逃走している。あの魔女が本気でリュシアンを仲間に引き入れたいかは別として、エルフリードの呪詛を巡って交渉を持ちかけてくると踏んだのだろう。


「あの魔女とヴェナリア情報調査局、それらを片付けることにしたわけだな?」


 ヴェナリア執政府情報調査局が、リュシアンの魔力情報を探っていることは迎賓館での件や盗聴から判っている。だからこそ、リュシアンは神経質ともいえるほど警戒しているのだ。


「ヴェナリアの方は准将から手出し無用って言われているけど、俺はあの人の部下じゃないから」


「うむ。お前としては、魔術師としての手の内がヴェナリアの鼠どもに露見するのは避けたいのだろう?」


 魔術師というのは、ある種の技術者である。故に、自らの編み出した技術が他に流出することを嫌う。これは、魔術師としては異端な部類に入るリュシアンでも同じことだった。あるいは、諜報分野に関わっているからこそ、自らの機密保持には敏感であるのかもしれない。

 エルフリードがリュシアンの魔眼を知っていることは、むしろ例外中の例外といえるのだ。信頼されているというよりも、エルフリードとリュシアンで一心同体だと認識しているからだろう。ある意味で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ところで、ヴェナリア情報調査局といえば、お前の伯父への伝言はどうなった?」


「ちゃんと、伯父さんはベルミラーノ大使に伝えてくれたよ」


 エルフリードが昨夜、リュシアンに伝えた「嫌がらせ」。その一つが、ヴェナリア大使館、ひいては本省たる外務省に、情報調査局がロンダリア王都で行動していることを知らせることだった。

 外務省にとって、自らの管轄下にない自国の組織が他国で活動しているというのは、不愉快なものなのである。

 エルフリードは、そうした官僚組織の縄張り争いの種をヴェナリア政府内に蒔こうとしたのであった。

 そして、それによってヴェナリア外務省に情報調査局の活動を掣肘してもらうことを期待しているのである。


「こちらの謀略であるとベルミラーノ大使に思われてしまうという不利益はあるが、まあ、やむを得んだろう。要は、連中の間に不和と疑心暗鬼が生じればそれでよい」


 例え自国の外務省であっても、ヴェナリア執政府情報調査局はその活動を公にすることはないだろう。穏健派のベルミラーノ大使ならば、ロンダリアよりも本国の諜報機関へと向かう疑いの方が強くなるはずだ。


「そして鼠どもにはこちらが奴らの活動を把握していることを仄めかすだけで牽制になる」


 そこで、エルフリードはにいと嗤った。


「ふん。ファーガソンの狐めも、目論見が外れて困っているだろう」


「それはそれでいいけどさ」


 リュシアンは、そうしたエルフリードの策を否定しない。否定しないが、一つだけ忘れられては困ることがある。

 エルフリードはあくまで、王室機密情報局に対する個人的嫌悪から策を立てた。

 それは、ヴェナリア情報調査局に対して優位に立つために情報を独占しようとしたファーガソンと変わりがない。

 どちらも、自らの、あるいは属する組織の利益しか考えていないのだ。

 これでは、単なるエルフリードとファーガソンの派閥抗争でしかない。

 そうしたリュシアンの内心を、彼からの視線を受けて気付いたのだろう。

 エルフリードは軽く咳払いをした。


「んんっ。それで、お前はこの後、あの女の拠点に乗り込むのか?」


 今回の問題の根本は、やはり共和主義者による国会議事堂爆破計画の阻止にある。

 あまりファーガソンとの対立ばかりに気を取られるようでは、リュシアンはエルフリードに苦言を呈さなくてはならなかった。そうなる前に自分で気付いてくれて、白髪の少年は安心した。


「今日の内奏で、内務省と王室機密情報局が協力して対処することになった。陛下からは、俺をアリシア・ハーヴェイの捜査に充てるよう言われたらしい」


「ふん、つまりはあの性悪爺がお前を便利使いする口実を得たということだろう?」


 忌々しげに、エルフリードは眉間に皺を寄せる。


「何の許しもなく、俺たちが勝手に動いたら動いたで問題が生じるから、これはこれで構わないと思うよ。これで陛下からも、ある種の自由行動権を与えられたようなものだし。後々、勝手に動いたことを叱責されるよりはマシでしょ?」


「それはそうであるが、いまいち気に喰わんのだ。まあ、感情論であることは自覚している。駄々をこねてお前を困らせるつもりはない」


 エルフリードは軽く手を振った。

 最近、リュシアンは自分が講義を受けている間、あれこれ動いていることは知っていた。ファーガソンと頻繁に連絡を取り合っているということは、エルフリードとしては不愉快であるが、これも仕事と割り切るしかないと我慢している。

 しかし、リュシアンはエルフリードのモノであり、ファーガソンのモノではない。

 その醜悪なまでの独占欲を、彼女は手放すつもりはなかった。


「それで?」


「ファーガソンはアリシア・ハーヴェイを泳がせた上での議事堂爆破阻止を狙っているみたいだけど、俺は反対だね。だからあの女から招待状が来るように仕向けた」


「うむ。水際であの女魔術師の陰謀を阻止するのは、危険度が大きかろう。それに、あやつが議事堂だけに固執しているとも限らない、お前の判断を支持するぞ」


 リュシアンが議事堂爆破計画の情報を得ていることは、アリシア側も把握している。そのため、計画を変更した可能性もある。

 一応、クラリスもファーガソンも議事堂の爆破を阻止する方向で動いてもらっているが、相手はその裏をかいて別の標的を狙っているかもしれない。


「魔術師からの友好的でない招待は、魔術師にとって最大限の警戒を要する事柄の一つだ。だって、相手がどんな罠を張って待ち構えているか判らないから」


「だが、お前ならばそれを逆手に取れる」


 リュシアンの魔力を“視る”ことの出来る魔眼に、魔術的な罠は分が悪い。逆に言えば、リュシアンという魔術師の特性を活かせる状況とも言えた。

 問題は---。


「ヴェナリア情報調査局、あの鼠どもだな」


 “号持ち(ネームド)”魔術師であるリュシアンの情報を収集しようとしているヴェナリア執政府情報調査局。

 自身の魔術師としての特性が、彼らに露見してしまうことをリュシアンは恐れているのだ。


「だから、先にそっちを片付けようと思う」


 一片の躊躇もなく、平坦な口調でリュシアンは言う。


「エル、君はどうする?」


 その問いに、軍服姿の王女は不敵に唇を吊り上げた。リュシアンがあえて問いかけたということは、エルフリードの自由意思に任せるということだ。


「当然、お前と共に赴くつもりだ。呪詛の借りは返さんとな。それに、お前の背中を守る相棒が必要だろう?」


「本来だったら、俺が君の背中を守る側のはずなんだけど」


 少しだけ困ったように眉を寄せ、だけれどもやはりいつもの感情の希薄な素っ気ない口調のまま、リュシアンは言った。


「言ったろう? 私は守られるだけの姫になるつもりはない。お前の背中を守る役目は、私のものだ」


「君の体はまだ呪詛に犯されている。万全の状態じゃないことを忘れないで」


「ああ、お前の足手まといにはならん。というよりも、お前は私の使い道を考えているから、私を止めようとはしていないのだろう?」


 エルフリードという存在も含めて、リュシアン・エスタークスという魔術師は成立しているのだ。付き合いの長いこの少年が、自身を必要としていることを黒髪の王女は言われずとも判っている。


「ろくな役割じゃないのは、エルも判ってて俺に付いてこようとしていると考えていい?」


「ふん、愚問だな。この身は好きに使うがいい。お前は私の半身で、私はお前の半身だ。自分自身をどう使おうが、それはその者の自由よ」


 それをリュシアンに対する絶対的な信頼ととるか、絶対的な依存ととるか、それは人によるだろう。だがリュシアンは、エルフリードの言葉を信頼の証と捉えている。そうでなければ、自身の身を他者に預けたりはしない。


「……ありがとう、エル」


「最近、そればかりを聞いている気がするな」


 それが少しおかしいと、エルフリードは小さく笑った。


  ◇◇◇


 同時刻、クラリス・オズバーンは内相と警視庁長官の命で連合王国国会議事堂の貴衆両院の守衛長と面会していた。

 守衛は、国会議事堂の警備を行う立法府の警備員の総称である。

 守衛長は貴族院、衆民院それぞれに一名ずつ任命されており、いずれも判任官であった。これは、国王の任命大権を委任された各官庁が任命する官吏のことであり、勅任官であるクラリスよりは地位が低い。


「警視庁による反政府主義者の取り締まり、誠に感謝しております」


 貴族院守衛長が、儀礼的な挨拶をする。


「オズバーン勅任魔導官殿のご活躍も、聞き及んでおよりますよ」


「それは光栄なことです」


 対面に座ったクラリスも、社交辞令として笑みで応じる。


「それで、警視庁の捜査官がどのようなご用件で?」


 今度は衆民院の守衛長が言う。


「我々の方で、明日の南ブルグンディア宰相の議会演説に合わせて、共和主義者の残党が議事堂を爆破するという情報を入手しました」


「……」


「……」


 二人の守衛長はお互いの顔を見合わせた。


「その情報の確度はどれほどで?」代表して、貴族院守衛長が訊く。「生憎と、反政府主義者による議事堂爆破予告はこれまでにもありました。しかし、そのほとんどが単なる脅迫、連中の示威行為といったものでした。実際に議事堂の爆破に成功した主義者はいません」


「ええ、警視庁としても、そうした予告の真偽について捜査をした記憶があります」


「今回も、そうした類いのものではありませんか?」と、衆民院守衛長。「何せ、警察と憲兵隊のご活躍により、王都の反政府組織は一網打尽にされたとか?」


「しかし、共和主義にかぶれた魔術師が一人、行方が判らなくなっています」


 その一言で、二人の守衛長は苦い表情になる。魔術師が議事堂爆破を狙っていることが、守衛にとってどれほどの脅威か理解しているからだ。そして、何故やってきたのが勅任魔導官のクラリス・オズバーンであったのかも理解した。

 守衛には、誰一人として魔術師はいない。

 これは、魔導技術の独占したい王室魔導院が原因だった。彼らは議事堂の魔術的警備体制の構築には協力したが、人員は一切割かなかったのだ。

 とはいえ、立法府である議事堂が行政府の人間である警察に議事堂の警備を任せることは出来ない。それは、三権分立という体制の建前を崩すことになるからだ。

 もし警察が議事堂の警備に乗り出したならば、議会は紛糾し、最悪内閣の崩壊という事態まで引き起こすかもしれない。

 勅任魔導官であるものの警察の所属であるクラリスは、そうした意味では守衛たちに警告以上の行動は出来ない。

 もしアリシア・ハーヴェイがそこまで計算して議事堂の爆破を計画しているのであれば、中々に厄介なテロリストであった。


「議事堂の外に関しては、我々警察にお任せを」クラリスは言う。「しかし、議事堂内部に関しては、そちらも警戒は怠りませんように。昼夜問わず、警戒を厳にしていただきたい。また、出入りする人間の持ち物、搬入される物資の検査は厳重に行っていただきたい」


「判りました」


「それと、魔術師の観点から二点ほど、議事堂警備について申し上げたいことがあります」


「何でしょうか?」


「それは---」






「と、言うわけで議事堂の守衛長たちには警告を発しておいた。議事堂周辺の警備には、魔導犯罪捜査課と特別保安部も動員されることになっている。検問に関しても、当初の計画よりも強化することになった」


『うん、ありがとう。クラリス』


 魔導通信越しに、リュシアンが礼を言う。


「とはいえ、議事堂そのものの警備関係で警視庁が出来るのはここまでだな。議事堂自体に結界を張ってしまいたいが、流石にそれは警察の権限を越えているし、お前の考えを聞く限りだとあまり意味もないだろう。というわけで、残りの作業は坊やに任せるよ」


『了解。こっちはいざとなったら、姫の持ってる権限を乱用するから』


「とんでもない臣下だな、お前さんは。まあ、今回ばかりはやむを得んか。姫殿下には感謝するんだな」


『いつもしているよ』


「坊やがそんなに殊勝な奴だとは初めて知ったぞ」


『俺はいつだって姫に感謝しているよ。じゃあ、お互いに最善を』


「ああ、最善を」


 そう言って、クラリスは魔導通信を切った。淡い光を発していた水晶球が、ただの水晶球に戻る。


「……まったく、弟子の惚気を聞く師匠の身にもなってもらいたいものだな」


 苦笑と共に、クラリスはそう呟いた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 魔術師に付けられる“号”というのは、大抵はその魔術師に対する畏怖や嫌悪の感情が元になったものである。

 “黒の死神”という号を持つリュシアン・エスタークスは、その意味では畏怖と言うよりも嫌悪感を抱かれている存在といえた。常に漆黒の装いで、対象の命を刈り取っていく。まさしく、死神と呼ばれるに相応しい実績の持ち主だった。

 一方で、彼の師匠にして同じく“号持ち(ネームド)”の魔術師であるクラリス・オズバーンの二つ名は何かといえば、これは、“魔弾の射手”であった。

 民間伝承の中に存在する、撃てば必ず目標に命中する悪魔の弾丸。それを用いる者という意味で、こちらはリュシアンと違って畏怖の念から付けられた二つ名である。

 これは、警察という治安維持を担う組織に所属する者と、諜報機関という一般から見て不気味さを覚える組織に協力する者の違いであるともいえた。

 ただ、子弟である以上、二人には共通点があった。

 それは、火炎魔法を得意とするという点と、武器として飛び道具を愛用しているという点であった。

 リュシアンの霊装たる〈フェイルノート〉は、師匠のクラリスの使う〈魔弾〉と同じく、決して外れることのない矢を放つ(いにしえ)の弓であった。

 現代の魔導技術では再現不能な霊装。

 リュシアンは、自らの家に伝わっているその霊装を使いこなすことが出来た。だからこそ、似た霊装を持つクラリスに弟子入りしたともいえる。

 陸軍大学校から帰宅したリュシアンは、屋敷の地下倉庫へと籠もっていた。

 厳重に対侵入者用の結界と、幻影魔術による偽装を行った、一種の魔空間じみた倉庫であった。

 しかもこの場所は、転移魔術によってエスタークス伯爵領のカントリー・ハウスの地下倉庫とも繋がっており、そちらに保管されている魔術関係の装備、備品、薬品などを即座に取り寄せることが出来る。

 そのひんやりとした地下空間に、魔力灯の明かりを付けて、リュシアンは倉庫中央に描かれた魔法陣の上に、自らの霊装を並べていた。

 見る者が見れば、それは転移魔法陣であることが判るだろう。

 その繋がる先は、リュシアンのはめている黒い指貫手袋であった。

 〈フェイルノート〉のような大型の霊装は、基本的に転移で召喚している。ただし、転移魔法も魔力を消費するため、短剣などの装備は革帯に括り付けていた。

 その薄暗い空間に、石畳の階段を踏みしめる靴音と共にエルフリードが降りてきた。ある意味、雑多といえる倉庫内をぐるりと見回す。


「リュシアン、私は何を準備すればいい?」


 魔法陣の上にしゃがみ込んで作業しているらしい少年の背に、王女は声を投げた。エルフリードの声に、リュシアンは作業する手を止めると、彼女を見上げ、言った。

 さも当然のことを口にするごとく。普段通りの、どこか素っ気なさを感じさせる口調で。


「そうだね、じゃあ服を脱いで」


「は?」


「下着も全部脱いで裸になって」


「は?」

 親任官、勅任官、奏任官、判任官、という官職の区分は、大日本帝国憲法下の官僚制度におけるものです。

 ロンダリア連合王国のモデルである十九世紀イギリスに同様な制度があったかは定かではありません。

 もし近代ヨーロッパの政治史・制度史にお詳しい方がいらっしゃいましたらば、是非ともご教授をお願いいたしたく存じます。


 毎度のお願いではございますが、拙作に対し、ご意見・ご感想を是非お寄せください。

 また、評価・ブックマーク登録等していただけると幸いです。

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