後編・遺伝子組み換え作物の"本当の"問題点
4/14追記・本編終盤にまとめがあります。お忙しい方はそちらの確認だけでも大丈夫です。
同・細かい修正を入れました。内容に変更はありません。
〜〜 登場人物紹介 〜〜
先手:チタタプ チタタプ チタタプ チタタプ
後手:チタタプ チタタプ チタタプ チタタプ
※※ 前提 その一 ※※
本稿において、
遺伝子組み換え作物(genetically modified organism、GMO)
とは、『遺伝子組換え技術を用いて遺伝的性質の改変が行われた作物(Wikipediaより)』の事を指すものとする。
また名称は、分かりやすさを優先し一般的に用いられる『遺伝子組み換え作物』を基本的とする。しかし、場合によっては『GMO』『遺伝子組み換え〜』などと複数の表記を用いる場合もある。いずれにせよ、意味は同じであるものと認識して頂いて構わない。
※※ 前提 その二 ※※
個人の趣味嗜好に関する点、個人の感情に起因する点などについては、
『お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな』
……の姿勢を筆者、読者問わず標準のものとする。
上記前提にご納得の上、お読み下さい。
「…………い、遺伝子組み替え作物(GMO)は危険だ……」
「ご覧の通り、人はそんなに物分かりの良い存在じゃないって事を覚えておこう。……と言う訳で、前回証明した通り『遺伝子組み替え作物は安全である』事を前提に、今回は話を進めて行こう」
「い……異議あり!」
「何で裁判を逆転させるようなノリで言ってるんだ君は。話は聞くけど」
「……そ、そもそも今は安全なのかも知れないが、『将来何が起こるのかは分からない』んだぞ!? 『問題が起こる可能性はゼロではない』し、もしも取り返しの付かない事態にでも発展したら、一体どう責任を取るつもりなんだ!? 安易な結論を下すべきではない!」
「『何が起こるか分からない』のに、何故『問題が起こる』と分かるんだ? 何で君は『想像してた以上に良かった!』……なんて可能性は考えないんだ?」
「い……いや! こ、ここは慎重な判断を行う必要が!」
「もしも俺が『慎重な判断』を下すとしたら、『何の科学的根拠のない"遺伝子組み替え作物は危険"論には軽々しく同意しない』……となるんだが」
「」
「大体の話、普通の人間は予言タコのパウル君みたいな未来予知能力など持ち合わせていない。あくまで手元にある情報を元に、将来の予測を行うだけだ。予測の精度を上げる事は出来ても、絶対確実に的中するとは断言出来ない。天気予報だって外れる事はある。
そして『問題が起こる可能性はゼロじゃない』なんて主張、いわゆる"悪魔の証明"や"未知論証"の類だ。それを言い始めたら『遺伝子組み換え作物を普及させなかったせいで、取り返しの付かない事態に発展する可能性だって"ゼロではない"』訳なんだが。……重要なのは『その可能性が考慮に値するか否か?』であって、それを判断するのは"具体性のある意見"だ。
だから、行うべきは『手元にある情報がどの程度信頼出来るか?』『議論の壇上に乗せられるだけの精度を持った意見か?』……などと言った判断だ。"一定水準の精度を持った情報"を元にした予測は、十分に信頼出来る。その水準を提示すらせずに、"慎重"も何もない。
それに『どう責任を取るつもりなんだ』、だって? 今現在必要とされる責任は『立証責任』だ。意見を主張した側が『なぜ、その意見が正しいと言えるのか』と言う理由を説明し、『その意見に従う事で、どのような利益が出るのか(または不利益を回避出来るのか、などなど)』を相手に提示する事が、こう言う場面に置ける適切な『責任』の取り方だ。
そう言う意味で、遺伝子組み換え作物肯定派はしっかりと"責任を果たしてい
る"。むしろ、君の方こそ"立証責任を果たしていない"。『何が』『どう悪いか
ら』『どのような問題』が起こるのかをきちんと説明するべきだ。ましてや、具体的に行われている安全対策を無視して問題が起こる前提で話を進め、その上で責任を追求なんかされたって回答のしようがない」
「」
「さらに言おう。遺伝子組み替え作物の安全性は、市場に出す前に行われる安全性審査によって保証されている。
一例を挙げれば、『実質的同等性』と言う概念に照らし合わせて――つまり、組み替える"前"と"後"の遺伝子を比較して、『どの遺伝子がどのように変化したの
か、または変化していないか』をまず調べる。その結果、『遺伝子の変化は元の作物の安全性に影響がない』と証明されれば、『従来の作物と実質的に同じ安全性』であると判断し、"合格"を出す……と言う仕組みだ。
つまり『何が起こるか分からない』どころか、何が起こっているのかを十分に把握し、その上で"安全である"と言う結論が下されているんだ。むしろ、君が安全だと思っている"通常の交配を行った作物"の方こそ、『どの遺伝子がどのように変化したのか、調べてないから分からない』んだぞ?」
「」
「もちろん、安全性の基準はそれだけじゃない。
『組み込んだ遺伝子が作り出すタンパク質はヒトに有害でないか、アレルギーを起こさないか』
『組み込んだ遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作り出す可能性はないか』
『食品中の栄養素などが大きく変わらないか』
……などなど。いくつもの安全試験を行い、安全性が確認されて初めて『害はない』と判断され、市場に出す事が許される。
そして、遺伝子組み替え作物による何らかの健康被害が発生した事例など"一切"報告されていない。前回述べた通り、いくつかの誤認情報があるだけだ。全ては紹介し切れないが、他にも"信憑性に欠けるデータ"を元にした指摘、"事実上無視出来るほど軽微な影響"を元にした指摘もある。当然、それらに妥当性などない。仮にあっても、新たな安全評価項目を追加するなどして対応を行っている。
さらには遺伝子組み替え作物の導入は、現状『リスクが少なく明確な利益が得られる』範囲でのみ用いられている。間違っても『便利だから、あれもこれもガンガン組み替えようぜ!』……なんて発想で導入などしていない。
遺伝子組み替え作物の安全性は、科学的に十分証明されている。この現状を『危険』であり『慎重さを欠く姿勢』であり『将来が分からないから悪い』状態であると定義付けるのであれば――俺にはもう森羅万象の全てが信用ならない、としか言いようがない。……そんな状況下で、一体何故『遺伝子組み替え作物は危険』だけが信用出来るんだ?」
「………………か、科学が全てじゃない……」
「それはつまり、君の『遺伝子組み替え作物は危険』と言う判断は"まるで科学的根拠がない"と言う事なのか? 逆に『遺伝子組み替え作物は危険』と言う主張が仮に"科学的"であるとすれば、何故そっちは鵜呑みにするんだ? どっちみち矛盾が生じる事になるんだが」
「」
「そもそも、俺は最初から『科学が全て』なんて考えてない。ただ、『多くの場合物事を判断するのに役立つツール、またはものさし』と考えているだけだ。この世界には他にも『倫理』『宗教』など様々なツールが存在しているし、然るべき場面においてはそれら専門家の真っ当な意見を参考にするべきだろう。
そして、この遺伝子組み換え問題こそ『科学』と言うツールの出番だ。立証にせよ反証にせよ、科学と言うツールを用いるのは妥当な選択、むしろ最適解の一つと言っても良いレベルだ。それを無視して安易に科学を否定したところで、有意ある結論が得られるとは考えられない。ましてや、都合の悪い科学的根拠が出た途端に『科学が全てではない』だなんて、どう控え目に表現しても『単なる逃げ』でしかない。捕まった途端に『お金が全てじゃない!』……とか訴え始める万引き犯みたいなもんだぞ」
「」
「……では、『遺伝子組み替え作物』の利点は何かを述べて行こう。
一つは、前々回(前編)で述べた通り品種改良を効率良く行える事。
一つは、現代農業が抱える環境問題に対する有効な解決手段である事。こちらも前回(中編)触れた通りだ。
そしてもう一つは、世界的な『食糧危機』を解決する有力な手段である事。
現在の人類は人口増加に伴う食糧不足に合わせ、『2050年までに食料生産量を70%引き上げなければならない』とされている。荒れ地を農地や牧場に変えるなど耕作面積を増やすための対策も当然行ってはいるが、それにも限界はある。何より、場合によっては熱帯雨林の伐採などの環境破壊と表裏一体でもある。必然、単位面積あたりの生産量(収率)を増やす必要がある。
参考資料の一つ、『遺伝子組み換え作物と理科教室(PDF)』によると、世界の全食料生産量の約15%が病気によって減収となっており、この減収分をなくせば数億〜十億人分の食料が供給出来るそうだ(5枚目、左段下方。省略分あり)。
遺伝子組み替え技術によって病気に強い作物を生み出せば、減収分を減らす(生産量を上げる)事が出来る。食糧問題に対する有効な解決手段となり得るだろう」
「…………い……いや……遺伝子組み換え以外の手段を用いれば……」
「当然、他の手段も必要となるだろう。"海水"を浄化し、農業用水として利用する技術の開発も進められているし、ビルを丸々一つ農作地として使う『農業タワー』と言う構想もある。
……が、それらに有用性がある事と、遺伝子組み替え作物の有用性とはまるで別問題だ。いや、むしろ併用する事でより優れた対策手段となるだろう。当たり前の話だが、『他に手段が存在』する事と『当該手段が不要』である事は結び付かな
い。『大阪までは飛行機で行けば良いから、大阪行きの新幹線は全部廃線にするべき!』と言った理屈に納得出来る人であれば、話は別かも知れないが……」
「」
「それに遺伝子組み換え技術を使えば、既存の作物に新しい栄養素を加える事だって出来る。『ゴールデンライス』なんかが良い例だ。これは遺伝子組み換え技術によって作成されたビタミンAを作るβカロテンを多く含む米で、"黄色い"のが外見上の特徴だ。これをアフリカで普及させる事が出来れば、食糧難と栄養失調の問題に対する有効な解決手段となり得るだろう。
……この普及を全力で妨害して問題解決を阻んでいるのが、遺伝子組み替え作物反対派団体なんだが」
「」
「何度も何度も繰り返している通り、『遺伝子組み替え作物が危険である科学的根拠はない(一話ぶり五回目)』。逆に安全であり、問題解決手段として有効である科学的根拠はたくさんある。
"先進国での裕福な暮らし"を行っている彼らは、ろくな根拠もない主張で"貧困による栄養失調で苦しむ人々"を助ける妨害をしている。その上で、ノーベル賞受賞科学者百名による連名での抗議にも『ゴールデンライスが流行んないのは、優れてないって証拠なんだぜ!(意訳)』……などと言っている(GIGAZINE・16年7月1日付けの記事『ノーベル賞受賞者100人以上が遺伝子組み換え食物に反対するグリーンピースを非難する書簡に署名』より)。
こんなもの、最大限の仏心を働かせた上で言わせてもらうが『最低の話』以外の感想はない。これを"問題点"であると認識しない感性など、生憎俺は持ち合わせていない」
「」
「一般人が遺伝子組み替え作物に対して不安感を覚えているのは……まあ、ある程度は仕方ない。全員が全員、遺伝子組み換え作物に対して興味を持っている訳でもなければ、正確な知識を与えられる機会もない。『危険である』と言う情報を得たとして、その真偽を調べるためには時間や労力が掛かる。だから、例え適切な認識を持っていなかったとしても、彼ら自身に罪があるとは言えないだろう。
……が、例えばブログなどで、『食の安全』を謳いながら自発的に、積極的に根拠不明の『危険性』とやらを発信する人物。程度にもよるが、彼らには相応の責任があると考える。この場合の"責任"とは『自説を支持するだけの適切な根拠の提
示』、あるいは『情報の修正、訂正、撤回』などだ。
ましてや、『まともな科学的根拠を提示する』など最低限の立証責任すら果たさず遺伝子組み換えに反対している団体など言語道断だ。
『消費者は食の安全性に対し不安感を抱いている?』
その不安感を煽っているのは、根拠不明の"遺伝子組み換え作物は危険"論じゃないか。自分達で問題を広げておいてそれを論拠に批判って、それを世間一般では『マッチポンプ』と言うんだ。"問題点"を解消するためには、『遺伝子組み換え作物が安全である』と言う適切な情報を消費者へと伝えるべきだ」
「」
「まとめだ。
一、遺伝子組み換え作物の問題点。それは、不適切な知識を元にした批判による 機会損失である。
全編の内容をあわせた総合的結論。
一、遺伝子組み換え作物(GMO)は安全かつ有用であり、無用な不安感を覚える必要はない。
二、反対派こそが問題を作っている。"食の安全"を謳うのであれば、適切な知識を元にした主張(肯定、否定に関わらず)を行うべき。
……以上だ」
「」
「……最後に、一つ提言を行おう。
もし仮に彼らと議論を行う事になったとして、彼らがまるで人の話を聞かない
――具体的には『強弁によってひたすら自説を押し付ける』『物理的音声、電子的メッセージ含め、"大声を上げて"こちらの主張をかき消そうとする』『レッテル貼りに終始する』『ひたすら論点を外して来る』などなど――種類の人物、団体であった場合、『決して議論しようとしてはならない』。
彼らは議論をするつもりなどない。彼らの目的は――当然、本人達は決して認めないだろうが――問題に対する知見を深める事でも、社会をより良くする事でもない。『自分の意見に賛同させる事そのもの』だ。彼らにとっては実のところ、事の真偽なんてどうでも良い。『不愉快な思いをしたくないから、都合の良い結論に閉じ籠もっていたい』だけなんだ。彼らにとって『遺伝子組み換え作物が安全』であると、自分が"間違っていた"事を認めなければならないから、何が何でも『危険、問題』でなければ困るんだ。社会心理学用語で言うところの『認知的不協和』だ
な。
彼らと議論をしても、有意義な結論など決して得られない。本当に議論をするべき相手は、『話を聞くだけの冷静さを持った人物や団体』だ。ネットで言うところの『荒らしは放置』と言う奴だ。本当に話をするべきは『話をする気のある人』
だ。
……論は以上だ。何か質問は?」
「…………いえ、ありません」
「まあ例によって、ここで俺達だけで納得したところで、何の意味はない。後の事は、この文章を読んだ読者それぞれに任せよう。
本文が議論の一助となってくれる事を期待します」
よろしければこちらもお願いします。
対話形式で考察する『チート主人公は卑怯か否か?』(全2話+補足説明)
https://ncode.syosetu.com/n9399ez/




