前編・『遺伝子組み換え作物』とは?
※本文ラストにまとめがあります。お忙しい方はそちらの確認だけでも大丈夫で
す。
※4/6追記・サブタイトル変更しました。
※4/14追記・細かい修正を入れました。内容に変更はありません。
〜〜 登場人物紹介 〜〜
先手:まさか同級生に向かって「お母さん」と言い間違える事になろうとは
思ってもみなかった生ける伝説
後手:友人に対し、
「おっぱいの"い"を"お"に代えたら何て言う?」
と言う出題をした先駆者
※※ 前提 その一 ※※
本稿において、
遺伝子組み換え作物(genetically modified organism、GMO)
とは、『遺伝子組換え技術を用いて遺伝的性質の改変が行われた作物(Wikipediaより)』の事を指すものとする。
また名称は、分かりやすさを優先し一般的に用いられる『遺伝子組み換え作物』を基本とする。しかし、場合によっては『GMO』『遺伝子組み換え〜』などと複数の表記を用いる場合もある。いずれにせよ、意味は同じであるものと認識して頂いて構わない。
※※ 前提 その二 ※※
個人の趣味嗜好に関する点、個人の感情に起因する点などについては、
『お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな』
……の姿勢を筆者、読者問わず標準のものとする。
上記前提にご納得の上、お読み下さい。
「遺伝子組み替え作物(GMO)は危険だ! ゲロ以下のにおいがプンプンする
ぜッ――――ッ!!」
「確かに、遺伝子組み替え作物には問題点が存在している。今回はそれを探って行こうと思う」
「おう! ……まあ意識高い系な俺様は、遺伝子組み替え作物が使用された危険な食品なんて絶対に口に入れないようにしているけどな!」
「うん、それまず"不可能"だから」
「……はい?」
「例えば日本は、大豆の大半を輸入に頼っている。自給率(平成27年度)は全体で言えば7%、大豆油などの原料となる"油糧用"を除いた食品用に限れば25%ほどだ。
対して日本の大豆輸入先第一位(70%)のアメリカ合衆国では、国内で生産している大豆の80%以上が遺伝子組み替え大豆だ。
……つまり、間違いなく日本国内には遺伝子組み替え大豆が流通しており、俺も君も間違いなくそれを日常的に食している事となる」
「い、いや! 俺はしっかりと食品の表示ラベルを見て確認しているぞ!? その上で、遺伝子組み替えではない原材料が使用されているものだけを選んでいる!」
「ところが『食品表示法』の表示義務では、
『遺伝子組み替え作物が"主な原材料"(重量割合が上位三位以内の原材料)であ
り、かつ全重量の5%以上である場合に限り"遺伝子組み換え"を義務表示とする』
……となっている(遺伝子組み換えか否かが『確認されていない』場合は、"遺伝子組み換え不分別"の義務表示)。
解説しよう。
例えば、"遺伝子組み換えに由来しない原材料A、B、C"の重量割合がそれぞれ25%ずつ(重量割合が上位三位以内である)、"遺伝子組み替え作物"の重量割合が25%未満(四位以下)である場合、『遺伝子組み替え』表示は"不要"となる。
また、大豆及びトウモロコシの場合、重量割合5%未満の『意図せぬ混入』が認められている。いくら努力しても、大豆なんて細かい粒状の食品一粒一粒を『完全に分けるのは不可能』だからだ(『意図的』に5%未満混入させた場合は"遺伝子組み換え不分別"の表示義務)。
つまり『大豆(遺伝子組み替えでない)』表示は、『一切、全く、一粒たりとも遺伝子組み替え大豆が含まれていない』事を保証するものではない。
そして、大豆油や醤油などの場合、『そもそも遺伝子組み替え大豆が使用されているか否か?』の判別が"不可能"となってしまう。組み換えられた遺伝子、及びこれによって生じたタンパク質が、加工工程で除去・分解されてしまうからだ。そのため表示義務が発生しない。
例を上げると、『遺伝子組み換えでないばれいしょ(ジャガイモ)』を『遺伝子組み換え(GMO)大豆から作られた大豆油』で揚げた"ポテトチップス"の場合、
原材料名:ばれいしょ(遺伝子組み換えでない)、大豆油、〇〇、〜
……と、表記する事が出来る。
……まとめると、『遺伝子組み替え』の表記がないのは、必ずしも『遺伝子組み換え作物が使用されていない』事を意味する訳ではない。
ちなみに、『遺伝子組み換えでない』表示は任意だ。条件さえ満たしていれば、書いても書かなくても『どっちでも良い』事となる」
「」
「そして、前述の通り日本の大豆輸入先第一位の米国では、遺伝子組み替え大豆が全体の八割を占める。……この状況下において、君が遺伝子組み替え大豆を食していない可能性は"ゼロに等しい"と言い切って構わない」
「…………お……おのれ高野山!」
「いや真言宗関係ないから」
「何てこった……! 我々善良な消費者が、知らず知らずの内に遺伝子組み替え作物を食べさせられていただなんて……! 何と卑劣なる策略か!」
「いや、きっちりルールに従っている以上、別に卑劣も何もないんだが。
……まあ良い。ではその上で質問しよう。遺伝子組み替え大豆を食した経験のある君も俺も、『それによって一体何の問題が発生した』んだ?」
「……え?」
「え? じゃなくて。君の言うところの"卑劣なる策略"によって遺伝子組み替え大豆を食べさせられた、それで『健康面において、何の問題が出た』んだ?」
「……かゆい うま」
「Tウイルスは混入してないから。俺は遺伝子組み替え大豆によって『健康を害した』事など一度たりともないんだが?」
「い……いや、しかしだな! 遺伝子組み替え作物だなんて言う、『自然の法則に反した』ものを作るべきではないし、ましてやそんな『自然に反した』ものを食べるだなんて、一体どんな問題が起こるのか分からないんだぞ!?」
「……あのな。そもそもの話、自然界において『遺伝子が組み替わる』事なんてごく日常的に発生している事だぞ? 『交配する』って事は、つまり『互いの遺伝子を組み替えて、子孫を残す』と言う事なんだ。むしろ、『遺伝子を組み替えずに子孫を残す』手段の事を"クローン技術"と言うんだ。
さらに突き詰めると、そもそも『農業』と言う行為自体が『自然の法則に反する人為的、作為的な行為』でもあるんだぞ。
自然界において、土中の養分は『あらゆる植物』に対して行き渡る。対して農業とは、『特定の作物』にのみ土中の養分が集中するよう仕向ける行為だ。だから、対象作物以外の余計な植物に養分が吸われないよう、それらを"雑草"と称して駆除している。
自然界においては植物に吸われた養分はその後、草食動物→肉食動物→肉食動物の死骸を分解するバクテリア……と経由して行って、最終的には再び土中へと還元される。
その一方で農業の場合、作物に吸われた養分はその後人間や家畜などの栄養となるばかりで、土中へと還元されない。そのまま放っておくと土中の養分が一方的に失われてしまう――いわゆる"土地が痩せる"事になるから、それを補うために肥料を与えてやらなければならない。
農業は"自然に反し、人の手を加える"事によって初めて成立するものなんだ」
「」
「また逆に見方を変えてみれば、人間もまた自然界の生物である以上、人間の行い全てが『自然の営みの一部、自然の産物』であるとも取れる。
……こんな問題、言い方次第でどうとでも判断出来る。それを前提に事の善悪を問うなんて、せいぜい『個人の価値観』レベルに留めるべきだろう。他人に押し付けるようなもんじゃない」
「……いや、そう言う事じゃなくて。農業で人の手が加わるのは仕方ないとして
も、"作物そのもの"に人の手を加えるのは……」
「なあ。『ニンジン』って、一体"何色"をしている?」
「……? オレンジ色だろ?」
「その通りだ。……ただし、人為的に作られた種に限っては、だ。
自然界において、ニンジンの色は『白や紫、黄色や黒』だ。"オレンジ色のニンジン"は、十六世紀のオランダ人達の"品種改良"によって生み出された種であっ
て、自然界には存在しないものだ」
「」
「ニンジンだけじゃない。現在栽培されている大半の作物は、人間の手による品種改良が加えられて来た。だから、自然界に存在する原種よりも『サイズが大きい』『栄養価が高い』『病気に強い』……などの特徴がある。
俺達は普段から、人の手が加わったものを食している。この状況下において、
『自然に反したものを食べるべきではない』なんて理屈はあまりにも不合理、非現実的に過ぎる」
「」
「そしてトドメだ。『自然に反するから悪い』、これは論理学上の誤った理屈である『自然主義的誤謬』に該当する。"自然の状態"はあくまでも『〜である』だ。それを『〜でなければならない』に置き換える論法だな。
分かりやすい例を述べよう。
『"牛乳"は自然界において"仔牛"が飲むためのものだ! 人間が飲むのは自然に反している!』
……牛乳を人間が飲むと言う"自然に反する行為"を行う事に特別デメリットがない一方で、『栄養価が高い』『単品でも美味しい、加工すれば様々な食品を作る事が出来る』などの各種メリットが存在する。明らかに"自然に反した"方が、人間にとって利益となる。
同様に、
『人間は日中に活動して夜は寝る生き物だ! だから、コンビニの深夜営業は間違っている!』
『自然界においては弱者は淘汰されるのが普通だ! だから、障害者などの社会的弱者を救済するのは自然の掟に反する!』
……などの理屈も間違いだ。
ちなみに、『科学だから無条件で正しい』なんて事もないので注意が必要だ」
「」
「そもそもの話、品種改良って言うのは、例えば『栄養価が高いが病気に弱いジャガイモA』と『病気に強いジャガイモB』とを交配させ、『栄養価が高くて病気にも強いジャガイモC』を生み出す技術だ。
ここで重要なのが、『栄養価が高い』『病気に強い』と言った特徴は、"遺伝子"によって決まる。前に述べた通り、交配とは"遺伝子を組み替える"行為であり、品種改良とは人間にとって都合の良い『ジャガイモAの遺伝子』と『ジャガイモBの遺伝子』とを組み替えて、『ジャガイモC』を生み出す技術と言う事なんだ。
つまり品種改良と言うものは、古来より人類が行って来た、れっきとした『遺伝子組み替え技術』と言う訳なんだ。それを今更になって『自然に反する』なんて言い始めてもナンセンスだぞ」
「」
「ただし、品種改良によって出来るものは『ジャガイモAとB』の中にある様々な遺伝子を受け継いだ、雑多なジャガイモ達だ。人間の狙い通り『栄養価が高い』
『病気に強い』両方の遺伝子を受け継いだジャガイモCを作り、安定した種として確立させるには、種育目的に適った個体を選択した上で、何世代も交配を繰り返さなければならない。
対して、ここで言う遺伝子組み替え――"GMO"は、『栄養価が高いジャガイモA』に直接『病気に強いジャガイモB』から抜き取った遺伝子を加える。正確には『一度遺伝子を細胞から取り出して、その配列を試験管内でつなぎ合わせて新しい配列に変換した後に、再び細胞に戻してやる』事になる(『植物分子育種学研究グループ・分子育種とは?』より抜粋)。
これによって、世代を何代も重ねる事なく、狙い通り『栄養価が高く病気にも強いジャガイモC』を安定して作り出す事が出来るようになる。何だったら、ジャガイモ"以外"の作物から『病気に強い遺伝子』を取り出し、ジャガイモに加える事だって出来る。
つまりGMOとは、旧来の品種改良よりもはるかに効率良く望み通りの作物を作る事の出来る技術なんだ。だからこそ、現在世界中で研究が続けられているし、全世界のGMO作物作付面積だって年々増えていっているんだよ(2011年度の段階で一億六〇〇〇万ヘクタール)」
「…………い、いや……だけど……実際に遺伝子組み替え作物は危険だと言われている以上、何らかの問題点が……」
「……冷静に考えてくれ。それら『遺伝子組み替え作物は危険』と言った意見に、具体的な"科学的根拠"が添えられていた事はあったか? 一体何故、君は『遺伝子組み替えは危険』だと思ったんだ? その切っ掛けは?」
「…………えーと……」
「君が目にした、あるいは耳で聞いた意見の多くが『遺伝子組み替えは危険だから避けなければならない』……程度で終わってはいなかったか? 実は君の認識は、『具体的な理由は知らないけど、みんな言ってるからそうなんだろう』……程度のものなんじゃないのか?」
「」
「図星か。……実は、遺伝子組み替え作物の危険性について、科学的な見地から言及された意見があるんだ。米国科学アカデミーや世界保健機構(WHO)、米国医師会、欧州委員会、アメリカ科学振興協会……と言った、複数の著名な研究機関による信頼性の高い見解だ」
「!! ほ……本当か!? 是非とも聞かせてくれ!!」
「おう。……それら研究機関が下した結論だ。心して聞くと良い。
『遺伝子組み替え作物が安全ではないという証拠は存在しない』
……以上だ」
「」
「『遺伝子組み替え作物が安全ではないという証拠は存在しない』。大事な事なので二回言いました」
「」
「……つまりそもそも、遺伝子組み替え作物が危険である根拠なんてないんだ。逆に、遺伝子組み替え作物が安全である、食べても問題がない、と言う科学的根拠は存在している(解説は次回)」
「」
「大体、何故『食べると危険な代物』が日本に輸入されて、そのまま店で売られていると思ってるんだ? 答えは『安全性が確認されたから』だ。"輸入"って言うものは、近所のオバチャンが佃煮持って来るみたいに無警戒でスイスイ物の受け渡しが行われるものじゃないんだぞ。輸入された遺伝子組み換え作物は、きちんと検疫所を通って検査センターで検査を受け、合格を受けてから流通されているんだぞ」
「」
「と言う訳で、今回のまとめだ。
一、日本には普通に遺伝子組み替え作物(GMO)が流通している。
二、『遺伝子組み換えでない』表記は、遺伝子組み換え作物が"一切"使用されて いない事を保証するものではない。
三、遺伝子組み換え作物を食べても問題ない。
四、と言うか、遺伝子組み換え作物が危険である根拠はない。大事な事なので三 回目です。
……以上だ」
「」
「次回はGMOの安全性について、詳しく述べて行こう」