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頼義、徐福について語るの事

「徐福?徐福とは()()徐福のことか、始皇帝に仕えたという秦の仙道士の!?」



頼義の問いに「山の佐伯」たちは答えない。鬱蒼とした「森」の中に重苦しい霧が立ち込めるだけである。



「いかがした、答えよ山の佐伯よ!!」


「すまぬが、これ以上彼らは答えられぬ。いかんせん彼らは()()()()なのでな」



佐伯経範がなぜか申し訳なさそうに説明する。



「はあ?眠たがりって、なんだよコイツら人と話しながら眠りこけちまったっていうのか!?ンなアホな話があるか出てこいよコラ顔見世やがれ!!」



金平が怒ってそこらじゅうの木々に向かって隠れているであろう「彼ら」に悪態をつく。経範はそんな金平をなだめながら、



「そのために彼らの真意を貴公らに取り継ぐために私がこうして来たのだ。彼らはその、何と言うか()()()()()()()な所があるのでな。彼らに合わせていたらいつまでたっても話が進まぬ」



と言って経範がなんとも歯切れの悪い物言いで説明しようとするが、金平にはどうにも腑に落ちない。



「経範どのと申されましたね、あなたは本当は『佐伯』の民では無いのではありませんか?」



頼義の問いに佐伯経範はうなずく。



「いかにも。私の本名は『藤原経範』と言う。藤原秀郷(ふじわらのひでさと)流四代の末孫だ」


「藤原秀郷……俵藤太(たわらのとうた)の!?」



眼前にいる大男の意外な出自に頼義も金平も驚いた。なるほど身なりこそ当世風らしからぬいでたちではあったが、その顔つきは確かに倭人のそれであった。俵藤太こと藤原秀郷公は言うまでもなく承平の乱においてあの平将門を討ち果たした伝説の名将である。経範の説明によれば、彼の一族は将門の乱平定後に武蔵守、上野守、鎮守府将軍を兼任した秀郷より()()使()()を受けてここ常陸国に入り、初めは「那珂(なか)氏」を名乗っていたが、経範の父経資(つねすけ)が地元の豪族の姫を娶った時に名を「佐伯」と改めたのだという。


「佐伯」とは本来はこの地方に古くから根付いていた土着の豪族たちを示す呼び名であったらしく、「常陸国風土記」にも「小高(をだか)といふ名の佐伯」「手鹿(てが)といふ名の佐伯」などと言った記述が見られる。つまり、経範の一族は中央での立身出世を捨て、地方において地元に密着し勢力を伸ばしていたという事か。


「佐伯」の一族は「まつろわぬ民」の中でも比較的朝廷に対し友好的であったらしい。それでも彼らと積極的に縁を結んだのは経範の一族くらいのものだったという。そのため、地元の民たちも「佐伯」という民がどのような姿で、どのような風習を持っているものなのかを知っている者はほとんどいないまま現在まで至っている。



「彼らはあまり積極的に人間と……いや倭人と関わり合いを持ちたがらない。あまりにも風習が違いすぎるのでな。そこでその橋渡し役として我が一族がこうして骨を折っておるわけなのだが、それでも今回のような()()()()は多い。

これは常陸介様にくれぐれも申し開きしていただきたいのだが、彼らは決して朝廷やこの国に害を成そうとこのような行為に及んでいるわけでは無いのだ。今回の件についての補償は出来る限り尽くそう。だが今はそれどころでは無いのだ。『悪路王』は間違いなく再び現れる。ヤツの侵略を押し留めるためにも彼らの言うように『徐福』の力を借り受けねばならぬ。我が一族はその日のためにこの常陸国に住み着いたのだからな」


「悪路王を止めるために……!?それが、経範どのの一族が負った『使命』だと?」


「そうだ。そのために我が一族は都への望郷を捨て、この地に……」


「おうおうおう、それなんだけどよう、お前らさっきからソイツの事を知ってる前提で話を進めてるけどよう、そもそもその『徐福』ってのは何者(ナニモン)なんだよ?」



金平が二人の長話についていけず、とうとう口を挟んだ。



「…………」


「…………」


「……あ、そこからか」



頼義が今更のように言う。



「悪かったな!!どうせ俺はロクに書も読まねえ勉強もしねえ無知で愚かな木偶(でく)の坊ですよ!なんでえちょっとばかし学があるからって人のこと小馬鹿にしやがってよう、ふーんだふーんだ!!」



金平は子供のようにふてくされて草むらに転がり回る。頼義は拗ねる金平をハイハイとなだめながら「徐福」という人物についての説明を始めた。


歴史上、広大な中国大陸において初めて()()による統一国家である「秦」を築いた始皇帝は、その権勢を永遠に保つために自らを不老不死となさしめるべくあらゆる手段を講じたという。ある者は長寿の仙薬を練り、ある者は病を遠ざけるという果実を遠方より取り寄せ、またある者は体の健康を保つための体術などを極めた。


だがそれでも満足のいかぬ皇帝は「徐福」という方術師に伝説にある不老不死の仙薬を手に入れるために「蓬莱山」という神仙の住まう秘境を見つけ、その仙薬を手に入れるようにと命じた。


命令を受けた徐福は三千人の童子童女、多くの職工を率い、また金銀財宝や五穀の種籾を携えて「蓬莱山」を目指して出航したのだという。



「ふんふん、それでその徐福ってオッサンは手に入れたのかよ、不老不死の仙薬とやらは」



金平が耳をほじくりながら言う。あんなに大人気ない態度で説明を求めたくせにまるで興味なさげな態度である。



「それはわからないわ。でも徐福は少なくとも『蓬莱山』には辿り着いたと言われているの。それは各地に残る言い伝えがそれを示している」


「あん?どういうこった?」



金平がキョトンとした顔をする。頼義は笑って、



「わからない?この国が……倭国(ひのもと)こそがその『蓬莱山』なのよ」

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